9月9日、第3回目のレクチャー「メディアとアーカイブ」が行われた。NTTインターコミュニケーション・センター[ICC]学芸員の畠中実氏をお迎えし、「アート作品のドキュメンテーションとその公開の有効性」についてお話頂いた。前回のレクチャーでは、残された資料をどうアーカイブしていくのか、という視点からお話を伺ったが、今回は、何をどう残していくのか・残せるのか、という観点でのレクチャーとなった。
前半は、作品のドキュメンテーションを残していくことの可能性、有効性について伺うことができた。
20世紀以降、現代の美術の特徴として、美術館やギャラリーという展示場所に収まらない、保存に向かない作品があるということが挙げられる。たとえば、インスタレーション、メディア・アート、パフォーマンス。不定形・不安定な素材でできている作品、形をもたないコンセプチュアルな作品もある。こうした、作品がそれ自体として保存できないものや、保存が困難な作品を残していくには、作品自体を収集・保存するという方法だけでなく、別の残し方を考えていく必要がある。
マルセル・デュシャンの《泉》(1917)をはじめ、実物は残っていないが、作品が写真で記録され、そこから制作された複製品が保存されるという例がある。また、「もの派」の作家、関根伸夫の作品《位相―大地》(1969)は、制作ドキュメントの記録写真によって、2008年に再制作が行われたそうだ。
構想のみで実物は制作されなかったウラジミール・タトリンの《第三インターナショナル記念塔》も、現在では模型やコンピュータ・グラフィックによって体験することができる。
作品のドキュメンテーションを残していくことによって、作品が存在した記録となることはもちろん、作品の資料となり、研究対象となり、作品が再制作・復元される可能性をもつことができる。作品のオリジナルを残しつつも、他の残し方(アーカイブ)を考えることで、作品生命を持続する可能性を高めることができるという。
後半は、ICCで実践されているアーカイブについてお話頂いた。
ICCでは、2004年より映像アーカイブ「HIVE(ハイヴ)」をつくっている。ICCの活動の記録を残していくという目的をもつ一方、参照可能性が高まることで今後の研究に役立つことを目指しているそうだ。映像は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスに準拠してダウンロード可能になっている。海外のアートセンターで利用されているお話も聞くことができ、アーカイブを公開することの有効性に触れることができた。
なお、「HIVE」公開までのプロセスにもポイントがあるようだ。収録ではすべてのものを収録し、編集時に間違いの修正や著作権の関係でカットをして公開できる形にする。公開においては、フィルタリング(分類したりまとめたり)をせず、ニュートラルな形でサイトにアップしていくそうだ。残せるものは可能な限り残していき、後で整理してまとめていくのはアーキヴィストの仕事となる。
今回は、アート作品の形態が時代とともに変容していく中で、作品のドキュメンテーションを残し、アーカイブを公開していくことの意義について伺い知ることができた。今後のゼミで実際にアーカイブを構築するにあたって、その目的や可能性を受講生一人ひとりが再考する機会になったのではないだろうか。
(P+ARCHIVEゼミ受講生 藤原寛子)
(写真:廣瀬遥果)