「ベネッセアートサイト直島(BASN)」は、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が瀬戸内海の直島、豊島、犬島で企画・運営を続けている事業です。この活動は1980年代後半、直島から始まりました。BASNでは、国際的な知名度を得てきた活動を記録として残していくためにアーカイブの取り組みを始めています。
その取り組みのために福武財団の組織内に「アーカイブセクション」が設置され、過去の資料の整理・保存に取り組んできました。そのなかで、オンゴーイングのプロジェクトで発生する資料の保管方法や記録の残し方、アーカイブ資料の活用方法などに課題があることからご相談をいただき、現状を視察する調査を実施することになりました。
事前ミーティングを経て、2018年3月15日(木)と16日(金)の2日間にわたり直島を訪問しました。島内の複数箇所に立地する事務所を訪れ、それぞれの所内でどのように資料を保管しているのか視察していきました。視察中はアーカイブ担当の金廣有希子さんに案内いただき、どのような課題を抱えているのかを詳しくお聞きすることができました。
BASNは30年近く活動を続けており、近年は瀬戸内国際芸術祭実行委員会の構成団体の一つとして芸術祭の開催に携わるなど活動の規模を拡大してきました。直島だけでなく複数の島で同時進行で活動が展開される中、組織的な運営で記録を適切に管理することが求められるようになりました。そのため、2015年に組織内にアーカイブ部門を設置し、アーカイブの取り組みを開始しました。
視察を通じて、BASNの要であるアート制作に関わる資料整理はある程度進んでいることが明らかになりました。一方で、直島を中心に近隣の島に分散する組織や複数部署の間での記録管理、写真や映像記録の保存、さらにはデジタルデータの保存など、特にオンゴーイングの活動の記録をどのように残すかという点に大きな課題が残っていました。
現場では課題点についてお話を伺いながら、BASNが目指すアーカイブのビジョンについても共有いただきました。そのビジョンを目指してどのようなことを実施していくか、視察中にも金廣さんを始め財団の皆さんと意見交換を重ねました。
2日間の視察調査で明らかになった課題点と今後に向けた提案事項をレポートにまとめ、福武財団に提出しました。
当レポートでは、A&Sがこれまでさまざまなアート・プロジェクトの現場で得られた知見を活かし、記録のライフサイクルに基づいた資料保存ルールの策定や、発行物をはじめとするアーカイブ資料の活用方法など、課題に対する具体的なアクションを提案しました。
私たちは、アーカイブの本質を損なうことなく、現場のリソースに合わせて実践しやすい方法を考えることを重視しました。今回の視察は短い日程でしたが、表現の現場で工夫して取り組むBASNのアーカイブ活動から多くのことを学べる貴重な時間でした。
国内のアート団体で、組織内にアーカイブの担当部門を設置し、本格的にアーカイブ活動に取り組んでいるところはまだ数が限られています。BASNの取り組みは先駆的な実践として多くの団体にとって参考になることが期待できます。私たちも継続して支援をしていきたいと思います。
視察では、直島の各所で展開されているアート作品を鑑賞できました。そのなかの一部を写真で紹介します。