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P+ARCHIVE

2024.09.05

9.5mmフィルムに関する文献、資料の調査

以前P+ARCHIVEで実施したアーカイブツアーで国立映画アーカイブ相模原別館を訪問し、9.5mmフィルムについて話を伺いましたが、その普及過程や撮影者の存在など、当時の歴史的な背景についてはリサーチが必要でした。そこで、国会図書館などで文献を探し、小型映画が普及していった1920年代当時の背景を理解するために、小型映画研究者による論文や当時の写真雑誌を調査しました。

9.5mmフィルム撮影競技会についての記事がある当時の写真雑誌「アサヒグラフ」の誌面

9.5mmフィルムの普及とアマチュア愛好家の存在

1920年代、銀座にあった伴野商店や十字屋楽器店が中心となり、フランスから9.5mmフィルム(パテ・ベビー:Pathé-Baby)を輸入し販売していました。この新しいメディアはアマチュア愛好家の間で広まり、全国各地に同好会が設立されました。彼らは機関誌の発行や撮影会などのイベントを通じて積極的な交流を行っていました。9.5mmフィルムの映像記録はたくさん作られており、例えば35mm規格のオリジナル版が現存しない幻の映画が9.5mmフィルムに残されていた例など、貴重な映像記録が現代にも残されています。

しかし、1930年代後半になって戦争の影が濃くなった影響で同好会の活動は縮小し、戦後には8mmや16mmフィルムが普及したことで9.5mmフィルムは主流から外れて、規格としては廃れていきました。現在でもフランスやアメリカではフィルムが製造されているようですが、日本国内では戦前の短い時期に普及していたユニークな映像メディアであると言えるでしょう。

国立映画アーカイブ図書室での資料調査

石井漠のダンス映像がこういったアマチュア映像作家が参加する撮影会での記録であったことを考慮し、アマチュア同好会の機関誌に注目しました。これらの機関誌は、日本パテーシネ協会が発行していた「日本パテーシネ」(1931年〜1934年)や、日本小型映画協会が発行していた「小型映画」(1929年〜1931年)などがあり、当時の背景について文字情報で読み解くことができます。

国立映画アーカイブ図書室にはこれらの機関誌が多数寄贈されており、閲覧申請を行い調査を進めました。ただし、これらの機関誌はダンスを記録する目的で発行されたものではないため、どの号にダンス関連する情報が掲載されているか、データベース上では「ダンス」というキーワードで検索しても探すことはできません。そのため、機関誌を1冊1冊、ページをめくりながら記事を読み込んで調査していく必要がありました。

各号には、現像液の研究やタイトル画面の入力方法など技術的なトピックに関するものや、当時の著名な映像作家が集まる座談会を開催するなど、とても積極的な発信がされていて、アマチュアとは思えないようなクオリティで驚かされる内容です。当時の最新のメディアであった9.5mmフィルムに対する人びとの熱狂を感じられました。

機関誌『パテーシネ』第四巻第六号に掲載された9.5mmフィルム映画総目録。右ページには伴野商店の広告がある。

機関誌の記事や広告などから、撮影会などのイベントは全国で定期的に開催されていたことが確認できました。その中には、ダンスや舞踏に関する記述は確認できましたが、モダンダンスが日本に導入されたばかりだったため、伝統的な日本舞踊やお祭りでの踊りという内容が多かったようです。それでもいくつかの糸口を見つけることができましたし、映像の撮影者と最も密接な機関誌から得られる情報は多く、今後も機関誌の調査は可能性があることを確かめられました。