文化の家でのアーカイブ構築の実践は、コロナ禍以降、リモートでの打ち合わせを中心に意見交換を行い、定期的に現地を訪問しながら進捗を共有して進めていきました。
法人文書や契約書など、重要な意思決定が記録されたアーカイブ資料の整理は進んでいますが、こういった資料は公開の準備に時間がかかります。一方で、保管スペースには文化の家の過去の刊行物が多数ストックとして残されています。これらの刊行物は、組織の活動を伝えるために丁寧にまとめられたものであり、活動を俯瞰する上でアーカイブ資料として保存する価値があります。ただ、スペースには限りがあるので保管する上限を定め、必要部数以上をアーカイブとして残す必要はありません。
このような刊行物は発行当初から公開されているものであり、外部に活動を伝えるために有効に活用すべきです。そこで、バックヤードにストックとして保管されている資料のうち、文化の家が発行する刊行物のように公開しやすいものから優先して市民や外部の利用者に公開することを提案しました。
文化の家の皆さんに検討いただき、館内2階の情報コーナーに「アーカイブコーナー」が設置されました。館内で誰でも自由に入れるフリースペースの一角で、来館者が気軽に閲覧できるようになっています。文化の家が主催する事業のチラシなどを収納したバインダーが置かれ、「アーツライブラリー」の書棚には関連書籍が置かれています。
アーカイブに取り組むということは、目録の作成、適切な保存措置、資料ごとの公開範囲の設定など、とても時間がかかる作業です。文化の家のように劇場としての事業を継続しながらアーカイブを進める場合、すぐに資料を公開できる体制を整えるのは簡単ではありません。そのため、アーカイブ活動が外部から見えにくくなるというジレンマが生じます。アーカイブコーナーのように、公開しやすい資料から優先して公開していくことは、アーカイブの重要なアウトリーチの一環として、取り組みを外部に可視化するための有効な手段です。
将来的には、資料リストを公開して公開資料を外部からでも分かるようにしたり、公演映像を鑑賞できる環境を用意することも考えられます。少しずつアーカイブコーナー取り組みを充実させることで、市民にとっても価値ある場所として愛されていくことを期待しています。