Introduction (pp.ⅸ〜ⅹⅵ) のポイント
ソーシャリー・エンゲイジド・アートの理論化のプロセスが急速に進んでいるのに比べて、その実践における技術的要素についての議論はゆっくりとしか進んでいない。
この本の目的は、理論をめぐる論争やアイデアをうまく適用した事例を紹介しながら、「いかにアートを社会領域で用いるか」について、いくつかの手本を提供することである。
アートと教育のプロセスは類似している→社会にエンゲイジするアートワークへの挑戦は、教育分野の助けを借りればよりうまくいくだろう。
第二次大戦後の北イタリアのレッジョ・エミリアで始まった幼児教育法から学ぶ。
本書は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを規定する体系や実地訓練を提案するものではない。また、この種のアートのベストプラクティスを提示するものでもない。様々な分野(教育学、社会学、言語学、民族誌学など)から得られた知見に基づいて、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの実践に役立つ技術をまとめたものである。
ディスカッション
ソーシャリー・エンゲイジド・アートを美術史の文脈の中でどのように位置づけるかについては、ケスター、ビショップなど研究者の間でも議論があるので、今後それらの議論も踏まえていく必要があるだろう。
日本でもアート・プロジェクトの結果をどのように評価するのか、未だコンセンサスが形成されていないので、海外のケースを知ることは有用だろう。
教育分野をはじめ、文化人類学、地政学などの方法論はアートにも応用できるので、このような分野でアートにも関心がある人々とのネットワークづくりが重要だ。
レッジョ・エミリア方式については、もう少し詳しく調べよう。
この本は、理論書、マニュアル本、ベスト事例集のどれでもない。いわば、社会にエンゲイジするアート活動に関わる人にとっての“心構え”を書いたものにあたる。
(モデレーター:秋葉)