福武財団が2023年3月に刊行した『島の人びとのことば-ベネッセアートサイト直島によせて』をお送りいただきました。ベネッセアートサイト直島の活動が展開されている直島、豊島、犬島で暮らす24名の島民にインタビューし、その内容を冊子としてまとめています。
アートにふれるために島外から訪問する多くの方々にとっては、日本の原風景と言える懐かしい景色の中に現代アートが立ち並び、島民がアートについて解説してくれる、そんな島の暮らしと現代アートが共生している直島、豊島、犬島の風景は大きな魅力の一つです。一方で限られた滞在時間の中では、島民の暮らしや思いについて知ることは難しいです。この本はそのような島での暮らしを丁寧に聞き書きしたとても貴重な記録になっています。
それぞれの方の話を読んで印象に残るのは、ベネッセアートサイト直島についてではなく、そのお一人お一人の生い立ちや考えてきたことを丁寧に聞き取る、「生活史」とも言えるかたちで24名のお話が編み込まれているということです。
そこには過疎や島の産業など、都市からは見えにくい地域固有の課題も語られ、アートの文脈だけでなく、地域史という観点からも重要なオーラルヒストリーと言える内容になっています。それぞれの生活史の中でベネッセアートサイト直島との関わりを知ることも、この本の興味深い視点です。
アート・プロジェクトをアーカイブする、ということはプロジェクトの内側だけでなく、その周辺に関わる人びとにもまなざしを向けて話を聞くことは本当に大切なことだと気づくことができる、とても良いドキュメントとなっています。
なお、本冊子は非売品です。冊子に関するお問い合わせは福武財団までご連絡ください。