ART × 公開空地 ― 都市に介入するアート・コンペティション ―
グランプリ受賞作品の発表とアーティス・トーク開催のご案内

『ART×公開空地 – 都市に介入するアート・コンペティション – 』では、グランプリ作品の展示場所にあたる御茶ノ水の特色を反映した「本とまち」をテーマに、作品を募集しました。多数の応募作品の中から、関川航平と栗原千亜紀によるパフォーマンス『駅前ラブストーリー ロミオとジュリエット編』がグランプリを受賞。都市の貴重なオープンスペースである“公開空地”に光をあてた若手アーティストの作品を発表します。
また、初日にはグランプリ、準グランプリを受賞したアーティストによるプレゼンテーション・トークを開催いたします。


グランプリ受賞作品の発表(パフォーマンスの上演)


日時:2014年3月7日(金)~3月11日(火)の5日間  
   11:00~16:30(7日は17:00まで)
場所:御茶ノ水駅(聖橋口)前広場

雨天中止/小雨は行う場合があります/予定変更の場合は本ページでお知らせいたします/上演時間内に休憩を何度か挟みます

『駅前ラブストーリー~ロミオとジュリエット編~』
御茶ノ水駅前はオフィス街ということもあって通行人が多く、そのほとんどが会話もなくただすれちがうだけです。そんな御茶ノ水駅前の日常に無理やり「ラブストーリー」を重ねたらどうなるか?通行する人々に『ロミオとジュリエット』の台詞をリアルタイムでアテレコ(動きにあわせて音声をふきこむ)することで、通行する人々を次々にロミオにする。無理やり駅前の空間を『ロミオとジュリエット』として「読む」ことでささやかな関係性の変化を生みたいと考えます。3月7日から11日までの5日間、御茶ノ水駅前広場で無理やり『ロミオとジュリエット』を上演!?します。

公開空地フライヤー表web用

クラウドファンディングサイト「Motion Gallery」にアーティストがファンディングページを開設しています。アーティストへのご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。
https://motion-gallery.net/projects/ekimaelove

フライヤーPDFダウンロードはこちらから (2.2 MB)


アーティストによるプレゼンテーション・トーク


日時:2014年3月7日(金)18:30~19:30 (授賞式18:00~ )
場所:新お茶の水ビルディング3階 Cafeteria 2&2 参加費:無料

※アーティスト・トーク終了後に交流会を予定しています。参加費:1000円

グランプリと準グランプリ受賞アーティストによるプレゼンテーション・トークを開催いたします。テーマである「本とまち」をどのように解釈したか、御茶ノ水駅前の公開空地をどう捉えたかなど、自作について語っていただきます。

グランプリ受賞アーティストプロフィール

関川航平(せきがわ こうへい)
筑波大学芸術専門学群特別カリキュラム版画コース卒業/千代田芸術祭 2013パフォーマンス部門「おどりのば」参加/TERATOTERA祭り2013@西荻窪 TEMPO de ART参加横浜ダンスコレクションEX2014 新人振付家部門出場/無作為であることはどのようにして可能かをテーマに、インスタレーション・パフォーマンスなど。ジャンルを問わず制作している    http://ksekigawa0528.wix.com/sekigawa-works

栗原千亜紀(くりはら ちあき)
玉川大学芸術学部ビジュアル・アーツ学科卒業/千代田芸術祭「3331EXPO」パフォーマンス部門「おどりのば」など参加/RAFT 「ICiT Dance Salon in RAFT_6 10 minutes」参加/RAFT 「ICiT ダンス 10 minutes アンコール+」参加

準グランプリ受賞アーティストプロフィール 

岩塚一恵(いわつか かずえ)
筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術学専攻 博士前期課程 修了/神戸ビエンナーレ2011高架下アートプロジェクト 入賞/神戸ビエンナー2011レジデンス/ ART KAMEYAMA 2011 入選/大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2009 レジデンス

酒井亮憲(さかい あきのり)
東京芸術大学大学院美術研究科博士後期過程 単位取得退学/studio[42] 主宰/Stuttgart芸術大学 州財団奨学金留学/財団法人吉岡文庫育英会奨学金/ドイツ Baden-Württemberg州奨学金

小川泰輝(おがわ ひろき)
東北大学大学院工学研究科 助手/「青葉山レインガーデン」SDレビュー2011入選/2012年度グッドデザイン賞受賞/「Sendai OASIS」5th International Architecture Biennale Rotterdam Exhibition 『Smart Cities – Parallel Cases 2』 Winner

※公募作品の展示をECOM駿河台にて3月3日(月)〜3月7日(金)開催中です。
特別賞は市民投票により『にーてんご』(横山千夏+江町美月)に決定しました。
投票にご協力いただき、誠にありがとうございました。

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ART × 公開空地
― 都市に介入するアート・コンペティション ― 【結果発表】

テーマ 「本とまち」


審査委員   
岩井 成昭 (秋田公立美術大学教授/アーティスト)
佐藤 慎也 (日本大学理工学部建築学科准教授/建築家)
藪前 知子 (東京都現代美術館学芸員)
立川 資久 (東京都千代田区区民生活部長)
瀬川 昌輝 (昌平不動産総合研究所 代表取締役)


審査総評

2審査風景若手アーティストの支援を目的とした『ART × 公開空地』コンペティションの審査を厳粛におこなった結果、3名の受賞者を決定した。
関東のみならず東北や関西からも応募が寄せられ、インスタレーション、パフォーマンスなど、バラエティのある作品が集まり、若々しいアイディアに溢れた内容であった。
課題としては、作品のアイディアと場所の関連性が希薄であった点があげられる。遠方からの応募者は致し方ないとしても、近郊の応募者は提案の前に一度は対象敷地を訪れ、その場の意味や空間の特色を読み込み、色や形、大きさなどをもっと熟考してほしかった。
また、応募者が自身のやりたいことを提案するだけでなく、この場所でなければできない必然性あるアイディアを考案し、コンセプトを深めるよう励んでほしい。
今後も都市の公開空地を舞台として、アーティストたちがユニークな作品を発表していくことを期待したい。


グランプリ1点(賞金200,000円)

「駅前ラブストーリー ロミオとジュリエット編」 関川航平と栗原千亜紀

駅前ラブストーリー1.20140127

【作品の形態】パフォーマンス

【作品コンセプト】
御茶ノ水駅前は、通行人が多く、そのほとんどが、会話もなくただすれちがうだけである。そこで、通行する人々にアテレコ(動きにあわせて音声をふきこむ)することで、日常の世界から、物語の世界へとシフトさせる。駅前広場にあるモニュメントを活用して、その高さをロミオとジュリエットに出てくるジュリエットの立つバルコニーに見立て、通行する人々を次々にロミオにする。無理やり駅前の空間を“ロミオとジュリエット”として『読む』ことでささやかな関係性の変化を生む。

【審査委員からのコメント】
多数の人びとが途絶えることなく行きかう公開空地という特性が良く生かされていた。通行人の不意を打つように、人びとを突然に巻き込み、一時的に役者としてしまう仕掛けがおもしろい。日常的な街の空間に、誰もが知っているような著名な物語をかぶせていくことで、街を非日常的なものへと変質していくアイディアと、明るくユーモアに満ちた点が評価を得てグランプリとなった。

準グランプリ 2点(賞金 20,000円)

「CaPool」 岩塚一恵+酒井亮憲

Capool20140127

【作品の形態】パフォーマンス/インスタレーション幅900cm×奥行600cm×高さ800cm

【作品コンセプト】
「CaPool」はQua Pool(水たまりのようなエリア)を語源とする。街中に置かれた一組のテーブルと椅子、それらを覆う薄膜があがり、ある瞬間に内部が露になる。会話をし、食事をし、読書をしている「ひと」がいる。文字を書いて誰かに伝える「ひと」がいる。そのような行為の中心にある象徴的な空間が、公開空地において通行人や観客を吸い寄せ、滞留させ、いつの間にか観客が作品の内部に存在するようになる。薄膜が降りて捉えられた観客は一瞬躊躇するかもしれないが、私たちは、この場所で出合う誰かと空間を共有し、記憶を共有する。このプロジェクトは、記憶の伝達行為を通じた共有の形の新しい方法を通して、この場で「共有した時間」が相互作用を生み、街へ溢れ出していく過程の記録である。

【審査委員からのコメント】
街の風景を異化し、変容させる手法がユニークであった。実現化するには様々な条件や規制があるが、通常は通行の場である駅前空間に一時的でも人びとが留まれる空間をつくりだすアイディアが斬新であり、今後に期待したい。

「本のまちへ続くカーペット」 小川泰輝

本のまちへ続くカーペット20140127

【作品の形態】立体(木材・紙)幅100cm×奥行1200cm×高さ70cm

【作品コンセプト】
本の材料を広場に広げる。
本、つまり紙とインクで構成されるテキストの成り立ちを示す。
広場から橋に向かって敷いていく。
まちの特異点を接続するはたらきは、本を読むことで得られる感覚と似ている。

【審査委員からのコメント】
本コンペのテーマである“本”を作品化したアイディアは、老若男女が楽しめるものであった。シンプルな表現の中にも御茶ノ水が本の街であるという文化的な本質をうまく表わしている。提案された展示場所がややもすると通行の妨害になるため、置き方にもうひと工夫あるとより良いものとなっただろう。

特別賞 1点(記念品)

「にーてんご」 横山千夏+江町美月

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【作品の形態】 
立体(針金)7つのワイヤーワーク 幅50〜200cm × 奥行50cm × 高さ50〜180cm

【作品コンセプト】 
御茶ノ水にゆかりのある小説家・夏目漱石の代表作「吾輩は猫である」の吾輩が、御茶ノ水のまちを歩きます。私たちは吾輩と共に針金でできたオブジェの間を進んでいきます。2次元でもない、3次元でもない2.5次元のような不思議な世界を表現し、平面でありながらも日中は陽射しで地面に影を落とし、夜はライトを照らすことで陰影のある立体的な空気を感じさせます。一日を通して変化のある風景をつくりだします。

【市民からのコメント】 
「応募作品の中で一番現実的(天候などを考慮すると)で幅広い年齢層が楽しめる点を評価しました。」「斬新で見やすく、とても良かった。」「テーマの“本とまち”がとても良く表現されていて、老若男女が楽しめる作品だと思う。」

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Steilneset Memorial スティールネセト・メモリアル

 15世紀に中央ヨーロッパで始まった魔女狩りは、17世紀にはノルウェイまで拡がり、ここフィンマルク州バルデ海岸はノルウェイにおける魔女狩りの中心となった場所として記憶されてきた。というのも、ここでの魔女狩りが市の主導によって行われ、公文書に当時の記録が詳細に残された結果、人口3000人という寒村で記録されるだけで91人が犠牲になったという確たる証拠が残されてきたからである。しかし時代と共に、ヨーロッパ全土でこの悪しき伝統の間違いを認識し、法律でも禁止されるにつれ、バルデ市でも2000年からその犠牲者を追悼するメモリアルを設置することをめざしてきたという。
 現在でも寂寥感を漂わせているノルウェイ最北部の海岸に、2011年、スティールネセト・メモリアルが完成した。それはスイス人建築家、ピーター・ズントーと、2010年に亡くなった女性アーティスト、ルイーズ・ブルジョアという、国際的なコラボによるものだ。コラボといっても、両者が異なるふたつの建築物を設置し、それぞれが魔女狩りという暗い出来事と彼女たちの人生について雄弁に物語るという体験型のメモリアルになっている。
 ズントーの建築は、木、帆布、ガラスなどからなるシンプルな直線的な形状が海岸に対峙し、打ち上げられた船のように見える。なかに入ると、長さ125メートルにも及ぶ細長い廊下のような空間に犠牲者たち91人分のガラス窓があり、その前にはそれぞれの命や人生を象徴する電球とそれぞれの裁判の記録や資料などが展示されている。
 一方、その奥に立つブルジョアのガラスの部屋には、真ん中に鉄製のイスがあり、その座面からは炎が吹き出している。その炎は部屋の四方に配置された7枚の鏡に映って増幅され、多くの犠牲者の恐怖や暗い歴史を映しだしている。
 建設はバルデ市、フィンマルク州、バランガー博物館、ノルウェイ公共道路局のジョイントベンチャーによるもの。加えて、このメモリアルはノルウェイが国を挙げて推進するツーリスト・ルートの最北部に位置する。このルートはノルウェイの自然豊かな景観をより一層のインパクトをもって訪れてもらおうという意図のもと、全国に18箇所のルートが建設された。それぞれのルートには、地域の景観やその歴史を見せ、地域の観光を振興するためのビューポイントが設置され、ノルウェイの若手建築家を中心に起用されている。地元の要望により、このメモリアルは例外的に国際的なコラボとなった。ルート工事全体はノルウェイの公共道路局が主導し、2020年の完成をめざし、総予算8billion NOK(約100million Euro)で進行中である。

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第4回 「Community」後半を読む (2013年11月8日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Ⅱ Community (後半pp.19〜25) を読む

    長期間のコミットが成功を生むのか?オーディエンスは予め設定できるのか?

    < C.ヴァーチャルな参加 : ソーシャル・メディア>
    <時間と努力>
    <オーディエンスに関する質問>

    ソーシャル・ネットワークはコミュニケーションに新たな流動性をもたらし、作品が継続展開してゆく有効な手段となるだろう。一方でSEAは個人、地域をより直接的につなぐ手段として盛んになっているともいえる。このように、SEAはオーディエスと密接に結びついており、そこには潜在的にオーディエンスが存在するといえる。加えて、最も成功するSEAプロジェクトは長期間にわたり特定のコミュニティのなかで活動し、アーティストが参加者を深く理解して展開された場合である。しかし、資金提供者にオーディエンスや場所の要素を予め規定される場合には、難解な作品を、関心や課題が全く異なるコミュニティへ売ろうとする結果になることもある。そのためにもSEAにおいて、アーティストはオーディエンスを明らかにし、彼らに伝えたいメッセージを、自身のなかで明確にしておかなければならない。

    ディスカッション

     

  • ヴァーチャルな社会環境がソーシャル・ネットワークを強化して、社会的な活動やSEAに与える影響は大きいが、SEAはヴァーチャルな関係性が全盛のなかで、アーティストとより直截な関係により、参加者が時間や空間を共有しコミュニケートする手段として重要な役割を担っているといえる。
  • 著者は「SEAは長期間にわたり特定のコミュニティにコミットする場合成功する」と述べている。
  • そのベストな例: CuratorであるMorinがLaosやShakersのコミュニティに数年間介在して、複数のアーティストを招聘してプロジェクトや展覧会をおこなうというもの。妻有など、日本でおこなわれている活動と同じなのか、違うのか、他の事例を含めて精査する必要がある。
  • 著者が「オーディエンス」をどのレベルで捉えているのか?「参加者」と述べる場合とどのように違うのか、その辺りが明確にされていない。より精査して、レベルにおける差異を検討すべきである。
  • 資金提供者によって目的、期間や参加者のフレームが規定されお膳立てされている場合、アーティストが独自のモチベーションをもつことが難しいし、予定調和的な結果になってしまうことが多い。
  • 特に、海外に比較して、日本の場合はアーティスト主導の活動が少ない。そのなかで、アーティストが話しかけたいオーディエンスと伝えたいコンテクストを明確化することは可能なのだろうか?
  • アーティストが社会における問題意識に関心を寄せ、自らのメッセージを伝えるべき相手を想定できるか?それは教育やトレーニングの課題ともいえるだろう。
  • これはアーティストの存在価値を考える上で重要な要素のひとつだといえる。
  • (モデレーター 清水)

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The Irish Hunger Memorial アイルランド飢餓メモリアル

1845年から1852年にアイルランドを襲った大飢饉の悲劇を伝えるメモリアル。この大飢餓は、ヨーロッパ全域でジャガイモの疫病が大発生し、枯死したことで起こった。アイルランドでの主要食物ではジャガイモであったため、150万人の人が飢えて死なり、多くの国民がアメリカに渡り、アイルランド民族は離散していった。さらに、婚姻や出産までもが激減し、最終的にはアイルランドの総人口は最盛期の半分にまで落ち込んでしまったという。民族文化にも壊滅的な打撃を与え、世界史上最悪の大飢饉の一つとなった。

バッテリーパークの道路から眺めるとメモリアルらしいものは見当たらない。植栽の中を人びとが散策している姿が見えるだけだ。しかし反対側に足を運ぶと、コンクリートのキューブの上に植物で飾りつけられた帽子のような姿が現れる。これが『アイリッシュ・ハンガー・メモリアル』(高さ7.6m)だとわかるものの、まだその全容は見えてこない。

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アイリッシュ・ライムストーン(石灰石)に覆われたトンネル状の薄暗い入口。バックライトにより照らされた光のストライプがメモリアルの先へと導いてくれる。周辺から聞こえてくる男性・女性の声が静かに低くこだまするようにエントランスに響き渡る。あたかも飢餓当時の暗い思いが微かに伝わってくるような印象的なエントランスだ。

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光のストライプはつや消しのガラスパネルになっており、その裏面には言葉が刻まれている。アイルランドの大飢饉、世界の飢饉の歴史、そして現代なおも存在する世界の飢餓について、手紙や詩、歌、伝承、料理レシピ、議会報告書、統計など110もの文章が引用されている。この光のストライプは、メモリアルを囲むように配され、全長約32㎞になるという。夜間には、言葉が影となった光のストライプが浮かび上がる。

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メモリアル上部へ
暗いエントランスを抜けると、明るい別世界が開ける。アイルランドに現存していた大飢餓時代の田舎家があり、このメモリアルの核となる場所だ。この田舎家は、アーティストであるブライアン・トッレの遠縁にあたる親戚より寄贈された。アイルランドの地を離れた人びとの連帯や結束の表現として、国を超えてこのバッテリーパークに移設されたのだ。運搬移設は想像以上に骨が折れる仕事だったという。

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廃墟のような田舎家からゆるやかな道をたどり、屋上に出る。そこには岩だらけの地に植物が生えたランドスケープが現われ、宮崎駿監督の『天空の城ラピュタ』を思い起こさせるような静かで少し悲しいようなシーンを連想させる。

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アイルランドのネイティブな花や草木が植栽され、点在する岩は、アイルランドの32郡から寄贈された石灰岩(ライムストーン)。一つひとつの岩に運ばれてきた都市の名が刻まれ、300万年前の古代アイルランド海底の化石が含まれている。

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メモリアルの周辺には若い夫婦に人気があるバッテリーパーク内のマンションが並ぶ。展望デッキからは、対岸のニュージャージの高層ビル群や自由の女神が見える。
そして、ここから数ブロック内側には、もう一つの現代の悲劇が起こった「9・11」グランドゼロがある。

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photo credit: Yasuyo Kudo

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第3回 「Community」前半を読む (2013年10月18日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Ⅱ Community (前半pp.9〜18) を読む

    SEAがコミュニティの絆を築く限りにおいて成功か? アートとソーシャル・ワークとの違いとは?

    <A. コミュニティの構築>
    <B. 多層的な参加の構造の構築>サマリー
    SEAプロジェクトはコミュニティと強い関係性をもち、コミュニティ構築のメカニズムとなっている。しかし、SEAはどのようなコミュニティの構築をめざしているのだろうか? SEAがコミュニティの絆を築く限りにおいて成功か?SEAのゴールは社会の価値を肯定する(調和)のか、社会の課題を非難する(対決)のか。 
    SEAの場合、そのプロセスそのものが社会的であり、一般の人びとが受け手という役割を超えて活動し、プラットフォームやネットワークを形成し、プロジェクトの効果が長期的に継続されることが強調される。そのなかで起こるインタラクションには、名ばかり、シンボリックなインタラクションと、アイディア、経験、コラボレーションが徹底的、深層的、長期的に交換される場合とがあり、それらは同等視できない。なぜなら、両者のゴールは違うからである。
    SEAでは多様な参加の層があり、実験的に、1. 名目の参加、2. 指示された参加、3. 創造的な参加、4. 協働の参加に分類できる。このような参加の枠組は、ゴール、作品評価、コミュニティ構築手法の評価に深く関係している。加えて、ソーシャル・ワークの場合のように、自発的、強制的、無意識など個々人の参加のあり方を認識することも重要である。

    ディスカッション

     

  • 参加者、鑑賞者、オーディエンス、ビジターなど、アート特有のことばもでてくるが、参加のレベルによる呼称の差異なども認識すべきである。
  • コミュニティの絆を築く限りにおいて成功か?社会の危機的状況や課題を顕在化させ、解決策を見つけようとする、政治的または反体制的な活動もあるだろう(Santiago Sierraの事例など)。
  • SEAのクライテリアや評価の軸は、その多様性ゆえの微妙なぶれが見られる。
  • アートとしてのアウトプットか(Bishop)、対話によるコミュニティ形成か(Kester)の議論があるが、そのバランスのあり方、アートとしての存在価値などを踏まえながら、我々もSEAのクライテリアと評価の軸を明確化していく必要がある。
  • アーティストの役割とは?ソーシャル・ワーカーではない、アーティストでなければならない特性とは?これを明確化することは、アーティストの教育の場で役立つだろう。
  • プロジェクト終了後も、参加者が自分たちで継続していけるようempowerされることが重要とあるが、その場合、アーティストの意図から新たな展開に向かうこともある。
  • その場合、アーティストのauthorshipとコミュニティのownershipの問題もでてくるだろう。
  • 著者は参加のレベルが1→4に向かうに従って成功につながるという考えであるといえるだろう。
  • 長時間のわたり地域にコミットするSEAはベストなプラクティスにつながると言っている(例 France Morinの活動)。めざすゴールが何なのか?観光振興、まちおこしに終わっていないか?を見極める必要がある。
  • 歌や音楽の場合、再現性が高く、拡がりやすいので、むしろ多くの人びとに共有され、個々人の意識に影響を与える可能性が高いのではないか?
  • アートはより直接的な介入、フェース・ツー・フェースのつながりによる活動が主流である。それによるメリットがあるはずである。アーティストの存在価値につながる可能性?
  • 一方で、藤浩志の「かえっこ」のように、OSを提示した後はアーティストが不在でもシステムとして機能するようなプロジェクトもある。
  • 今後、より多様なSEAの事例を検討して、参加のレベル、個々人の参加のあり方による結果の違いについて明確化していく必要がある。
  • (モデレーター 清水)

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第2回 「Definition」を読む (2013年10月4日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Ⅰ Definishion (pp.1〜8) のポイント

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、コンセプチュアル・プロセス・アートの様式に属する。しかし、全てのプロセス・ベイスト・アートがソーシャリー・エンゲイジド・アートではない。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、社会的な関与(エンゲイジメント)が必須である。
  • 過去数十年、社会的な交流(インタラクション)に基づくアートは、様々な名で呼ばれてきた。
    relational aesthetics、community art、collaborative art、participatory art、dialogic rt、public art
  • 最近では、social practice と呼ばれることが多いが、この名称からは、アートメイキングとの関連が排除されてしまっている。
  • <分野のはざまで>

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、本来アートメイキングの要素が備わっている。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、アートとして認められながらも、伝統的なアート様式と社会学、政治学など関連する分野との間の居心地が悪いポジションに座っている。しかし、そのポジションこそがこの種のアートの特徴である。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、通常は他の分野に属するテーマや問題に関わりながら、それを一時的にあいまいな空間に移動させる機能をもっている。
  • 対象を一時的にアートメイキングの領域に引っ張っていくことで、特定の問題や状況を新しい見方でとらえたり、他の分野に対して目に見えるものにしたりできる。こういった理由から、この種の活動に用いる最適な用語はやはり「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」である。
  • <象徴と現実のプラクティス>

  • 政治的、社会的な動機から始まっていても、アイデアや問題を象徴的に表現するだけ(represetation)の行為はソーシャリー・エンゲイジド・アートではない。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートに関わるアーティストは、公共圏(public sphere)に影響を与える集団的アートをつくりだすことに関心がある。
  • どんなソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトも、政治的・社会的立場を明確にすることを前提としている。
  • 「社会的交流social interaction」がソーシャリー・エンゲイジド・アートの中心であり、欠くことのできない要素である。ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、ハイブリッドで分野横断的なアクティビティであり、アートと非アートの中間のどこかに位置する。ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、想像や仮定ではなく、現実の社会的行為に基づくものである。

    ディスカッション

  • 「ソーシャル・プラクティス」という言葉は、アート関係者ならソーシャリー・エンゲイジド・アートのことだと分かるが、一般の人はアートと結びつけることはできない。
  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートのコアに「アート」があることは、しっかり認識する必要がある。
  • 欧米のソーシャリー・エンゲイジド・アートは、具体的なソーシャル・チェンジと結びついて、都市で行われることが多いが、日本のアート・プロジェクトは、地域おこしを目的として地方で展開されることが多い。プロデュース型のアートエキジビションと同じで、それぞれのアートワークの目的(社会との関わり)が曖昧になる傾向がある。
  • 日本では、国外の活動と比較すると、社会とアートの関係性の可能性が十分開拓されていないのでは?
  • (モデレーター:秋葉)

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Watermarks Project ウォーターマークス・プロジェクト

2010年4月30日から5月2日にかけて、テネシー州の中西部を猛烈な雷雨と竜巻が襲い、ナッシュビルを中心に1万戸以上が被害を受け、19人が命を失った。この大災害後、地域の人々は “ボランティア・ステート”というテネシー州のニックネームに恥じず、互いに助け合い、復興に努めた。
Metropolitan Government of Nashville and Davidson Countyは、この未曾有の災害を人々の記憶にとどめ、コミュニティの復興努力をたたえるたため、甚大な被害を受けた6つの地区に、人々集う場所としてのメモリアルを設置することを決定。2011年12月に、メトロ・ナッシュビル・アーツ・コミッション(MNAC)がパブリック・アート事業の一環として、このプロジェクトにふさわしいアーティストを公募した(これまでの実績を審査するRFQ方式。対象は、ナッシュビルから400km圏内に住むアーティスト)。
プロジェクトの目的は、次のように述べられている。
 ○ナッシュビル市の特質をふまえ、場所に意味を与える
 ○コミュニティの視覚的個性や特性に貢献する
 ○住民が2012年の大洪水を思い出す場所をつくる
 ○人々の記憶にとどめる
 ○ナッシュビルのスピリットとプライドをパブリック・アートによって増進する
選考委員会によって選ばれた6アーティストは、それぞれコミュニティ・ミーティングに基づいてデザインワークを行い、2012年4月にMNACが最終デザインを承認。パブリック・プレゼンテーションを経て、2012年12月から2013年10月にかけて設置作業が行われた。制作費は、1ロケーションにつき、2万ドルが上限とされた。
また、このプロジェクトを素材に、幼稚園から小学校4年生までの子どもたちに「アイデンティティ、コミュニティ、助け合い」の重要性を教えるためのツールとして『クラスルーム・ガイド』が作られた。

Anchor in the Storm アーティスト: Betty and Lee Benson 洪水の時、近くに石灰岩採石場があったおかげで、水の流れが変わり、コミュニティの家屋が救われた。石灰岩と筏を鎖でつないたデザインは、コミュニティと採石場との強い結びつきを表現している。

Anchor in the Storm アーティスト: Betty and Lee Benson
洪水の時、近くに石灰岩採石場があったおかげで、水の流れが変わり、コミュニティの家屋が救われた。石灰岩と筏を鎖でつないたデザインは、コミュニティと採石場との強い結びつきを表現している。

Bellevue Bench Mark アーティスト: Craig Nutt この地区をうねって流れるハーペス川を豪雨が襲った。川流れをモチーフとしたベンチ。

Bellevue Bench Mark アーティスト: Craig Nutt
この地区をうねって流れるハーペス川を豪雨が襲った。川流れをモチーフとしたベンチ。

Emergence アーティスト: Buddy Jackson 地面から出現するアフリカン・アメリカン女性の顔は、この地区のひとり一人が経験した、危険、喪失、強さ、決意を象徴している。

Emergence アーティスト: Buddy Jackson
地面から出現するアフリカン・アメリカン女性の顔は、この地区のひとり一人が経験した、危険、喪失、強さ、決意を象徴している。

Liquid 615 アーティスト: Michael Allison コミュニティ・センターの壁面に取り付けた銀色のパイプから、240本の吹きガラスのしずくがぶら下がり、夜はLED照明がつく。しずくは洪水の水と人々の涙を表現しているが、照明が入ると美しく、コミュニティを元気づける光となる。

Liquid 615 アーティスト: Michael Allison
コミュニティ・センターの壁面に取り付けた銀色のパイプから、240本の吹きガラスのしずくがぶら下がり、夜はLED照明がつく。しずくは洪水の水と人々の涙を表現しているが、照明が入ると美しく、コミュニティを元気づける光となる。

Pier アーティスト: Derek Cote カンバーランド川を望むスロープに4.5mの吹き流しを伴ったベンチを4台設置。吹き流しには、川とコミュニティの人々を象徴する4つの言葉“Respect, Strength, Spirit, Depth”がプリントされている。

Pier アーティスト: Derek Cote
カンバーランド川を望むスロープに4.5mの吹き流しを伴ったベンチを4台設置。吹き流しには、川とコミュニティの人々を象徴する4つの言葉“Respect, Strength, Spirit, Depth”がプリントされている。


Tool Fire  アーティスト: Christopher Fennell コミュニティとボランティアによる復旧作業を記憶に残すため、実際に作業で使われたシャベルなどの金属製の道具を溶接して黒く塗り、ファイア・ピットの中に炎のように立ち上げた。

Tool Fire アーティスト: Christopher Fennell
コミュニティとボランティアによる復旧作業を記憶に残すため、実際に作業で使われたシャベルなどの金属製の道具を溶接して黒く塗り、ファイア・ピットの中に炎のように立ち上げた。

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第1回 「Introduction」を読む (2013年9月6日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

Introduction (pp.ⅸ〜ⅹⅵ) のポイント

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートの理論化のプロセスが急速に進んでいるのに比べて、その実践における技術的要素についての議論はゆっくりとしか進んでいない。
  • この本の目的は、理論をめぐる論争やアイデアをうまく適用した事例を紹介しながら、「いかにアートを社会領域で用いるか」について、いくつかの手本を提供することである。
  • アートと教育のプロセスは類似している→社会にエンゲイジするアートワークへの挑戦は、教育分野の助けを借りればよりうまくいくだろう。
  • 第二次大戦後の北イタリアのレッジョ・エミリアで始まった幼児教育法から学ぶ。
  • 本書は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを規定する体系や実地訓練を提案するものではない。また、この種のアートのベストプラクティスを提示するものでもない。様々な分野(教育学、社会学、言語学、民族誌学など)から得られた知見に基づいて、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの実践に役立つ技術をまとめたものである。
  • ディスカッション

  • ソーシャリー・エンゲイジド・アートを美術史の文脈の中でどのように位置づけるかについては、ケスター、ビショップなど研究者の間でも議論があるので、今後それらの議論も踏まえていく必要があるだろう。
  • 日本でもアート・プロジェクトの結果をどのように評価するのか、未だコンセンサスが形成されていないので、海外のケースを知ることは有用だろう。
  • 教育分野をはじめ、文化人類学、地政学などの方法論はアートにも応用できるので、このような分野でアートにも関心がある人々とのネットワークづくりが重要だ。
  • レッジョ・エミリア方式については、もう少し詳しく調べよう。
  • この本は、理論書、マニュアル本、ベスト事例集のどれでもない。いわば、社会にエンゲイジするアート活動に関わる人にとっての“心構え”を書いたものにあたる。
  • (モデレーター:秋葉)

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    SEA研究会

    アート&ソサエティ研究センターは、今「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」と呼ばれる、地域や社会に能動的に関わっていくアートのあり方に注目しています。この種のアートは、欧米では様々な実践活動の蓄積があり、近年はアカデミックな研究領域としても確立してきていますが、日本ではまだ十分に理解が進んでいないように思われます。
    私たちは、こういったアートの新しい領域について、理解し考えていくことを目的として、自主的な勉強会「SEA研究会」を始めました。
    その第一弾として、ニューヨークMoMAの教育課でアダルト&アカデミック・プログラムのディレクターを務めるアーティストPablo Helgueraによる実践者向けのコンパクトな手引き書『Education for Socially Engaged Art~A Materials and Techniques Handbook』(Jorge Pinto Books, 2011)をテキストとしながら、日本の状況なども見据えて議論・考察し、その記録をこのページで報告していきます。同書のコンテンツは、以下のとおりです。

    今後、月1~2回のペースでこの書籍をテキストとしつつ、ソーシャリー・エンゲイジド・アートのフレームについて考えていきたいと思います。ご興味のある方はお気軽にお問合せください。

    問合せ先:info@art-society.com (件名に「SEA研究会について」と入れてください。)

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