アート&ソサエティ研究センターは、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEA)」と呼ばれる、地域や社会に能動的に関わっていくアートのあり方に注目し、この新しいアートの領域について理解し、考えていく「SEA研究会」を行っています。以下、各回の内容をブリーフィングしてご報告します。

世界のSEAプロジェクトの事例

SEAとは具体的にどんなものかを知りたい方は、以下をご参照ください。「リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)」で紹介した、世界のSEAプロジェクトの事例です。

  1. 「プロジェクト・ロウ・ハウス」 “Project Row Houses”
  2. 「ホームレスのための医療バン」 “Medical Care for Homeless People”
  3. 「ルーフ・イズ・オン・ファイア」 “The Roof is on Fire”
  4. 「チョーク」 “TIZA(Lima)”
  5. 「中絶船プロジェクト」
  6. 「不平合唱団」 “Complaints Choir”
  7. 「子どもたちによるヘアカット」 “Haircuts by Children”
  8. 「廃棄物プロジェクト」 “Residuous Urbanos Sólidos (RUS) (Solid Urban Waste)”

All Photos Courtesy of ICI and CREATIVE TIME.

SEAprojects01

リック・ロウ Rick Lowe
「プロジェクト・ロウ・ハウス」 “Project Row Houses”
1993-  テキサス州ヒューストン(アメリカ合衆国)

1993年、アーティストのリック・ロウは、低所得のアフリカ系アメリカ人が多く住むテキサス州ヒューストンの第3区で、打ち棄てられ、取り壊される予定だった22戸の住宅をアーティスト仲間の協力を得て買い取った。彼は何百人ものボランティアの協力を引き出して、建物の保存に乗り出した。通りの清掃から始め、ファサードの再生、古びた家の内装の修復・・・。このアクティビスト集団はだんだん大きくなり、全米芸術基金や民間財団から助成金を得て、暗く荒廃した細長い土地を、アーティスト・イン・レジデンス施設、ギャラリー、公園、商業ゾーン、庭園、若いシングル・マザーが自立するまでの一時的住居を含む、いきいきした一画に変えていった。《プロジェクト・ロウ・ハウス》と呼ばれるこの取り組みは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートによる地域の持続的発展のモデルケースとして知られる。この活動により、ロウは2014年9月、“天才賞”と呼ばれるマッカーサー・フェローに選ばれ、625,000ドルの助成金を獲得している。

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SEAprojects02

ヴォッヘンクラウズール WochenKlausur
「ホームレスのための医療バン」 “Medical Care for Homeless People”
1993-  ウィーン(オーストリア)

オーストリアの人々は、国民皆保険制度のもとで医療サービスを受けている。しかし、それは住民登録に基づく非常にお役所的なシステムのため、ホームレスは対象にならない。
ウィーンを拠点とするコレクティブ、ヴォッヘンクラウズールは、いつも多くのホームレスが集まっている広場、カールスプラッツで、無料の移動クリニックを開設する計画を立てた。そのクリニックは、基本的な医療機材を備えたパンの前で診療するというものだった。バンは試作車としてデザインされ、1993年当初は、11ヵ月間のみ稼働させる予定だった。それがいまだに、ウィーン市内の公共広場を回って毎日移動しており、市からの支援を得て、月600人以上に医療サービスを提供している。

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SEAprojects03

スザンヌ・レイシー Suzanne Lacy
「ルーフ・イズ・オン・ファイア」 “The Roof is on Fire”
1994  カリフォルニア州オークランド(アメリカ合衆国)

1994年のある午後、カリフォルニア州オークランドの高校生220人が、ビルの屋上駐車場に止めた100台のクルマのシートに座って、暴力、セックス、ジェンダー、家族、人種について語り合っていた。10代の若者たちが、台本など無しで率直に話す中、1,000人近い観衆(大勢のリポーターや撮影班も含まれていた)が、クルマからクルマへ歩き回り、車体にもたれかかったり、のぞき込んだりしながら、彼らの会話を聞いた。
オークランドのティーンエイジャーは、以前から、暴動、暴行や警察との衝突にからんで、ネガティブに報道されることが多かった。しかし、このイベントは、アーティスト、スザンヌ・レイシーがTEAM(Teens、Educators、Artists、Media workers)と名付けたグループとともに、若者たちが厄介者ではなく市民として登場する、プラス志向のメディア・スペクタクルとして構想したものだった。
このパフォーマンスの記録映像として制作された《ルーフ・イズ・オン・ファイア》は、多くの地方テレビ局とCNNで全米にオンエアされた。

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SEAprojects04

アローラ&カルサディーラ Jennifer Allora and Guillermo Calzadilla
「チョーク」 “TIZA(Lima)”
1998-2006  リマ(ペルー)他世界各地

ジェニファー・アローラとギレルモ・カルサディーラは、長さ5フィート(1.5m)の巨大なチョークを12本を公共広場に置き、チョークのかけらを使って、地面に、落書きでも、自己表現でも、好きなやり方でメッセージを書くよう通行人に促した。こうして、チョークは、つかの間の創造を可能にする素材に変化する。
リマでは、政府ビルのすぐ前にチョークを置いたので、通行人は駆り立てられ、広場は政治家を批判するメッセージであふれる大きな黒板に変わってしまった。ついに、盾を構えヘルメットをかぶった軍の警備当局者が、チョークを没収し、扇情的な政治的意見を地面から洗い流した。

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SEAprojects05

ウィメン・オン・ウェイブ Women on Waves
「中絶船プロジェクト」
2001-  オランダ発世界各地

医師レベッカ・ゴンパーツ率いる「ウィメン・オン・ウェイブ」は、、女性の健康管理のための権利擁護団体で、その目的は、非合法で危険な妊娠中絶をなくし、女性の身体的、精神的自律の権利を守ることである。彼女らは、オランダ船籍の洋上クリニックを建造し、妊娠中絶が非合法とされている国に向かって航海。港から12マイル離れた公海でいかりを下ろし、オランダの法律に基づいて、乗船した女性に対して、経口妊娠中絶薬の処方や安全な中絶手術ができるようにした。
メディアはこれを知ると騒ぎ出し、激しい抗議行動を引き起こす。船がポルトガルに近づいたときは軍隊が介入し、ポーランドでは、偽の血液や卵が投げつけられた。実際、洋上での中絶手術が行われたことは一度もなく、船内でなんらかの中絶処置を受けた女性は50人に過ぎないのだが、パフォーマンス的にメッセージを発信し、メディアを巻き込んで議論を巻き起こすことで、「ウィメン・オン・ウェイブ」は社会に対して強烈な問題提起をしている。

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SEAprojects06

テレルヴォ・カルレイネン&オリヴァー・コフタ=カルレイネン 
Tellervo Kalleinen and Oliver Kochta-Kalleinen
「不平合唱団」 “Complaints Choir”
2005- 世界各地

フィンランドに住むアーティスト、テレルヴォ・カルレイネン&オリヴァー・コフタ=カルレイネンは、不平不満を言う人々の言葉が文字通り“不平合唱”に変わるのを聞き、2005年に《不平合唱団》プロジェクトを開始。そのプロセスはシンプルだ。まず、人々を集める。次に、良い音楽家を見つける。人々の不平不満を集めて、歌詞にし、合唱のリハーサルをした後、公開の場で披露。それをレコーディングして「Complaints Choir」ウェブサイトに投稿する。英国のバーミンガムで最初のコーラスを行って以来、この仕組みは“オープンソース”として世界中に広まり、いまでは約140の不平合唱団が活動中である(2014年2月現在)。
合唱される不平不満は、明らかに政治的なものから非常に個人的なものまでさまざまだ。しかし、カルレイネン&コフタ=カルレイネンは「私的、個人的なことはきわめて政治的でもある」という。

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SEAprojects07

ママリアン・ダイビング・リフレックス Mammalian Diving Reflex
「子どもたちによるヘアカット」 “Haircuts by Children”
2006-  トロント(カナダ)他

ある日、トロントのパブリックスクールの5~6学年の生徒たちが、市内各所の美容院で、無料のヘアカット・サービスを行った。彼らは、プロのスタイリストの指導で、マネキンの長い髪を使い、前髪の切り方、カーラリングの仕方、襟足の剃り方、ロングレイヤーのカット方法、ブロウドライヤーの使い方を1週間にわたって研修した後、このイベントに臨んだ。ヘアカット・サービスをする間、大人たちが見守っているものの、子どもたちは二人一組あるいはグループで、ヘアカラーを選んだり、髪の長さを決める“美的決定”を自ら行った。そしてお客は新米美容師を信頼した。
このプロジェクトは、トロントを拠点とするアート&リサーチ集団、ママリアン・ダイビング・リフレックスが企画制作し、子どもたちに、創造的な決定のできる個人としての、責任と自信を持たせると同時に、大人たちの子どもに対する見方を変えることを目的としている。

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SEAprojects08

バスラマ Basurama
「廃棄物プロジェクト」 “Residuous Urbanos Sólidos (RUS) (Solid Urban Waste)”
2008-  世界各地

バスラマは、廃棄物とその再利用を考えるアーティスト、建築家、デザイナーのグループである。彼らは、コミュニティと協働で、どんなゴミをどのように取り扱い、そこからどのように世界の見方を明らかにできるかを探求している。グループの活動の中心は、実際に廃棄物を集め、それを素材に使って、パブリック・スペースを再生することだ。
彼らは2008年から、世界中の多くの都市で、この活動を《廃棄物プロジェクト》シリーズとして行っている。たとえば、リマでは、廃線となった鉄道を再生するために、地元のアーティストやコミュニティの人々を誘い、線路に沿って遊園地を作った。マイアミでは、学校の生徒の協力を得て、古い自動車部品から楽器を作った。ヨルダンのジャラシュの難民キャンプでは、パレスチナ難民とともに、子どもたちの遊び場や休養のための日陰エリアを作り、ブエノスアイレスでは、廃棄された段ボールを使って、仮設のスケート場を作った。

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[プレゼンター公募!]SEA(Socially Engaged Art) アイディア・マラソン

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“日本の社会派アートを提案するプレゼンターを募集!”

応募期間 2014年12月22日(月)〜 2015年3月6日(金)
プレゼンテーション日時 2015年3月15日(日)13:00-21:00

昨年11月に開催した、展覧会「リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)」のコンセプトをさらに深めるため、いま日本において、どのようなソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEAシー)が求められ、どのように実践していくべきかを考える「SEAアイディア・マラソン」を開催します。
これは、地域の具体的課題や社会問題に取り組んだり、将来に向けての提言を行うアート・プロジェクトのアイディアを次々にプレゼンテーションして講評、議論するイベントです。日本のSEAの現在と未来について、プレゼンターとオーディエンスがともに構想するプラットフォーム形成に参加してみませんか?

応募概要

応募内容
地域の具体的課題や社会問題に取り組んだり、これから取り組むアート・プロジェクトのアイディアを募集します。(実現の可能性は問いません)それを次々にプレゼンテーションしてSEAの今後の可能性について意見交換します。(日本国内で実施することを想定したアイディアとします)海外で既に行われているSEAプロジェクトの事例は下記をご覧ください。
世界のSEAプロジェクトの事例
応募資格
SEAに関心のある方ならだれでも応募できます(ただし、上記の日時・場所で、日本語でプレゼンテーションを行うことができる方に限ります)。個人でもグループでも可。
応募期間
2014年12月22日(月)〜2015年3月6日(金)
エントリー料
無料(ただし、プレゼンテーション料は3,000円)
審査
応募フォームとプレゼン資料の審査を行い、プレゼンターを決定(20名/組程度)

SEAシー アイディア・マラソン プレゼンテーション(一般に公開します)

開催日
2015年3月15日(日)13:00-21:00
会場
3331アーツ千代田 3階 306室(B105室より変更になりました) 
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
発表時間
各自持ち時間15分+質疑5分で20名(組)程度を予定。
プレゼンテーションの講評
プレゼンテーション、ディスカッションの終了後、講評者、オーディエンスが優秀なアイディアを選ぶ投票を行い、グランプリ1名(組)、準グランプリ2名(組)を決定します。
参加予定の
講評者
秋葉美知子(A&S主席リサーチャー)
岩井成昭(アーティスト、秋田公立美術大学教授)
菊池宏子(クリエイティブ・エコロジー代表)
工藤安代(A&S代表)
倉林靖(美術評論家)
今野綾花(フィルムアート社編集者)
佐藤慎也(建築家、日本大学准教授)
清水裕子(大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)
神野真吾(千葉大学准教授)
藤元由記子(BIOCITY編集長)
賞金
グランプリ 1名(組) 5万円  準グランプリ 2名(組)) 2万円

応募方法

  1. 応募フォームに記入して送信してください。
  2. プレゼンテーションに用いる資料をデータでお送りいただきます。(パワーポイント、映像、画像等)
    プロジェクトのタイトルと応募者名を最初に必ず入れてください。
    件名は「SEAマラソン応募資料」とし、e-mailで送信してください。
    送付先アドレス:info@art-society.com
  3. データ応募資料の他に、DVD、CD、ドキュメントなど付帯資料がある場合は、下記宛先へ郵
    送してください(その場合応募フォームのコピーを添付のこと)
    〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 311E
    「NPO法人 アート&ソサイエティ研究センター SEAマラソン係」宛

※2015年3月6日(金)に応募は締め切りました。

プレゼンターの特典

  • 各プレゼンテーションは2015年5月発行予定のSEAマラソン記録集へ掲載し、プレゼンターに贈呈します。
  • アート&ソサイエティ研究センターで運営するP+ARCHIVEのサイトに各プレゼンテーションをアーカイブするとともに、各種メディアに広報します。
  • 優秀なアイディアについては、プロジェクトの可能性を勘案したうえで、実現にむけた支援を行う予定です。
  • 優秀なアイディアは環境から地域創造を考える総合誌「BIOCITY」に紹介されます。
  • ニューヨークのアートNPO、Creative Timeのサイト内でリポートされる可能性があります。
    http://creativetime.org/

その他注意事項

  • 著作権その他第三者の権利を侵害しているものは、審査の対象外となります。また、受賞発表後であっても、これらの条件に反していることが判明した場合、受賞を取り消します。
  • 提出された資料は原則として返却いたしません。必要な場合は予め控えを残した上でご応募ください。
  • 応募要項に記載された事項以外について取り決める必要が生じた場合、主催者の判断により決定します。応募者は、その内容に同意できなかった場合は応募を撤回できますが、応募にかかった一切の費用は返却いたしません。
  • 受賞者の氏名、経歴などは、印刷物、ウェブサイトなどで公表させていただきます。
  • 個人情報は、応募作品の受付や問い合わせ、審査の結果通知、その他コンペの業務で必要と思われる事項ために利用させていただきます。原則として、法令の規定に基づく場合を除き、ご本人の承諾なしに、それ以外の目的で個人情報を利用または第三者に提供することはいたしません。その他個人情報の取り扱いにつきましては、主催団体の「プライバシーポリシー」をご参照ください。

SEAシーとは?

SEA(「シー」)は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの略称です。アートといっても、アートワールドの閉じた領域から脱して、現実の世界に関わり、人びとの日常から既存の社会制度まで、何らかの“変革”をめざす分野横断的な創造活動を総称するものです。
たとえば都市計画や福祉、教育、環境、人権、コミュニティ運動や政治への疑問など、日常生活で私たちが直面するさまざまな問題や課題を、美術や演劇、音楽、パフォーマンスといったクリエイティブな表現と結びつけ、これまで見えなかったものを可視化したり、気づかなかったことを明らかにすることによって社会に現実的な変化をもたらそうとする、チャレンジングな試みともいえます。

世界のSEAプロジェクトの事例

問い合わせ

〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 311E
NPO法人 アート&ソサイエティ研究センター
email: info@art-society.com

応募フォーム

プレゼンターの募集は3月6日に応募を締め切りました。
たくさんのお申し込みありがとうございました。

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リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)
ソーシャリー・エンゲイジド・アートという潮流

LAF

リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)
Living as Form (Nomadic Version)
ソーシャリー・エンゲイジド・アートという潮流 20 Years of Socially Engaged Art

2014年11月15日(土)— 11月28日(金) 12時 − 19時 
アーツ千代田3331 B104室 入場無料

アクセスマップはこちら

フライヤー(PDF)のダウンロード

日本初紹介 世界に広がる社会派アートの現在形

本展覧会は、日本でこれまでほとんど知られることがなかった海外のソーシャリー・エンゲイジド・アート(Socially Engaged Art)を紹介する初の試みです。
本展は、ニューヨーク市を拠点として過去40年にわたって、社会と関わるアート活動をプロデュースしてきたNPO「クリエイティブ・タイム(Creative Time)」が、2011年秋に、世界のソーシャリー・エンゲイジド・アートをテーマに、Nato Thompson氏のキュレーションによってニューヨーク市で開催した画期的な展覧会「リビング・アズ・フォーム(Living as Form)」の巡回展(縮小版)で、東京が世界最後の開催地になります。
芸術文化と社会との関係性を考えるNPO法人アート&ソサイエティ研究センターは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートという活動が、いま世界で一つの潮流となっていることを、広く日本の人びとに伝えたいと考え、オリジナル展で紹介されたプロジェクトから代表的な11例を選び、動画やパネル展示等により紹介します。

開催の背景

ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、アートワールドの閉じた領域から脱して、現実の世界に関わり、人びとの日常から既存の社会制度まで、何らかの“変革”をめざすアーティストたちの活動を総称するもので、参加・対話のプロセスを含む、アクティブで多様な表現活動です。このタイプのアートは1990年代初頭から米国を中心として活発化し、現在では世界中に拡大しています。

一方、日本でも2000年以降、主に地方都市や農山漁村地域などで、地域の再生や活性化を目的とした「アートプロジェクト」が活発に行われています。しかし、その言葉の定義はあいまいで、アーティストの社会的役割やアートワークとしての意味や価値についての深い議論もなされないまま、地域の絆づくりやツーリズム促進のツールとなっている事例が数多く見られます。本展覧会は、そういった現状に対し、いま世界各地で実践されているソーシャリー・エンゲイジド・アートを紹介することで、日本のアートプロジェクトをめぐる議論を活発化し、改めてその社会的意味や方法論を考えるきっかけになることを意図して開催いたします。

ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、都市計画や福祉、教育、さまざまなコミュニティ活動や政治運動を美術や演劇といった創造的、象徴的な表現と結びつけ、これまで見えなかったものを可視化したり、気づかなかった価値を明らかにすることによって社会に現実的な変化をもたらそうとする、ハイブリッドで分野横断的な試みだといえます。本展覧会が、こうした社会的実践としてのソーシャリー・エンゲイジド・アートのチャレンジ・パワーを理解していただく機会となれば幸いです。

展示内容

11人(組)のアーティストによるプロジェクトを、映像を中心に、パネル、写真、ポスター等で展示。
artsit
詳細はフライヤーをご参照ください。

各プロジェクトのサマリーを掲載したパンフレットを会場で販売します。

各プロジェクトのサマリーを掲載したパンフレットを会場で販売します。

主催
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
クリエイティブ・タイム[Creative Time]
インディペンデント・キュレーターズ・インターナショナル [Independent Curators International (ICI) ]
助成
公益財団法人朝日新聞文化財団
特定非営利活動法人Japan Cultural Research Institute
協力
日本大学理工学部建築学科佐藤慎也研究室
特定非営利活動法人クリエイター育成協会
白水デジタルプリント工房
日 時
2014年 11月15日(土)— 11月28日(金) 12:00-19:00(最終日は16時まで)
会 場
アーツ千代田3331 B104室 入場無料
〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14

お問い合わせ先
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
Art & Society Research Center
info@art-society.com

[オリジナルの「リビング・アズ・フォーム」への主要支援団体]
アネバーグ財団/リリー・オーキンクロス財団/デンマーク領事館/アンドリュー・W・メロン財団/モンドリアン財団/全米芸術基金/ロックフェラー兄弟基金
 
[ノマディック・バージョンへの支援団体]
ホレス W. ゴールドスミス財団/アンディ・ウォーホル美術財団/ロバート・スターリング・クラーク財団/ICI評議員会

展覧会「リビング・アズ・フォーム」で紹介したプロジェクトは、以下のキュレーター、ライター、アーティスト、歴史家のグループが選考しました。
Caron Atlas, Negar Azimi, Ron Bechet, Claire Bishop, Brett Bloom, Rashida Bumbray, Carolina Caycedo, Ana Paula Cohen, Common Room, Teddy Cruz, Sofía Hernández Chong Cuy, Gridthiya Gaweewong, Hou Hanru, Stephen Hobbs and Marcus Neustetter, Shannon Jackson, Maria Lind, Chus Martínez, Sina Najafi, Marion von Osten, Ted Purves, Raqs Media Collective, Gregory Sholette, SUPERFLEX, Christine Tohme, Bik Van der Pol, and Sue Bell Yank.

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パブロ・エルゲラ著 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

ソーシャリー・エンゲイジド・アートを学ぶ人、教える人、実践する人の必携書!

ソーシャリー・エンゲイジド・アートとは、アートはもちろん、教育学、社会学、言語学、コミュニケーション学などさまざまな分野を横断したアクティビティである。他の分野で得られた知見を活用しながら、プロジェクトを組み立て、コミュニティと深く関わり、社会にポジティブな影響を与えると同時に、アートとしての役割を失わないための、知識とテクニック、そして心構えを説く。

41n8EJUdvDL<著者紹介>
Pablo Helguera 1967年メキシコシティ生まれ。ニューヨーク在住。ビジュアル&パフォーマンス・アーティスト、教育者、著述家として幅広く活動し、2007年からはニューヨーク近代美術館(MoMA)の教育課でアダルト&アカデミック・プログラムのディレクターを務めている。同時に、ソーシャリー・エンゲイジド・アートを教育に結びつけて推進する第一人者でもあり、2011年に出版した『Education for Socially Engaged Art:A Materials and Techniques Handbook』をは、アートスクールや大学の教材として広く採用されている。

日本語訳『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』が2015年3月23日
フィルムアート社より出版!

SEA入門書
Socially Engaged Art
ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門  
アートが社会と深く関わるための10のポイント  
2015年3月23日(月)フィルムアート社より発売!  
パブロ・エルゲラ=著
アート&ソサイエティ研究センター SEA研究会=訳
本の詳細

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第7回 「Collaboration」を読む (2014年1月10日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

V  Collaboration 協働 (pp.51〜57) サマリー

SEAにおいてアーティストはプロジェクトの概念的ディレクターであり、コラボレーションのあり方は通常アーティストによって設定される。アーティストと参加者の役割を考える際の重要なポイントはアカウンタビリティと専門性(専門的技術)であり、相互間の説明責任をきちんと認識する必要がある。それには、Pablo Freireの批評教育学が参考になり、それは「知らないことを教えるのではなく、彼ら自身の専門性を発見して、これから彼らが何を知る必要があるかを自身で決めるのを助けること」なのである。
 またテーマや構成について、初めから決められていない枠組みを提供する必要がある。それは、特定のイシューにまつわる新たな視点を生み出すための経験をもたらし、方向付ける枠組みを提供することである。そのためにOpen Space Technology(OST)(集団でのブレインストーミングのひとつの形式)が有効であり、グループの必要性や関心事を理解する上で非常に参考になる。

ディスカッション

  • 海外ではアーティストが主導して活動をはじめることが主流だが、日本の場合、行政や関係団体が枠組みや目的を予め決めてアーティストを招聘するというやり方が多い。
  • この差異よって、アーティスト役割、参加者との関係性が大きな影響をうけるといえるだろう。
  • 海外の場合は明確なイッシューがあり、それに向けて具体的な解決策を探ろうとする活動が多いといえるだろう。
  • グリーンズなどで紹介されている活動との違いは?ソーシャル・デザインとの違いは?
    アートである。

  • 著者はアーティストが主導してコミュニティに入っていく活動と、コミュニティからの要請で入っていっていっしょに考える、コミッションされるケースと両方あると述べている。
  • この場合の双方の説明責任と枠組みのつくり方には当然違いがでてくる。
  • 予め枠組みが規定されてなく、参加者とともに考える、というプロセスにもってゆくことが重要でありそうだ。しかし、実際問題参加者がそこまで能動的に参加する事例は少ないといえるだろう。
  • その意味で批判的教育学、OSTの手法は有効だし、アーティストが一方的にリードするような手法を回避するための考え方として、参考にすべきだろう。
    (モデレーター 清水)

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    第6回 「Conversation」を読む (2013年12月12日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅳ Conversation  会話 (pp.39〜49) サマリー

    SEAでは、目的(たとえば、あるテーマについて共通の理解に到達したり、ある問題について注意喚起したり、特定の問題を議論したり、最終成果を協働で作り上げること)を達成するために、アーティストとコミュニティとの会話が重要になる。会話は、内容の特性と形式の特性の掛け合わせによって、形式張ったレクチャーから日常会話まで、いくつかの類型に分けられる。しかし、多くのSEAアーティストはこういった会話の構造を学ばずに、直感と試行錯誤に基づいて会話を行っていることか多い。プロジェクトの目的を達成するには、アーティストは会話の構造を理解し、また、参加者の問題に対するエンゲイジメントのレベルに応じて、会話を構築する必要がある。
    SEAプロジェクトにおいては、アーティストは功利主義的になったり、父親的温情主義に流れたりするのではなく、コミュニティの利益や関心事に真摯に向き合い、会話の参加者がコンテンツを投入(インベスト)しやすい構造を用意し、アーティストと参加者の交換によって新しい洞察が生まれるような関係を築かなければならない。

    <会話の構造>
    会話概念図

    ディスカッション

     

  • この章は、概念的な内容。会話の構造が図示されており、会話の主宰者はこれを意識すへきだが、SEAにおける具体的な事例があればより分かりやすい。
  • たとえば、会話が目指すゴールは“真実と洞察(truth and insight)”であるというが、どのようなことか。
  • SEAではアーティストがファシリテーターとなって会話をつくり出し、コミュニティの問題に取り組む場合が多いが、これはコミュニティ・デザイナーとどう違うのか。
  • アーティストとコミュニティの間の距離の取り方は? アーティスト・イン・レジデンスなどでは、どちらも不満を感じる場合がある。
  • この本ではSEAのプロセスに焦点を当てて議論しているが、アートとしての評価も重要だ。「なぜアートなのか」という説得力が、特に日本では必要ではないか。
  • SEAでは、ディスカーシブ・モデル、ディスカーシブ・スペースなど「ディスカーシブ(discursive)」という言葉が頻出する。dscursiveは、discourseから派生した言葉で、dialogicまたはconversational(対話型・対話型)と同じような意味で、制約のない(open-ended)会話から何らかの結論・合意に到達しようとするときに使われる。日本語でぴったりした訳がないので、考える必要がある。
    (モデレーター 秋葉)

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    第5回 「Situations」を読む (2013年11月 22日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅲ Situations  状況 (pp.27〜38) サマリー

    ソーシャリー・エンゲイジド・アートが関わるコミュニティにはそれぞれ特有の社会的シナリオがある。その多様性を理解することがプロジェクトを成功に導くカギとなる。本章では、SEAプロジェクトで生じる典型的な状況について、著者は3パターンの架空なシナリオを想定し、プロジェクトを進める際にアーティストが直面するであろう葛藤とその対処について、シナリオごとにあぶり出していく。プロジェクトに対するコミュニティの期待や、アーティストがそれを認識した上で、いかに人びとの認識を変化していくことができるのか、対人関係の分析心理学、社会学の理論を援用しつつ読み解いていく。さらに、 ソーシャル・ワークとSEAの対人関係におけるアプローチの類似点と相違点をあげ、両者を同一化してしまう危険性を指摘しながらも、ソーシャル・ワークの実践からSEAプロジェクトを行う上でアーティストが学ぶべき点を明らかにしていく。

    ディスカッション

    【SEAプロジェクト始まり、成り立ちについて】

  • アーティストが対象コミュニティの課題を見極め、自身のプロジェクトのテーマとして取り組む意思を固める前に、早々とSEAプロジェクトを開始してしまうことは問題ではないか? SEAは何故行われるのか?そもそもその場(コミュニティ)に必要とされているのか熟考すべきなのではないか。
  • アーティスト側の課題として、自身の関心事を優先してプロジェクトを始める事が多く、コミュニティを最終的には利用してしまうケースも見受けられる。

    【コミュニティとの関係】

  • アーティストがコミュニティに寄り添い過ぎることも、乖離し過ぎることも良い結果にはならないだろう。日本におけるアート・プロジェクトは、前者であることが多いのではないか。

    【ソーシャル・ワークとの相違】

  • ソーシャル・ワークはそもそも自己表現を目的としていない。SEAはアートの表現行為であり、自己表現である。時には調和的な結果を求めるのではなく、社会的な批判性を持ち合わせるものだ。
  • 両者には類似点が多くあるが、むしろ違いこそが重要なのではないか?他の研究者や評論家らがSEAの特色をいかに捉えているか今後調査していく必要があるだろう。
    (モデレーター 工藤)

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    第4回 「Community」後半を読む (2013年11月8日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅱ Community (後半pp.19〜25) を読む

      長期間のコミットが成功を生むのか?オーディエンスは予め設定できるのか?

      < C.ヴァーチャルな参加 : ソーシャル・メディア>
      <時間と努力>
      <オーディエンスに関する質問>

      ソーシャル・ネットワークはコミュニケーションに新たな流動性をもたらし、作品が継続展開してゆく有効な手段となるだろう。一方でSEAは個人、地域をより直接的につなぐ手段として盛んになっているともいえる。このように、SEAはオーディエスと密接に結びついており、そこには潜在的にオーディエンスが存在するといえる。加えて、最も成功するSEAプロジェクトは長期間にわたり特定のコミュニティのなかで活動し、アーティストが参加者を深く理解して展開された場合である。しかし、資金提供者にオーディエンスや場所の要素を予め規定される場合には、難解な作品を、関心や課題が全く異なるコミュニティへ売ろうとする結果になることもある。そのためにもSEAにおいて、アーティストはオーディエンスを明らかにし、彼らに伝えたいメッセージを、自身のなかで明確にしておかなければならない。

      ディスカッション

       

    • ヴァーチャルな社会環境がソーシャル・ネットワークを強化して、社会的な活動やSEAに与える影響は大きいが、SEAはヴァーチャルな関係性が全盛のなかで、アーティストとより直截な関係により、参加者が時間や空間を共有しコミュニケートする手段として重要な役割を担っているといえる。
    • 著者は「SEAは長期間にわたり特定のコミュニティにコミットする場合成功する」と述べている。
    • そのベストな例: CuratorであるMorinがLaosやShakersのコミュニティに数年間介在して、複数のアーティストを招聘してプロジェクトや展覧会をおこなうというもの。妻有など、日本でおこなわれている活動と同じなのか、違うのか、他の事例を含めて精査する必要がある。
    • 著者が「オーディエンス」をどのレベルで捉えているのか?「参加者」と述べる場合とどのように違うのか、その辺りが明確にされていない。より精査して、レベルにおける差異を検討すべきである。
    • 資金提供者によって目的、期間や参加者のフレームが規定されお膳立てされている場合、アーティストが独自のモチベーションをもつことが難しいし、予定調和的な結果になってしまうことが多い。
    • 特に、海外に比較して、日本の場合はアーティスト主導の活動が少ない。そのなかで、アーティストが話しかけたいオーディエンスと伝えたいコンテクストを明確化することは可能なのだろうか?
    • アーティストが社会における問題意識に関心を寄せ、自らのメッセージを伝えるべき相手を想定できるか?それは教育やトレーニングの課題ともいえるだろう。
    • これはアーティストの存在価値を考える上で重要な要素のひとつだといえる。
    • (モデレーター 清水)

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    第3回 「Community」前半を読む (2013年10月18日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅱ Community (前半pp.9〜18) を読む

      SEAがコミュニティの絆を築く限りにおいて成功か? アートとソーシャル・ワークとの違いとは?

      <A. コミュニティの構築>
      <B. 多層的な参加の構造の構築>サマリー
      SEAプロジェクトはコミュニティと強い関係性をもち、コミュニティ構築のメカニズムとなっている。しかし、SEAはどのようなコミュニティの構築をめざしているのだろうか? SEAがコミュニティの絆を築く限りにおいて成功か?SEAのゴールは社会の価値を肯定する(調和)のか、社会の課題を非難する(対決)のか。 
      SEAの場合、そのプロセスそのものが社会的であり、一般の人びとが受け手という役割を超えて活動し、プラットフォームやネットワークを形成し、プロジェクトの効果が長期的に継続されることが強調される。そのなかで起こるインタラクションには、名ばかり、シンボリックなインタラクションと、アイディア、経験、コラボレーションが徹底的、深層的、長期的に交換される場合とがあり、それらは同等視できない。なぜなら、両者のゴールは違うからである。
      SEAでは多様な参加の層があり、実験的に、1. 名目の参加、2. 指示された参加、3. 創造的な参加、4. 協働の参加に分類できる。このような参加の枠組は、ゴール、作品評価、コミュニティ構築手法の評価に深く関係している。加えて、ソーシャル・ワークの場合のように、自発的、強制的、無意識など個々人の参加のあり方を認識することも重要である。

      ディスカッション

       

    • 参加者、鑑賞者、オーディエンス、ビジターなど、アート特有のことばもでてくるが、参加のレベルによる呼称の差異なども認識すべきである。
    • コミュニティの絆を築く限りにおいて成功か?社会の危機的状況や課題を顕在化させ、解決策を見つけようとする、政治的または反体制的な活動もあるだろう(Santiago Sierraの事例など)。
    • SEAのクライテリアや評価の軸は、その多様性ゆえの微妙なぶれが見られる。
    • アートとしてのアウトプットか(Bishop)、対話によるコミュニティ形成か(Kester)の議論があるが、そのバランスのあり方、アートとしての存在価値などを踏まえながら、我々もSEAのクライテリアと評価の軸を明確化していく必要がある。
    • アーティストの役割とは?ソーシャル・ワーカーではない、アーティストでなければならない特性とは?これを明確化することは、アーティストの教育の場で役立つだろう。
    • プロジェクト終了後も、参加者が自分たちで継続していけるようempowerされることが重要とあるが、その場合、アーティストの意図から新たな展開に向かうこともある。
    • その場合、アーティストのauthorshipとコミュニティのownershipの問題もでてくるだろう。
    • 著者は参加のレベルが1→4に向かうに従って成功につながるという考えであるといえるだろう。
    • 長時間のわたり地域にコミットするSEAはベストなプラクティスにつながると言っている(例 France Morinの活動)。めざすゴールが何なのか?観光振興、まちおこしに終わっていないか?を見極める必要がある。
    • 歌や音楽の場合、再現性が高く、拡がりやすいので、むしろ多くの人びとに共有され、個々人の意識に影響を与える可能性が高いのではないか?
    • アートはより直接的な介入、フェース・ツー・フェースのつながりによる活動が主流である。それによるメリットがあるはずである。アーティストの存在価値につながる可能性?
    • 一方で、藤浩志の「かえっこ」のように、OSを提示した後はアーティストが不在でもシステムとして機能するようなプロジェクトもある。
    • 今後、より多様なSEAの事例を検討して、参加のレベル、個々人の参加のあり方による結果の違いについて明確化していく必要がある。
    • (モデレーター 清水)

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    第2回 「Definition」を読む (2013年10月4日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅰ Definishion (pp.1〜8) のポイント

    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、コンセプチュアル・プロセス・アートの様式に属する。しかし、全てのプロセス・ベイスト・アートがソーシャリー・エンゲイジド・アートではない。
    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、社会的な関与(エンゲイジメント)が必須である。
    • 過去数十年、社会的な交流(インタラクション)に基づくアートは、様々な名で呼ばれてきた。
      relational aesthetics、community art、collaborative art、participatory art、dialogic rt、public art
    • 最近では、social practice と呼ばれることが多いが、この名称からは、アートメイキングとの関連が排除されてしまっている。
    • <分野のはざまで>

    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートには、本来アートメイキングの要素が備わっている。
    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、アートとして認められながらも、伝統的なアート様式と社会学、政治学など関連する分野との間の居心地が悪いポジションに座っている。しかし、そのポジションこそがこの種のアートの特徴である。
    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、通常は他の分野に属するテーマや問題に関わりながら、それを一時的にあいまいな空間に移動させる機能をもっている。
    • 対象を一時的にアートメイキングの領域に引っ張っていくことで、特定の問題や状況を新しい見方でとらえたり、他の分野に対して目に見えるものにしたりできる。こういった理由から、この種の活動に用いる最適な用語はやはり「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」である。
    • <象徴と現実のプラクティス>

    • 政治的、社会的な動機から始まっていても、アイデアや問題を象徴的に表現するだけ(represetation)の行為はソーシャリー・エンゲイジド・アートではない。
    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートに関わるアーティストは、公共圏(public sphere)に影響を与える集団的アートをつくりだすことに関心がある。
    • どんなソーシャリー・エンゲイジド・アートプロジェクトも、政治的・社会的立場を明確にすることを前提としている。
    • 「社会的交流social interaction」がソーシャリー・エンゲイジド・アートの中心であり、欠くことのできない要素である。ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、ハイブリッドで分野横断的なアクティビティであり、アートと非アートの中間のどこかに位置する。ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、想像や仮定ではなく、現実の社会的行為に基づくものである。

      ディスカッション

    • 「ソーシャル・プラクティス」という言葉は、アート関係者ならソーシャリー・エンゲイジド・アートのことだと分かるが、一般の人はアートと結びつけることはできない。
    • ソーシャリー・エンゲイジド・アートのコアに「アート」があることは、しっかり認識する必要がある。
    • 欧米のソーシャリー・エンゲイジド・アートは、具体的なソーシャル・チェンジと結びついて、都市で行われることが多いが、日本のアート・プロジェクトは、地域おこしを目的として地方で展開されることが多い。プロデュース型のアートエキジビションと同じで、それぞれのアートワークの目的(社会との関わり)が曖昧になる傾向がある。
    • 日本では、国外の活動と比較すると、社会とアートの関係性の可能性が十分開拓されていないのでは?
    • (モデレーター:秋葉)

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