「2013年夏、イギリスが世界最大のアートギャラリーとなる」
この夏、街頭広告スペースを使ってイギリス中をアートで溢れさせようというプロジェクト『アート・エブリウェア(Art Everywhere)』が注目です。
『アート・エブリウェア』は、市民の投票で選ばれたイギリス美術を代表する美術作品を看板ポスターに印刷して、イギリス全土の街頭広告スペースを埋め尽くそうというプロジェクトです。期間は8月10日〜25日の2週間、少なくとも15,000カ所のビルボードやバス停などの広告スペースに展示されることになります。
イノセントグループ(イギリスで大人気のスムージーブランド)の共同設立者であるリチャード・リードと、ナショナル・ファンドレイジング・チャリティーアート・ファンド、テイト美術館のコラボレーションで始まったこのプロジェクトは、ポスター印刷会社と街頭広告の運営会社の協力で実施されます。
このプロジェクトの主役はイギリス中の市民の方々。ウェブサイトで公開されている候補作品のリストから、Facebookの「いいね」ボタンでお気に入りの作品に投票でき、人気トップ50位の作品が実際にポスターとなり展示されます。(7月10日に投票は終了)
また、クラウドファンディングによるサポートで「パトロン」となることもでき、3ポンド(約450円)の寄付金額が1枚のポスター作成のための資金になります。さらに15ポンド(約2,250円)以上の寄付で、英国人アーティストのロブ・アンド・ロベルタ・スミス(Rob and Roberta Smith)のエディション作品などがリターンとして送られるなど、キックスターター式の今風で親しみやすい仕組みが取り入れられています。
リードによる発案で始まったこのプロジェクトの狙いは、イギリス美術史上の傑作を分かち合える祭典とすること。そして何よりもアートが街を行き交う多くの人々の目に留まることによって、人々がギャラリーに足を運ぶきっかけになればと期待しています。
また、ロゴやエディション作品を提供し、プロジェクトを深くサポートしているロブ・アンド・ロベルタ・スミスは、プロジェクトが子供たちに良い影響を与え、美術を選択科目にしたり、美術学校にいくきっかけとなることを望んでいます。
サポートアーティストの1人、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)も「アートはすべての人のためにあるし、みんなアートの恩恵を受けられるべきだと思っている。自分たちがストリートで見たい作品を選べるなんて、イカしたプロジェクトじゃないか」とコメント。
日本でも個展が話題のフランシス・ベーコンを始め、クラシックからコンテンポラリーまで網羅した候補作品の充実さもさることながら、このプロジェクトの一番の魅力はなんといっても市民の人たちが関わるプロジェクトだということ。作品を選んだり、寄付をしたり、観賞するだけではなくて楽しくコミットできる仕組みで、市民に寄り添ったアプローチが好印象です。
思い入れのある作品やお気に入りの作品を選ぶ市民の声によって、企業の広告の代わりにアート作品を街の中に溢れさせる『アート・エブリウェア』プロジェクト。今年のイギリスの夏はきっと人々の豊かな気持ちで満たされるでしょう。
投票はこの記事の公開時点で締め切ってしまっていますが、寄付はまだまだ受付中。ウェブサイトで紹介されている寄付金額に応じたリターンは日本にも発送可能とのことなので、海の向こうにあるイギリスの街角にポスターを1枚贈る気持ちでサポートしてみてはいかがでしょうか。
(文:井出竜郎)
Art Everywhere
arteverywhere.org.uk
(イギリス全土で開催、2013年8月10日〜25日)
参照サイト:The Guardian “British art to take over billboards in plan to make UK world’s largest gallery”
http://www.guardian.co.uk/artanddesign/2013/jun/07/british-art-take-over-billboards