Various Locations Throughout Little Tokyo, Los Angeles: A Project Of Creative Capital
Ruin Mapは日米文化会館(Japanese American Cultural And Community Center)のビジュアルアーツ・ディレクター兼キュレーターである小阪博一氏がアメリカ最大の日系コミュニティであるリトルトーキョー(ロサンゼルス)に暮らす日系アメリカ人一世、二世たちを巻き込み制作した500点に及ぶ木版画をレストランやスーパーマーケットなどリトルトーキョーのあらゆる場所に展示しようという地域密着型パブリックアートプロジェクトである。
そもそも、小阪氏がこの企画に乗り出したきっかけは、小学三年時の彼自身の経験による。当時の担任教師が、クラスの子供たちに彼らの祖父母に古い街の地図を描いてもらうよう提案した。数日後、クラス全員がそれぞれの地図を持ち寄り、それらをつなぎ合わせ、一枚の大きな地図にした。その時できた地図の美しさが、小坂氏の脳裏に焼きついているという。
それから、数十年後、小阪氏は場所をロサンゼルスにかえ、再び地図の制作に取りかかった。リトルトーキョーの日系アメリカ人一世、二世のもとを訪ね、小さな紙に彼らの記憶に残っている幼いころの街の様子を描くよう依頼して回った。はじめは躊躇していた人々も小坂氏との会話を通して、懐かしい記憶を生きいきと蘇らせていったそうだ。中には、植木の一本一本や近所に住んでいた幼馴染にまつわるエピソードを話してくださる方もいた。
徐々に集まりだした地図に長い人生を歩んできたものにしか成し得ることのできない究極の美を見出した小阪氏は、何らかの形でそれらを芸術作品として残そうと木版画作製を決意する。老人たちの脳のしわと木の年輪を重ね合わせ、彼らが思い出を心に刻むごとく、一彫り一彫りを大事に木版にそれを刻み、特注した和紙に一枚一枚刷っていった。一年半の月日を費やし、木版画の数は現在500点にも及んでいる。そして、今年5月、あくまでもコミュニティ全体のアートプロジェクトでありたいという小阪氏の強い想いから、それらの作品はリトルトーキョーの寺院、バーバーショップなどいたるところで公開される。地図製作に関わった人々はもちろん、それらの展示に協力する店舗や街の人々にも小さな幸せと何らかの余韻を残すことは間違いない。そして、わたしたち通りすがりのものにとっても、思いがけずそんなさりげないアートに出会うのは一つの楽しみになるだろう。
(Junko Sudo Public Art Studies Program University Of Southern California)