コミュニティ・アートの国際コンペティション

Community Art Collaboration 2002

すべてのひとびとが民主的に集うことのできるパブリック・スペースとは何か?
みんなが等しく共有し存在できるコミュニティとは何か?
これらについて問いかける国際コンペティション「Community Art Collaboration 2002」が開催された。


近年、世界のグローバル化現象が急激に進み、文化の均質化した状態が地球上に拡がっている。比較的小さな地域に異なる文化的背景を持つ国々が共存してきたヨーロッパでは、現在、移民の問題や貧困、暴力、差別といった都市問題、地域による格差といった諸問題をかかえながら、多様性を持続しひとまとまりとしてのヨーロッパを統合しようとする動きに向けての模索が続けられている。

そこでは、差別を排除して、平等、共有という理念に基づき文化の多様性を発現させるひとつの手段として、アートの役割が注目されている。実際に諸問題を抱えるコミュニティのなかで、アーティストが中心となったインタラクティブな交流を実現させ、そのプロセスに住民が参加、その体験を共有してゆくことが期待されている。

このような現状に即し、本当の意味ですべてのひとびとが民主的に集うことのできるパブリック・スペースとは何か、みんなが等しく共有し存在できるコミュニティとは何かを問いかける国際コンペティション「Community Art Collaboration 2002」が実施され、授賞式と受賞作品、候補作品を紹介する展覧会、シンポジウムが開催された。 (2002年9月、アントワープ、MuHKAにて)

これを主催したのは、ベルギーに本拠をおく文化財団Evens Foundationである。この財団は、ヨーロッパの多様な文化や社会について深く尊重すること、さらにはヨーロッパの統合に持続的に貢献することをその設立目的としている。その実現に向けて、芸術、科学、文学といった文化相互間のさまざまな分野が協働で作業することを理念として掲げている。

このコンペティションの実施にあたっては、特に60年代から都市空間に数多く設置されてきたパブリック・アートの活動に対して、より今日性を反映する新たな方向性を模索することが目指された。そのために、参加者はヨーロッパの都市や地域に特定された現実的なプロジェクトを提案することが求められ、加えてアーティスト同士、アーティスト集団、または異なる分野の人々のコラボレーションが義務づけられた。

国際的に活躍し高く評価されている現代美術の学芸員が審査員として招待され、財団とともに先ず候補者を提案した。この指名募集に対して、19のアーティストとグループからプロポーザルが提出された。

候補作品はすべてヨーロッパの実際の都市を実験場にし、幅広いテーマをカバーしている。なかには住民がだれでも何の目的でも使用、参加できるパビリオンを市内各所につくり、ネットワークしようとする計画、さまざまなトレードマークのTシャツを制作・販売するプロジェクト、また暴力や差別の根絶をテーマとする50人余の女性によるファッション・パフォーマンス、さまざまな文化やその現状を伝える現代アート・マガジンを継続的に発行しようとする計画など、自分たちのおかれた環境、他の地域やひとびとの関係性について正面から取り組んでいる。

審査の結果、パリを拠点とするグループ、Campement Urbainが受賞作品に選ばれた。彼らはグラフィック・デザイナー、アーティスト、建築家、社会学者によるチームで、そのプロジェクト”Je” et “Nous”は”私”が”私たち”の間で受け入れられるための新たなパブリック・スペースを創造しようとする。それは機能など何もない、生産性もない、しかしひとりが、そしてみんなが享受し保護される空間だという。舞台はパリの郊外都市Sevranというまち。この移民の地域は、貧困、暴力、差別という困難な状況でよく知られている。
彼らは個人の存在と精神的な生活のための場所について住民にさまざまな問いかけを行う。

糸にしがみついているような空間とは?
そこに座ったり横になったりできるだろうか?
そこにあなたひとりで行けるだろうか?
生活を変えることのできる無害な方法を知っているか?

ひとびとはこのような問いかけに答えるという知的な方法によって、自分たちのなかにある擬ユートピアへの想いを馳せる。さらにはその議論の過程で、社会、文化、個人的な生活を活性化するための実現可能な新しい展望が徐々に開けてゆくという。それは都市生活とアート、社会の現実と知的な思索との関係性を考える上での革新的な事例を提供してくれるだろう。それはまさにこの賞の目指すところであった。

このコンペティションのユニークなところは、受賞作品自体の業績に10,000euroが贈られることに加えて、次年度には実際にプロジェクトを実現するために50,000euroが授与されることである。また、財団も現実的なサポート、運営面での協力を提供してゆくという。この実現段階については今後も引き続きリポートしていきたいと考えている。 

現在、アジアの諸国、中国、東南アジア、台湾、日本などを巻き込んで大騒ぎとなっているSARSの問題ひとつにしても、国や文化の違いによる対応について、摩擦が起きているのが現状だ。多様な文化的背景を有するアジアの国々の交流や理解を今後一層深める意味でも、このようなプロジェクトは将来の参考となるだろう。
(H・S)

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