大きくなったアーカイブセンターの本棚に、新しい洋書が30冊加わりました。今回は、ソーシャリー・エンゲイジド・アート関連の新刊書に加え、1990年代に出版されたパブリック・アート関連のマストリード書も入っています。ぜひ一度、のぞいてみてください。
以下、その一部を紹介します。
Critical Issues in Public Art: Content, Context, and Controversy(1998)
Harriet Senie編
パブリック・アート研究の第一人者、ハリエット・シニーが編集。ワシントン・モニュメントから、ベトナム戦没者慰霊碑、傾いた弧、エイズ・メモリアル・キルトまで、アメリカのパブリック・アートの意味するもの、成立の背景、そして論争が、学者やアーティスト、キューレーターらによる22編のエッセイで綴られる
Culture in Action: A Public Art Program of Sculpture Chicago(1995)
Mary Jane Jacob他 著
「多拠点、多メディア、プロセス重視の短期的プロジェクト」として1992~93年にシカゴで行われた「カルチャー・イン・アクション」のドキュメント。ソーシャリー・エンゲイジド・アートの先駆的事例として知られる歴史的イベントの貴重な図録である。著者のメアリー・ジェイン・ジェイコブはこのプロジェクトのキューレーターで、都市論で知られるジェイン・ジェイコブスとは別人。
One Place after Another: Site-Specific Art and Locational Identity(2004)
Mion Kwon著
美術史の研究者である著者が「サイトスペシフィック」をキーワードに、1960年代後半以降におけるアートと「場」の関係を論じた名著。上記のプロジェクト「Culture in Action」の内幕を取り上げているのにも注目。
Art, Space and the City(1997)
Malcolm Miles著
コンテンポラリー・アートと都市開発の関連に注目して、20世紀後半以降の社会文化論を展開しているマルコム・マイルスの名を一躍有名にした著作。アートワールドの外側から見た目でパブリック・アートとらえ、アートとデザインが都市の未来にどのように貢献できるかを論じている。
Art in the Public Interest(1993)
Arlene Raven 編
フェミニストの歴史家であるアーリーン・レイヴンが編集した本書は、「もはやパブリック・アートは馬上の英雄ではない」という一文から始まり、1980年代に勃興したアクティビスト・アート、ソーシャリー・コンシャス・アートを熱く伝える一冊である。スザンヌ・レイシー、ルーシー・リパード、キャロル・ベッカー、リンダ・バーナムら、女性の論客が多数寄稿している。
What We Made: Conversations on Art and Social Cooperation(2013)
Tom Finkelpearl 編
クイーンズ美術館(ニューヨーク)のエグゼクティブ・ディレクター、トム・フィンケルパールは、ニューヨーク市のパーセント・フォー・アート事業のディレクターを務めた経験を持ち、パブリック・アートの批評家としても知られている。本書は、アーティストやその協働者へのインタビューが中心になってるが、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(本書ではコーポラティブ・アート)のアメリカでの歴史を概観するイントロダクションは読み応えがあり、スザンヌ・レイシーが推薦文に「イントロだけでもこの本を買う価値がある」と書いているほど。
Relational Aesthetics(2002)
Nicolas Bourriaud著
フランス人批評家でキューレーターのニコラ・ブリオーが、1998年にフランス語で刊行した著作の英語版。「リレーショナル・エステティックス(関係性の美学)」という言葉が美術界を席巻するきっかけになった一冊である。およそ美術展とは思えない表紙の写真は、リクリット・ティラヴァーニャの「無題」。
The One and the Many: Contemporary Collaborative Art in a Global Context
Grant Kester著
1990年代末からソーシャリー・エンゲイジド・アート(本書ではコラボラティブ・アート)のプロジェクトが世界的に増加し、今ではこの現象がアカデミックな研究テーマになっている。グラント・ケスターは、その中心的研究者の一人で、アートのコンセプトが「アーティストがあらかじめ描いたビジョンを実現するもの」から「参加者とのクリエイティブな協働のプロセス」へパラダイムシフトしていることに着目し、その歴史的、社会的意味を論じている。
Artificial Hells: Participatory Art and the Politics of Spectatorship(2012)
Claire Bishop著
ブリオーの“関係性の美学”を批判し、ソーシャリー・エンゲイジド・アート(本書ではパーティシパトリー・アート)の支持論者に挑戦し続けている美術史家クレア・ビショップが、SEAの歴史と理論を概観し、独自の分析視点を提示している。
Memorial Mania(2013)
Erica Doss著
ここ20~30年ほどの間、アメリカ各地に、出来事や人を記憶にとどめるための像や建造物が続々と設置されている。さらに、恒久的な記念碑だけでなく、悲劇の現場には必ずといっていいほど自然発生的でテンポラリーなオブジェが出現する。著者はこの現象を“メモリアル・マニア”と名付け、人々を記念や追悼の可視化に駆り立てる「パブリック・フィーリング」を様々な角度から分析している。パブリック・アートを素材とした、興味深いアメリカン・スタディである。
M.A