ART × 公開空地
― 都市に介入するアート・コンペティション ― 【結果発表】

テーマ 「本とまち」


審査委員   
岩井 成昭 (秋田公立美術大学教授/アーティスト)
佐藤 慎也 (日本大学理工学部建築学科准教授/建築家)
藪前 知子 (東京都現代美術館学芸員)
立川 資久 (東京都千代田区区民生活部長)
瀬川 昌輝 (昌平不動産総合研究所 代表取締役)


審査総評

2審査風景若手アーティストの支援を目的とした『ART × 公開空地』コンペティションの審査を厳粛におこなった結果、3名の受賞者を決定した。
関東のみならず東北や関西からも応募が寄せられ、インスタレーション、パフォーマンスなど、バラエティのある作品が集まり、若々しいアイディアに溢れた内容であった。
課題としては、作品のアイディアと場所の関連性が希薄であった点があげられる。遠方からの応募者は致し方ないとしても、近郊の応募者は提案の前に一度は対象敷地を訪れ、その場の意味や空間の特色を読み込み、色や形、大きさなどをもっと熟考してほしかった。
また、応募者が自身のやりたいことを提案するだけでなく、この場所でなければできない必然性あるアイディアを考案し、コンセプトを深めるよう励んでほしい。
今後も都市の公開空地を舞台として、アーティストたちがユニークな作品を発表していくことを期待したい。


グランプリ1点(賞金200,000円)

「駅前ラブストーリー ロミオとジュリエット編」 関川航平と栗原千亜紀

駅前ラブストーリー1.20140127

【作品の形態】パフォーマンス

【作品コンセプト】
御茶ノ水駅前は、通行人が多く、そのほとんどが、会話もなくただすれちがうだけである。そこで、通行する人々にアテレコ(動きにあわせて音声をふきこむ)することで、日常の世界から、物語の世界へとシフトさせる。駅前広場にあるモニュメントを活用して、その高さをロミオとジュリエットに出てくるジュリエットの立つバルコニーに見立て、通行する人々を次々にロミオにする。無理やり駅前の空間を“ロミオとジュリエット”として『読む』ことでささやかな関係性の変化を生む。

【審査委員からのコメント】
多数の人びとが途絶えることなく行きかう公開空地という特性が良く生かされていた。通行人の不意を打つように、人びとを突然に巻き込み、一時的に役者としてしまう仕掛けがおもしろい。日常的な街の空間に、誰もが知っているような著名な物語をかぶせていくことで、街を非日常的なものへと変質していくアイディアと、明るくユーモアに満ちた点が評価を得てグランプリとなった。

準グランプリ 2点(賞金 20,000円)

「CaPool」 岩塚一恵+酒井亮憲

Capool20140127

【作品の形態】パフォーマンス/インスタレーション幅900cm×奥行600cm×高さ800cm

【作品コンセプト】
「CaPool」はQua Pool(水たまりのようなエリア)を語源とする。街中に置かれた一組のテーブルと椅子、それらを覆う薄膜があがり、ある瞬間に内部が露になる。会話をし、食事をし、読書をしている「ひと」がいる。文字を書いて誰かに伝える「ひと」がいる。そのような行為の中心にある象徴的な空間が、公開空地において通行人や観客を吸い寄せ、滞留させ、いつの間にか観客が作品の内部に存在するようになる。薄膜が降りて捉えられた観客は一瞬躊躇するかもしれないが、私たちは、この場所で出合う誰かと空間を共有し、記憶を共有する。このプロジェクトは、記憶の伝達行為を通じた共有の形の新しい方法を通して、この場で「共有した時間」が相互作用を生み、街へ溢れ出していく過程の記録である。

【審査委員からのコメント】
街の風景を異化し、変容させる手法がユニークであった。実現化するには様々な条件や規制があるが、通常は通行の場である駅前空間に一時的でも人びとが留まれる空間をつくりだすアイディアが斬新であり、今後に期待したい。

「本のまちへ続くカーペット」 小川泰輝

本のまちへ続くカーペット20140127

【作品の形態】立体(木材・紙)幅100cm×奥行1200cm×高さ70cm

【作品コンセプト】
本の材料を広場に広げる。
本、つまり紙とインクで構成されるテキストの成り立ちを示す。
広場から橋に向かって敷いていく。
まちの特異点を接続するはたらきは、本を読むことで得られる感覚と似ている。

【審査委員からのコメント】
本コンペのテーマである“本”を作品化したアイディアは、老若男女が楽しめるものであった。シンプルな表現の中にも御茶ノ水が本の街であるという文化的な本質をうまく表わしている。提案された展示場所がややもすると通行の妨害になるため、置き方にもうひと工夫あるとより良いものとなっただろう。

特別賞 1点(記念品)

「にーてんご」 横山千夏+江町美月

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【作品の形態】 
立体(針金)7つのワイヤーワーク 幅50〜200cm × 奥行50cm × 高さ50〜180cm

【作品コンセプト】 
御茶ノ水にゆかりのある小説家・夏目漱石の代表作「吾輩は猫である」の吾輩が、御茶ノ水のまちを歩きます。私たちは吾輩と共に針金でできたオブジェの間を進んでいきます。2次元でもない、3次元でもない2.5次元のような不思議な世界を表現し、平面でありながらも日中は陽射しで地面に影を落とし、夜はライトを照らすことで陰影のある立体的な空気を感じさせます。一日を通して変化のある風景をつくりだします。

【市民からのコメント】 
「応募作品の中で一番現実的(天候などを考慮すると)で幅広い年齢層が楽しめる点を評価しました。」「斬新で見やすく、とても良かった。」「テーマの“本とまち”がとても良く表現されていて、老若男女が楽しめる作品だと思う。」

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