2023年度に、NPO法人ダンスアーカイヴ構想(DAN)から依頼を受け、「9.5mmフィルム調査」に協力しました。この調査は、文化庁の舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業(EPAD: Eternal Performing Arts Archives and Digital Theatre)の一環として実施されました。
調査のきっかけは、島田市図書館に収蔵されている「清水文庫」に含まれる9.5mmフィルムコレクションです。静岡県島田市在住のアマチュア天文学者、清水真一氏(1889-1986)が撮影・編集したこのコレクションには、1926年10月3日の「ベビーキネマ撮影競技会」の記録が残されています。東京・三越百貨店屋上で撮影されたこの映像には、日本モダンダンスのパイオニアである石井漠が踊る「マスク」と「グロテスク」の上演が映し出されています。「グロテスク」には後に「半島の舞姫」と呼ばれる、来日間もない崔承喜も出演している貴重な記録です。この映像は日本国内で撮影された最初のモダンダンス映像とされ、デジタル化映像が公開されています。
島田市図書館 清水文庫
https://www.library-shimada.jp/shimizubunko/
1920年代、日本には9.5mmフィルム撮影カメラが西洋から導入されました。当時、映画撮影に使用されてた35mm幅のフィルム規格は非常に高価でした。そのため、欧米のフィルムメーカーは映像撮影を一般に普及させるために、9.5mmや8mmといった幅の小さいフィルム規格を開発していきました。この規格は「小型映画(small gauge film)」と呼ばれ、この規格によって映像撮影が一般に広く普及しました。日本でも多くのアマチュア映像作家が誕生し、彼らはカメラ愛好家たちによる協会を作り、活発に情報を共有していました。
同じ1920年代に、西洋からモダンダンスも日本に導入されました。この時期には、カメラの宣伝を兼ねた撮影会が全国で開催され、ダンスがしばしば被写体として選ばれていたことが当時の雑誌広告からも確認できます。ダンスは動きがあり、写真では捉えにくい動きを映像で記録するには理想的な被写体だったのでしょう。このように、日本の映像撮影とモダンダンスは黎明期を共に歩み、約100年の歴史をかけて発展してきました。
上記で示したように、石井漠のダンス映像はとても貴重なものです。そして、小型映画が普及し始めたこの時期、他にも同様の映像が残されている可能性があり、今回の調査はそのフィルムの所在を特定することを目的としていました。しかし、フィルムは劣化しやすく、保存が難しい媒体です。その歴史の中では関東大震災といった自然災害や先の大戦における空襲を経て、現存するフィルム資料は限られていると考えられます。
まさに消失の危機に瀕する映像記録に光を当て、特にダンス映像にフォーカスして探すプロジェクトに取り組むことになりました。調査は、まず全国のフィルムライブラリーや博物館、大学などに保管されている映像資料を調べ、リストにまとめるところから始めました。その基盤的な調査をもとに、今後の調査に向けた準備を進めていきました。