リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)
ソーシャリー・エンゲイジド・アートという潮流

LAF展パンフレット

2014年11月15日〜28日に開催したリビング・アズ・フォーム展のパンフレットの紹介です。
リビング・アズ・フォーム展は、日本でこれまでほとんど知られることがなかった海外のソーシャリー・エンゲイジド・アート(Socially Engaged Art)を紹介する初の試みとして開催されました。
この展覧会は、社会と関わるアート活動をプロデュースしてきたNPO「クリエイティブ・タイム(Creative Time)」が、2011年秋に、世界のソーシャリー・エンゲイジド・アートをテーマに、Nato Thompson氏のキュレーションによってニューヨーク市で開催した画期的な展覧会「リビング・アズ・フォーム(Living as Form)」の巡回展(縮小版)です。
NPO法人アート&ソサイエティ研究センターは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートという活動が、いま世界で一つの潮流となっていることを、広く日本の人びとに伝えたいと考え、オリジナル展で紹介されたプロジェクトから代表的な11例を選び、本展覧会で紹介すると共に、そのサマリーを収録したパンフレットを作成しました。

ご希望の方はこちらのフォームよりお申し込みください。

Art & Society Research Center

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公開空地プロジェクト2015 “Heart Light Go-round”
(バレンタイン&ホワイトデー♥プロジェクト)

2015年の公開空地プロジェクトは、2月バレンタインのテーマを反映し、「LOVE」をテーマとした作品が展開された。志喜屋徹による「トランプ」の立体作品が、東京御茶ノ水の公開空地(お茶の水サンクレール/地下1階サンクガーデン)、屋内の通路に展示された。プラスチック製トランプをハトメで留めていくことで、動物、テトラポット、星などといったさまざまな立体造形がつくられた。
バレンタインを意識した「ハート型のフレーム」は夜間LED照明の光が放たれ、その中に組み込まれたトランプ造形にも暖かい光が灯る。
作品には、「大切な人」に向けたメッセージが参加者によって結びつけられ、♥マークのトランプが日を追うごとに増えていく。

屋内外の作品全体を包むように、お茶の水をテーマとして作曲家高木潤が書き下ろしたサウンド、五感演出プロデューサーの新井敦夫により「光と音が響きあう環境」がつくられ、サイトスペシフィックな共感覚表現が実現された。あたかも細胞が自然に結合しながら増殖するように、多くの参加クリエイターの「ハート力」が重なっていくプロジェクトとなった。

アーティスト 志喜屋徹 Akira Shikiya 新井敦夫 Atsuo Arai 高木潤 Jun Takagi
日 時 2015年2月2日(月)- 3月14日(土)
公開空地 お茶の水サンクレール B1サンクガーデン広場
協 賛 日本出版販売株式会社
協 力 SORA Synesthetic Design Studio Lighting Roots Factory

OA全体web
「Heart Light Go-round」
志喜屋 徹 Akira Shikiya
五感演出プロデュース、音具演出:新井敦夫 Atsuo Arai
作曲:高木 潤 Jun Takagi
演出照明施工:Lighting Roots Factory

♥︎カード&オブジェアップ
 
ふだん、なんとなく思ってはいても「愛」ってなかなか上手く表現出来ない。
片思いの人や、恋人に対しての「愛」はわりと表現しやすいかもしれないが、友達や家族、兄弟、会社の上司や部下への「愛」だって、飼っている犬や猫、植物に対する「愛」だって、すべての生きとし生けるものへの「愛」がきっとあるはずだ。ただ上手く表現していないだけなんだと思う。
「愛」が気恥ずかしいなら、「愛情」とか「思いやり」でもいいかもしれない。一度、コトバにしてみてほしい。オモテに表してみてほしい。そうすれば、ハッキリと自覚したり、それを見た人にも伝わる何かが、きっとあるはずだ。
ここにあるトランプでつくられた動物たちには、♥のカードが入っていない。
あなたが♥のカードに誰かへの♥を込めたメッセージを書き結びつけることで完成するアート作品だからだ。いっぱいになればなるほど動物たちにも♥がこもり、誰かに♥を伝えてくれるかもしれない。新しい♥が芽生えるかもしれない。(志喜屋 徹)

OAオブジェ全体web
 
回転するように見えるハートの光の輪郭、いのちの鼓動・律動を表すオブジェたちの光、
新生児の時の記憶を思い起こさせるような、優しい音の響き、これらが、光のメリーゴーラウンドになり、来街者たちの思いを集めて、サンクガーデンで回り始める。
その光跡は、開催期間の41日間、お茶の水の街の一隅に「時の光の記憶」として刻まれていく。
41日間が過ぎた後も、訪れた人々の心の中で、その光はずっと回り続ける。
それは「ハート・ライト・ゴーランド(Heart Light Go-round)」となっていくだろう。(新井 敦夫)

<場の気分を生み出し、お茶の水サンクレールをひとつの空気感でつなぐ音>をコンセプトに、楽曲3曲を作・編曲しました。1曲は、「ありがとうの感じ」。バレンタイン&ホワイトデーに贈り物をする時の、『ありがとう』のやりとりの瞬間、贈った人ももらった人もニヤニヤしちゃう「あの感じ」を楽曲に込めました。1曲はこの場所周辺の雰囲気を曲にしました。ニコライ堂、聖橋、神田明神。ビルが建ち並ぶ中でも漂う澄んだ空気を込めています。もう1曲は、サンクガーデンの風の印象のサウンドスケッチ。風が渡り、行き交う人の頬に触れた瞬間、爽やかな風のリズムが生まれる、そんな印象を楽曲に込めました。志喜屋徹さんの作品とともに、この空気感を楽しんで頂けたら幸いです。(高木 潤)


2月14日深夜にライトプログラムをレッドからブルーのホワイトデーバージョンに更新。  
撮影:©Atsuo Arai

展示オブジェ
hikariwomotomete3
「光を求めて Ⅰ. Ⅱ. Ⅲ」
志喜屋 徹 Akira Shikiya
五感演出プロデュース:新井敦夫 Atsuo Arai
作曲:高木 潤 Jun Takagi
演出照明施工:Lighting Roots Factory+光彩照明デザイン工房

アーティストプロフィール

shikiya photo志喜屋 徹 AKIRA SHIKIYA
兼業造形アーティスト 沖縄県生まれ 1991年 沖縄県立芸術大学卒業  1993年 東京藝術大学大学院修士課程修了  1996年 東京藝術大学大学院博士課程満期退学
広告という「世の中の人にモノゴトをどう伝えるか」を考え表現するサラリーマンとしての仕事をしながら、造形アーティストとして、六本木や横浜、香港、シンガポール、ロサンゼルスなどで展覧会や表現活動を行う。日常生活の中で当り前すぎて、関心を向けられない存在であったり、価値のない消費物として扱われるモノたちを、ちょっと視点を変え「モノが持っている別の能力」を(発見し、その力を)発揮させるコトによって、今まで見たコトのない、モノから機能性を消し、アートへと関心や注目を集めるモノに変貌させるコトを得意としている。世の中の情報や常識とは関係なく、個人の内面にある「もともと知っている力」を発見出来れば、ありきたりな日常も、生き方も変化すると考えるアーティストであり、生活においての「プチ革命家」である。

arai photo新井 敦夫 ATSUO ARAI
五感演出プロデューサー。1960年東京生まれ。音環境デザインのプランナー・プロデューサーを経て、音、光、香り等、五感の相乗効果を活かした環境演出・デザインや、ソーシャルアート等の企画・プロデュースに取り組んでいる。
東京メトロ南北線「発車サイン音」のデザイン・ディレクション等、実績多数。
「シネステティック・デザイン(五感にひびく『感覚の味わい』を生み出すアート&デザイン)」をテーマにした研究・創造活動組織「SORA Synesthetic Design Studio(SORA SDS)」代表。

takagi photo高木 潤 JUN TAKAGI
ギタリスト、作・編曲家、サウンドデザイナー。SORA SDSメンバー。
様々な映画、舞台、CM等の音楽、アーティストへの楽曲提供を手がける。
劇場公開映画「ムンクの叫び」、「たべんさい 広島ラーメン物語」(葉山陽一郎監督作品)の劇中音楽、サウンドデザインを担当。

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SEA(Socially Engaged Art) アイディア・マラソン

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“日本の社会派アートを提案する
「SEAアイディア・マラソン」を開催!”

プレゼンテーション日時 2015年3月15日(日)13:00-21:00

昨年11月に開催した、展覧会「リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)」のコンセプトをさらに深めるため、いま日本において、どのようなソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEAシー)が求められ、どのように実践していくべきかを考える「SEAアイディア・マラソン」を開催します。
これは、地域の具体的課題や社会問題に取り組んだり、将来に向けての提言を行うアート・プロジェクトのアイディアを次々にプレゼンテーションして講評、議論するイベントです。日本のSEAの現在と未来について、プレゼンターとオーディエンスがともに構想するプラットフォーム形成に参加してみませんか?

SEAシー アイディア・マラソン プレゼンテーション(一般に公開します)

開催日
2015年3月15日(日)13:00-21:00
会場
3331アーツ千代田 3階 306室(B105室より変更になりました) 
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
オーディエンス
定員
20名(先着順) 参加費無料
発表時間
各自持ち時間15分+質疑5分で20名(組)程度を予定。
プレゼンテーションの講評
プレゼンテーション、ディスカッションの終了後、講評者、オーディエンスが優秀なアイディアを選ぶ投票を行い、グランプリ1名(組)、準グランプリ2名(組)を決定します。
参加予定の
講評者
秋葉美知子(A&S主席リサーチャー)
岩井成昭(アーティスト、秋田公立美術大学教授)
菊池宏子(クリエイティブ・エコロジー代表)
工藤安代(A&S代表)
倉林靖(美術評論家)
今野綾花(フィルムアート社編集者)
佐藤慎也(建築家、日本大学准教授)
清水裕子(大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)
神野真吾(千葉大学准教授)
藤元由記子(BIOCITY編集長)
賞金
グランプリ 1名(組) 5万円  準グランプリ 2名(組)) 2万円

プレゼンターの特典

  • 各プレゼンテーションは2015年5月発行予定のSEAマラソン記録集へ掲載し、プレゼンターに贈呈します。
  • アート&ソサイエティ研究センターで運営するP+ARCHIVEのサイトに各プレゼンテーションをアーカイブするとともに、各種メディアに広報します。
  • 優秀なアイディアについては、プロジェクトの可能性を勘案したうえで、実現にむけた支援を行う予定です。
  • 優秀なアイディアは環境から地域創造を考える総合誌「BIOCITY」に紹介されます。
  • ニューヨークのアートNPO、Creative Timeのサイト内でリポートされる可能性があります。
    http://creativetime.org/

その他注意事項

  • 著作権その他第三者の権利を侵害しているものは、審査の対象外となります。また、受賞発表後であっても、これらの条件に反していることが判明した場合、受賞を取り消します。
  • 提出された資料は原則として返却いたしません。必要な場合は予め控えを残した上でご応募ください。
  • 応募要項に記載された事項以外について取り決める必要が生じた場合、主催者の判断により決定します。応募者は、その内容に同意できなかった場合は応募を撤回できますが、応募にかかった一切の費用は返却いたしません。
  • 受賞者の氏名、経歴などは、印刷物、ウェブサイトなどで公表させていただきます。
  • 個人情報は、応募作品の受付や問い合わせ、審査の結果通知、その他コンペの業務で必要と思われる事項ために利用させていただきます。原則として、法令の規定に基づく場合を除き、ご本人の承諾なしに、それ以外の目的で個人情報を利用または第三者に提供することはいたしません。その他個人情報の取り扱いにつきましては、主催団体の「プライバシーポリシー」をご参照ください。

SEAシーとは?

SEA(「シー」)は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの略称です。アートといっても、アートワールドの閉じた領域から脱して、現実の世界に関わり、人びとの日常から既存の社会制度まで、何らかの“変革”をめざす分野横断的な創造活動を総称するものです。
たとえば都市計画や福祉、教育、環境、人権、コミュニティ運動や政治への疑問など、日常生活で私たちが直面するさまざまな問題や課題を、美術や演劇、音楽、パフォーマンスといったクリエイティブな表現と結びつけ、これまで見えなかったものを可視化したり、気づかなかったことを明らかにすることによって社会に現実的な変化をもたらそうとする、チャレンジングな試みともいえます。

世界のSEAプロジェクトの事例

問い合わせ

〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 311E
NPO法人 アート&ソサイエティ研究センター
email: info@art-society.com

応募フォーム

プレゼンターの募集は3月6日に応募を締め切りました。
たくさんのお申し込みありがとうございました。

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世界のSEAプロジェクトの事例

SEAとは具体的にどんなものかを知りたい方は、以下をご参照ください。「リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)」で紹介した、世界のSEAプロジェクトの事例です。

  1. 「プロジェクト・ロウ・ハウス」 “Project Row Houses”
  2. 「ホームレスのための医療バン」 “Medical Care for Homeless People”
  3. 「ルーフ・イズ・オン・ファイア」 “The Roof is on Fire”
  4. 「チョーク」 “TIZA(Lima)”
  5. 「中絶船プロジェクト」
  6. 「不平合唱団」 “Complaints Choir”
  7. 「子どもたちによるヘアカット」 “Haircuts by Children”
  8. 「廃棄物プロジェクト」 “Residuous Urbanos Sólidos (RUS) (Solid Urban Waste)”

All Photos Courtesy of ICI and CREATIVE TIME.

SEAprojects01

リック・ロウ Rick Lowe
「プロジェクト・ロウ・ハウス」 “Project Row Houses”
1993-  テキサス州ヒューストン(アメリカ合衆国)

1993年、アーティストのリック・ロウは、低所得のアフリカ系アメリカ人が多く住むテキサス州ヒューストンの第3区で、打ち棄てられ、取り壊される予定だった22戸の住宅をアーティスト仲間の協力を得て買い取った。彼は何百人ものボランティアの協力を引き出して、建物の保存に乗り出した。通りの清掃から始め、ファサードの再生、古びた家の内装の修復・・・。このアクティビスト集団はだんだん大きくなり、全米芸術基金や民間財団から助成金を得て、暗く荒廃した細長い土地を、アーティスト・イン・レジデンス施設、ギャラリー、公園、商業ゾーン、庭園、若いシングル・マザーが自立するまでの一時的住居を含む、いきいきした一画に変えていった。《プロジェクト・ロウ・ハウス》と呼ばれるこの取り組みは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートによる地域の持続的発展のモデルケースとして知られる。この活動により、ロウは2014年9月、“天才賞”と呼ばれるマッカーサー・フェローに選ばれ、625,000ドルの助成金を獲得している。

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SEAprojects02

ヴォッヘンクラウズール WochenKlausur
「ホームレスのための医療バン」 “Medical Care for Homeless People”
1993-  ウィーン(オーストリア)

オーストリアの人々は、国民皆保険制度のもとで医療サービスを受けている。しかし、それは住民登録に基づく非常にお役所的なシステムのため、ホームレスは対象にならない。
ウィーンを拠点とするコレクティブ、ヴォッヘンクラウズールは、いつも多くのホームレスが集まっている広場、カールスプラッツで、無料の移動クリニックを開設する計画を立てた。そのクリニックは、基本的な医療機材を備えたパンの前で診療するというものだった。バンは試作車としてデザインされ、1993年当初は、11ヵ月間のみ稼働させる予定だった。それがいまだに、ウィーン市内の公共広場を回って毎日移動しており、市からの支援を得て、月600人以上に医療サービスを提供している。

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SEAprojects03

スザンヌ・レイシー Suzanne Lacy
「ルーフ・イズ・オン・ファイア」 “The Roof is on Fire”
1994  カリフォルニア州オークランド(アメリカ合衆国)

1994年のある午後、カリフォルニア州オークランドの高校生220人が、ビルの屋上駐車場に止めた100台のクルマのシートに座って、暴力、セックス、ジェンダー、家族、人種について語り合っていた。10代の若者たちが、台本など無しで率直に話す中、1,000人近い観衆(大勢のリポーターや撮影班も含まれていた)が、クルマからクルマへ歩き回り、車体にもたれかかったり、のぞき込んだりしながら、彼らの会話を聞いた。
オークランドのティーンエイジャーは、以前から、暴動、暴行や警察との衝突にからんで、ネガティブに報道されることが多かった。しかし、このイベントは、アーティスト、スザンヌ・レイシーがTEAM(Teens、Educators、Artists、Media workers)と名付けたグループとともに、若者たちが厄介者ではなく市民として登場する、プラス志向のメディア・スペクタクルとして構想したものだった。
このパフォーマンスの記録映像として制作された《ルーフ・イズ・オン・ファイア》は、多くの地方テレビ局とCNNで全米にオンエアされた。

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SEAprojects04

アローラ&カルサディーラ Jennifer Allora and Guillermo Calzadilla
「チョーク」 “TIZA(Lima)”
1998-2006  リマ(ペルー)他世界各地

ジェニファー・アローラとギレルモ・カルサディーラは、長さ5フィート(1.5m)の巨大なチョークを12本を公共広場に置き、チョークのかけらを使って、地面に、落書きでも、自己表現でも、好きなやり方でメッセージを書くよう通行人に促した。こうして、チョークは、つかの間の創造を可能にする素材に変化する。
リマでは、政府ビルのすぐ前にチョークを置いたので、通行人は駆り立てられ、広場は政治家を批判するメッセージであふれる大きな黒板に変わってしまった。ついに、盾を構えヘルメットをかぶった軍の警備当局者が、チョークを没収し、扇情的な政治的意見を地面から洗い流した。

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SEAprojects05

ウィメン・オン・ウェイブ Women on Waves
「中絶船プロジェクト」
2001-  オランダ発世界各地

医師レベッカ・ゴンパーツ率いる「ウィメン・オン・ウェイブ」は、、女性の健康管理のための権利擁護団体で、その目的は、非合法で危険な妊娠中絶をなくし、女性の身体的、精神的自律の権利を守ることである。彼女らは、オランダ船籍の洋上クリニックを建造し、妊娠中絶が非合法とされている国に向かって航海。港から12マイル離れた公海でいかりを下ろし、オランダの法律に基づいて、乗船した女性に対して、経口妊娠中絶薬の処方や安全な中絶手術ができるようにした。
メディアはこれを知ると騒ぎ出し、激しい抗議行動を引き起こす。船がポルトガルに近づいたときは軍隊が介入し、ポーランドでは、偽の血液や卵が投げつけられた。実際、洋上での中絶手術が行われたことは一度もなく、船内でなんらかの中絶処置を受けた女性は50人に過ぎないのだが、パフォーマンス的にメッセージを発信し、メディアを巻き込んで議論を巻き起こすことで、「ウィメン・オン・ウェイブ」は社会に対して強烈な問題提起をしている。

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SEAprojects06

テレルヴォ・カルレイネン&オリヴァー・コフタ=カルレイネン 
Tellervo Kalleinen and Oliver Kochta-Kalleinen
「不平合唱団」 “Complaints Choir”
2005- 世界各地

フィンランドに住むアーティスト、テレルヴォ・カルレイネン&オリヴァー・コフタ=カルレイネンは、不平不満を言う人々の言葉が文字通り“不平合唱”に変わるのを聞き、2005年に《不平合唱団》プロジェクトを開始。そのプロセスはシンプルだ。まず、人々を集める。次に、良い音楽家を見つける。人々の不平不満を集めて、歌詞にし、合唱のリハーサルをした後、公開の場で披露。それをレコーディングして「Complaints Choir」ウェブサイトに投稿する。英国のバーミンガムで最初のコーラスを行って以来、この仕組みは“オープンソース”として世界中に広まり、いまでは約140の不平合唱団が活動中である(2014年2月現在)。
合唱される不平不満は、明らかに政治的なものから非常に個人的なものまでさまざまだ。しかし、カルレイネン&コフタ=カルレイネンは「私的、個人的なことはきわめて政治的でもある」という。

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SEAprojects07

ママリアン・ダイビング・リフレックス Mammalian Diving Reflex
「子どもたちによるヘアカット」 “Haircuts by Children”
2006-  トロント(カナダ)他

ある日、トロントのパブリックスクールの5~6学年の生徒たちが、市内各所の美容院で、無料のヘアカット・サービスを行った。彼らは、プロのスタイリストの指導で、マネキンの長い髪を使い、前髪の切り方、カーラリングの仕方、襟足の剃り方、ロングレイヤーのカット方法、ブロウドライヤーの使い方を1週間にわたって研修した後、このイベントに臨んだ。ヘアカット・サービスをする間、大人たちが見守っているものの、子どもたちは二人一組あるいはグループで、ヘアカラーを選んだり、髪の長さを決める“美的決定”を自ら行った。そしてお客は新米美容師を信頼した。
このプロジェクトは、トロントを拠点とするアート&リサーチ集団、ママリアン・ダイビング・リフレックスが企画制作し、子どもたちに、創造的な決定のできる個人としての、責任と自信を持たせると同時に、大人たちの子どもに対する見方を変えることを目的としている。

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SEAprojects08

バスラマ Basurama
「廃棄物プロジェクト」 “Residuous Urbanos Sólidos (RUS) (Solid Urban Waste)”
2008-  世界各地

バスラマは、廃棄物とその再利用を考えるアーティスト、建築家、デザイナーのグループである。彼らは、コミュニティと協働で、どんなゴミをどのように取り扱い、そこからどのように世界の見方を明らかにできるかを探求している。グループの活動の中心は、実際に廃棄物を集め、それを素材に使って、パブリック・スペースを再生することだ。
彼らは2008年から、世界中の多くの都市で、この活動を《廃棄物プロジェクト》シリーズとして行っている。たとえば、リマでは、廃線となった鉄道を再生するために、地元のアーティストやコミュニティの人々を誘い、線路に沿って遊園地を作った。マイアミでは、学校の生徒の協力を得て、古い自動車部品から楽器を作った。ヨルダンのジャラシュの難民キャンプでは、パレスチナ難民とともに、子どもたちの遊び場や休養のための日陰エリアを作り、ブエノスアイレスでは、廃棄された段ボールを使って、仮設のスケート場を作った。

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公開空地プロジェクト2015 “Heart Light Go-round”(バレンタイン&ホワイトデー♥プロジェクト)開催のお知らせ

フレーム製作図

2015年公開空地アート・プロジェクトは、お茶の水サンクレールにて開催。ハート型フレームの中にトランプで作ったオブジェが飾られます。
回転するように見えるハートの光の輪郭、いのちの鼓動・律動を表すオブジェたちの光、これらが、光のメリーゴーラウンドになり、来街者たちの思いを集めて、サンクガーデンで回り始めます。

動物のオブジェ2

2015年2月2日(月) 〜 3月14日(土) 
開催場所:B1サンクガーデン広場
アーティスト:志喜屋徹 AKIRA SHIKIYA
五感演出プロデュース:新井敦夫 ATSUO ARAI
協賛:日本出版販売株式会社
協力:SORA Synesthetic Design Studio
   Lighting Roots Factory

2015年公開空地アート・プロジェクト“Heart Light Go-round”とは:バレンタインにちなんで「LOVE」をテーマとした光と音とオブジェが結合したサイトスペシフィックな参加型プロジェクト。アーティスト志喜屋徹による「トランプ」の立体作品が、赤色LED照明で光るハート型フレームの中で暖かい光を灯しながら揺れる。ハート型フレームには、「大切な人」に向けたメッセージが参加者によって結びつけられる。愛のメッセージが書かれた♥マークのトランプが日を追うごとに増えていくことによって完成する作品。

箱一杯のトランプがどんなオブジェへと変貌を遂げるのか?!

箱一杯のトランプがどんなオブジェへと変貌を遂げるのか?!

トランプに穴を空けるのが第一工程

トランプに穴を空けるのが第一工程

トランプ18枚を使用して完成したオブジェ

トランプ18枚を使用して完成したオブジェ

次々と完成していくオブジェ

次々と完成していくオブジェ

オブジェの制作風景。中央がアーティストの志喜屋氏

オブジェの制作風景。中央がアーティストの志喜屋氏

フレームに仕込む光源をテスト中

フレームに仕込む光源をテスト中

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「シブヤのスキマを見つけよう」 -あなただけの渋谷を発見―

「シブヤのスキマを見つけよう-あなただけの渋谷を発見-」は、実践女子学園アート・コミュニケーション研究所による、芸術を通じたコミュニケーション教育の可能性を研究することを目的としたワークショップです。写真という表現活動を介して、渋谷のまちの文化や歴史を探索します。いままで気が付かなかった大都市の隠された魅力をパーソナルな視点から読み解いていきます。

ACP

概要

場 所:実践女子大学渋谷キャンパス1階「プレゼンテーションルーム」
    〒150−8538東京都渋谷区東1-1-49
    実践女子大学渋谷キャンパス
    アクセス>http://www.jissen.ac.jp/access_guide
日 程:2014年12月13日(土)・14日(日) ※小雨開催
時 間:13:00〜17:00
対 象:どなたでもご参加いただけます(一般市民、学生)
定 員:30名程度
参加費:無料

内 容:プロカメラマンとの写真ワークショップ
持ち物:デジタルカメラやスマートフォン等撮影機材をお持ちの方はご持参ください。
その他:当日の撮影は、インスタントカメラ=チェキを貸与して行います。チェキをお持ちの方はご持参下さい。フィルムは当方が用意いたします。

主 催:実践女子学園アート・コミュニケーション研究所
共 催:特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター

当日のスケジュール

イントロ+フィールドワーク+発表+ふりかえり
宮腰さんから写真のショートレクチャーを受けたのち、グループに分かれて渋谷のまちに出かけます。渋谷の風景をパーソナルな視点で撮影して会場にもどります。自分たちが出会い、そこで見つけた渋谷のまちについて発表するワークショップをおこない終了します。

[12:45]
受付開始(プレゼンテーション・センター)
[13:00]
集合
開会の挨拶/ワークショップの説明/宮腰講師の紹介
[13:15]
講師によるイントロダクション
[13:45-15:30]
フィールドワーク(グループに分かれて)
[15:45]
集合
[16:00]
グループ毎の発表会&ふりかえり
[17:00]
解散

お申込み/お問い合せ先

実践女子学園アート・コミュニケーション研究所
〒150−8538東京都渋谷区東1-1-49
実践女子大学文学部椎原伸博研究室内
tel: 03-6450-6896
Mail: kudoyasuyo@gmail.com

アーティスト プロフィール

selfportlait

宮腰まみこ(Mamiko Miyakoshi)

長野県出身。大学卒業後、デザイン会社で写真雑誌を手がけたことがきっかけで写真家の道へ。松涛スタジオ勤務、カメラマンアシスタントを経て独立。映画スチール、写真集、雑誌、広告で活動。RICOH×PHOTOGRAPHERS SUMMIT「恋するGR」 フォトコンペグランプリ受賞。現在「東京画プロジェクト(http://www.tokyo-ga.org)」参加中。

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[プレゼンター公募!]SEA(Socially Engaged Art) アイディア・マラソン

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“日本の社会派アートを提案するプレゼンターを募集!”

応募期間 2014年12月22日(月)〜 2015年3月6日(金)
プレゼンテーション日時 2015年3月15日(日)13:00-21:00

昨年11月に開催した、展覧会「リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)」のコンセプトをさらに深めるため、いま日本において、どのようなソーシャリー・エンゲイジド・アート(SEAシー)が求められ、どのように実践していくべきかを考える「SEAアイディア・マラソン」を開催します。
これは、地域の具体的課題や社会問題に取り組んだり、将来に向けての提言を行うアート・プロジェクトのアイディアを次々にプレゼンテーションして講評、議論するイベントです。日本のSEAの現在と未来について、プレゼンターとオーディエンスがともに構想するプラットフォーム形成に参加してみませんか?

応募概要

応募内容
地域の具体的課題や社会問題に取り組んだり、これから取り組むアート・プロジェクトのアイディアを募集します。(実現の可能性は問いません)それを次々にプレゼンテーションしてSEAの今後の可能性について意見交換します。(日本国内で実施することを想定したアイディアとします)海外で既に行われているSEAプロジェクトの事例は下記をご覧ください。
世界のSEAプロジェクトの事例
応募資格
SEAに関心のある方ならだれでも応募できます(ただし、上記の日時・場所で、日本語でプレゼンテーションを行うことができる方に限ります)。個人でもグループでも可。
応募期間
2014年12月22日(月)〜2015年3月6日(金)
エントリー料
無料(ただし、プレゼンテーション料は3,000円)
審査
応募フォームとプレゼン資料の審査を行い、プレゼンターを決定(20名/組程度)

SEAシー アイディア・マラソン プレゼンテーション(一般に公開します)

開催日
2015年3月15日(日)13:00-21:00
会場
3331アーツ千代田 3階 306室(B105室より変更になりました) 
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
発表時間
各自持ち時間15分+質疑5分で20名(組)程度を予定。
プレゼンテーションの講評
プレゼンテーション、ディスカッションの終了後、講評者、オーディエンスが優秀なアイディアを選ぶ投票を行い、グランプリ1名(組)、準グランプリ2名(組)を決定します。
参加予定の
講評者
秋葉美知子(A&S主席リサーチャー)
岩井成昭(アーティスト、秋田公立美術大学教授)
菊池宏子(クリエイティブ・エコロジー代表)
工藤安代(A&S代表)
倉林靖(美術評論家)
今野綾花(フィルムアート社編集者)
佐藤慎也(建築家、日本大学准教授)
清水裕子(大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員)
神野真吾(千葉大学准教授)
藤元由記子(BIOCITY編集長)
賞金
グランプリ 1名(組) 5万円  準グランプリ 2名(組)) 2万円

応募方法

  1. 応募フォームに記入して送信してください。
  2. プレゼンテーションに用いる資料をデータでお送りいただきます。(パワーポイント、映像、画像等)
    プロジェクトのタイトルと応募者名を最初に必ず入れてください。
    件名は「SEAマラソン応募資料」とし、e-mailで送信してください。
    送付先アドレス:info@art-society.com
  3. データ応募資料の他に、DVD、CD、ドキュメントなど付帯資料がある場合は、下記宛先へ郵
    送してください(その場合応募フォームのコピーを添付のこと)
    〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 311E
    「NPO法人 アート&ソサイエティ研究センター SEAマラソン係」宛

※2015年3月6日(金)に応募は締め切りました。

プレゼンターの特典

  • 各プレゼンテーションは2015年5月発行予定のSEAマラソン記録集へ掲載し、プレゼンターに贈呈します。
  • アート&ソサイエティ研究センターで運営するP+ARCHIVEのサイトに各プレゼンテーションをアーカイブするとともに、各種メディアに広報します。
  • 優秀なアイディアについては、プロジェクトの可能性を勘案したうえで、実現にむけた支援を行う予定です。
  • 優秀なアイディアは環境から地域創造を考える総合誌「BIOCITY」に紹介されます。
  • ニューヨークのアートNPO、Creative Timeのサイト内でリポートされる可能性があります。
    http://creativetime.org/

その他注意事項

  • 著作権その他第三者の権利を侵害しているものは、審査の対象外となります。また、受賞発表後であっても、これらの条件に反していることが判明した場合、受賞を取り消します。
  • 提出された資料は原則として返却いたしません。必要な場合は予め控えを残した上でご応募ください。
  • 応募要項に記載された事項以外について取り決める必要が生じた場合、主催者の判断により決定します。応募者は、その内容に同意できなかった場合は応募を撤回できますが、応募にかかった一切の費用は返却いたしません。
  • 受賞者の氏名、経歴などは、印刷物、ウェブサイトなどで公表させていただきます。
  • 個人情報は、応募作品の受付や問い合わせ、審査の結果通知、その他コンペの業務で必要と思われる事項ために利用させていただきます。原則として、法令の規定に基づく場合を除き、ご本人の承諾なしに、それ以外の目的で個人情報を利用または第三者に提供することはいたしません。その他個人情報の取り扱いにつきましては、主催団体の「プライバシーポリシー」をご参照ください。

SEAシーとは?

SEA(「シー」)は、ソーシャリー・エンゲイジド・アートの略称です。アートといっても、アートワールドの閉じた領域から脱して、現実の世界に関わり、人びとの日常から既存の社会制度まで、何らかの“変革”をめざす分野横断的な創造活動を総称するものです。
たとえば都市計画や福祉、教育、環境、人権、コミュニティ運動や政治への疑問など、日常生活で私たちが直面するさまざまな問題や課題を、美術や演劇、音楽、パフォーマンスといったクリエイティブな表現と結びつけ、これまで見えなかったものを可視化したり、気づかなかったことを明らかにすることによって社会に現実的な変化をもたらそうとする、チャレンジングな試みともいえます。

世界のSEAプロジェクトの事例

問い合わせ

〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 311E
NPO法人 アート&ソサイエティ研究センター
email: info@art-society.com

応募フォーム

プレゼンターの募集は3月6日に応募を締め切りました。
たくさんのお申し込みありがとうございました。

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子どもは見つけ、大人は考える
10/11・12開催「くんくんウォーク – まちと自然と香りを楽しむワークショップ –」を終えて

常に身の回りに存在し、無意識的に私たちを動かしている「匂い」
お茶の水で行われたワークショップの2日目に参加してきました。

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A&Sは、今年もお茶の水アートピクニックの関連イベントをECOM駿河台で主催しました。10/11・12の2日間、「匂い」をテーマに活躍されているアーティストの井上尚子さんをお招きし開催した、「くんくんウォーク-まちと自然と香りを楽しむワークショップ」です。

1人1本、真っ赤な匂いボトル(くんくんボトル)を片手にまちを歩き、見つけた匂いを採取しボトルにブレンドする。オリジナルのくんくんボトルを完成させるという行為を通して参加者の気持ちはどう動くのか、全く想像がつかない状態で当日を迎えました。

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参加者が集まり、まずは自己紹介が始まります。そしてくんくんボトルとマップが配られ、道順の説明。今回は、三井住友海上の屋上庭園から始まり、ニコライ堂・太田姫稲荷神社に立ち寄り宗教と香りの関係に触れつつお茶の水のまちを探索するコース。

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まち歩きに向かう前に、屋上庭園にはお茶の水ならではの香りが入ったサプライズスパイスがあるとの説明が。井上さんの「お茶の水を象徴する香りを用意しました」との言葉に、参加者の方から「え、学生の匂い!?」と黄色い声。井上さんが過去に大学で行ったくんくんウォークでは、部活中の男子学生の汗の匂いを採取したことがあると話が広がり、最初は緊張した雰囲気でしたが、だんだんと空気が和み始めました。

そして、ついにくんくんウォークがスタート!

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まずは屋上庭園に。入口に生えている金木犀に我先にと匂いハンターが群がります。庭園にはローズマリーを始めとするハーブ類、そして匂いを嗅ぐと頭が良くなりそうなニュートンのりんごの木(!)など種類豊富な植物が生えており、子どもを筆頭に参加者はバラバラになって香り収集に夢中。同じような見た目の葉っぱでも、ちぎって揉むとそれぞれ独特の香りが漂います。

ECOM駿河台・屋上庭園は、1984年、中央大学跡地に三井住友海上(当時:大正海上火災)が新しくオフィスを立てる際に行われた企業緑地活動の一環です。当時企業緑地は珍しく、特に屋上庭園は先進的な活動として話題に。お茶の水にたまたま緑がある訳ではなく、その香りの背景には住民と企業の環境への配慮とその歴史があることを実感。

「カレー!」「おいも!」「コーヒー!」
こどもは発見するのがはやく、サプライズスパイスを見つけてはどんどん匂いの正体を当てていきます。大人は、匂いの正体がなかなかわかりません。

「匂いを当てるのはこどもが得意。
大人はいろいろな匂いを知りすぎていて
どれだかわからなくなってしまうみたい。」

始まる前の井上さんの言葉が頭をよぎります。

質か量か。知識が多ければ多いほど物知りであるように感じますが、知れば知るほどに引き出しが増えていき、どの引き出しを開けるのか選択が求められていきます。こどもは引き出しが少ない分、選択する必要がない上に、引き出しの中身がクリアで濃厚です。引き出しが少なく知識を把握している状況と、博識で選べないほど引き出しを持っている状況と、どちらが本来の「知」に近いのでしょうか。
老若男女が集まるワークショップだからこそ浮かんだこの疑問に面白味を感じ、だんだんとくんくんウォークに魅了されはじめました。

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お互いのボトルを嗅ぎ合って「キュウリの匂い!」「ああ、カレーは強いね」「爽やかだねー」「これ、NGだよ・・・くさい・・・」と一気に縮まる参加者同士の距離。盛り上がる様子を見て、途中から参加されたご家族も。参加者もくんくんウォークの魅力にだんだんはまります。

個性が表れ始めたくんくんボトルを片手に、ニコライ堂に到着です。

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ニコライ堂に入ると、まず香りに出迎えられました。ニコライ堂は、ギリシャ正教とも東方正教会とも呼ばれる正教会の教会で、正教会は伝統的な儀式を大切にします。と、教会員さんからお話しをしていただきました。儀式の一環として、祈りの証である乳香を振りかざす「炉儀」が旧約時代から現在にかけて日常的に行われ続けているために、ニコライ堂はいつも乳香の香りがするそうです。

「香りは空間を区切る役割を持っています。」井上さんの言葉です。日常空間と、神と繋がる空間。公的な空間と、プライベートな空間。実家でリラックスする時にも、お寺や教会で神聖な雰囲気を感じる時にも、建物という立体的・視覚的区切りはもちろんのこと、精神的な部分には香りの力が無意識下で働いているのかもしれません。

神聖な香りに包まれて行われたニコライ堂と乳香の説明に、大人たちは興味津々でしたが、こどもはくんくんボトルに夢中。ニコライ堂から外に出ると、大人を匂いに先導してくれました。

コンビニの前に落ちていたタバコを拾いくんくんする少年。大人は「汚いからやめなさい」と説教モード。しかし私は「なんてするどい観点だ」と思ってしまいました。個人的な思い入れですが、タバコの匂いを身近に感じるようになったのは大学に入ってからです。お茶の水という土地の学生街の側面を表す匂いだなあと。

匂いを意識し散歩をしていると、知識のある大人はハーブなど「いい香りがする物質」を探します。しかしこどもは知識がない分、純粋に目の前にあるものから匂いを見つけ出していました。日常の興味にも同じことが言えると思います。幼少期には目の前のものにいちいち関心を示し、そこから面白みを引き出すことが難なくできていました。しかし今では、まず「面白いこと」を探そうとしています。物事は匂いのように常に自分の周りにまとわりついているのに、吸う前のタバコの匂いの良さに気付かないのと同じで、知る前からつまらなくて取るに足らないものであると、存在することすら意識せずに沢山のことを流して生きてしまっているのだろうな、と。町にある草花の匂いに関心を持たず、綺麗な店で売っている香水の匂いをかいで「香りっていいな」と思うようになったあたりから大人になってしまったのでしょうか。

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もう一人の少年は道の途中に生えていたオシロイバナをくんくん。これには大人たちも群がります。「ちっちゃい頃、この中の白いのをチョーク替わりにして遊んだな」などと、ひとりひとりがそれぞれの思い出をもってオシロイバナと向き合っていました。普段は道の途中の脇役でしかないオシロイバナですが、幼少時代は魅力的な遊び道具。もう遊ぶことはなくなったオシロイバナと「匂い探索」という目的があるからこそ久々に対面し、ノスタルジーに浸る大人たち。

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最終目的地の太田姫稲荷神社に到着。大きなむくの木が出迎えてくれました。
境内では神社特有の木の香りに包まれながら、説明が始まります。

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輪から離れた少年に目をやると、地面に落ち虫に食べられた穴あきの柑橘を見つけた様子。柑橘の皮をちぎると爽やかな甘い香りがします。「いれるといいにおいになるよ」と小さな先輩にアドバイスをいただきました。多めにボトルに入れたら他の匂いが消えてしまい、「(これまでつくってきたオリジナルボトルから)逃げたな」と井上さんからご指摘が。オリジナルに自信が持てずに、周りから評価されそうな匂いに逃げた心情を見事に読まれてしまいました。さすが匂いアーティスト・・・。

そしてついに
くんくんウォーク終了、ECOM駿河台に到着!

小休憩をはさんで、くんくんボトル嗅ぎ合いっこタイムです。

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同じコースからどんな匂いを集めたのか、お互いに興味津々。円になって、ボトルを嗅いでは左隣に回していきます。

素直に色々な匂いを突っ込んだ濃いボトル、
よく鼻を利かせないと感じられないくらい繊細なボトル、
野菜の香りがするボトル、実家の匂いがするボトル、
自分のボトルとちょっと似ているもの/似ていないもの。

同じまちで集めましたが、同じ香りのするボトルはひとつもありません。匂いとその収集過程に、持ち主の人柄が香ります。

最後に香りのレシピのコラージュ作り。

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小学校の図工の時間にタイムスリップしたみたいです。みんな真剣。静かになったと思ったら、誰かが誰かの作品を覗き込んで「うわあ、上手!」なんて声があがったりします。匂いを色や形で表現する、はじめての試みに考え込んで手が止まってしまう人も。行う時間が嬉しく、すっかり夢中になってしまいました。

一通りできあがったタイミングで数人の発表がありました。作品の説明を聞いてやっとコラージュの全貌が掴める作品、ぱっと見ですぐに香りが伝わってくる作品。繊細な性格が香りだけではなくコラージュにまで現れている作品。これまた個性が出ます。

歩いて感じて表現する、三拍子揃った大満足のワークショップに、くんくんボトルを片手に笑顔で解散です。

「匂い」とまち。シンプルな題材にも関わらず、最初から最後まで飽きる事なく存分に楽しむことができる構成に、井上さんが試行錯誤を繰り返し作ってきたワークショップであることが窺えました。まちは自然や人工物で溢れていて、代わり映えのない景色に面白みを感じることはあまりありません。しかし「匂い」という新しい視点を与えられると、新鮮な気持ちで向き合えます。いつもは通り過ぎる当たり前の景色がとつぜん面白い場所に変わる、非日常の経験。アートの不思議な力と、おとなのこどもの楽しみ方の違いを、たっぷりと味わった1日でした。

中畝千明(A&Sインターン)

*香りのレシピ作品はECOM駿河台2Fにて11月21日(金)まで展示中です。

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アート・アーカイブ・キット Art Archive Kit

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アート・アーカイブの実践的な記録のプロセスや整理のためのスキルをまとめた『アート・アーカイブ・キット』

『アート・アーカイブ・キット』はアート・プロジェクトの現場担当者が、これまでの資料を見直し、これから作成する資料を整理し、アーカイブを構築するために活用できるキットです。
アーカイブの知識を持たなくてもフローに沿って作業を進めることで、プロジェクトの記録と保存が可能となるよう工夫されています。本キットを使用することで、プロジェクトの記録を残す第一歩を踏み出すことができます。
『アート・アーカイブ・キット』はP+ARCHIVEの下記サイトよりお申し込みください。

http://www.art-society.com/parchive/kit

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リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)
ソーシャリー・エンゲイジド・アートという潮流

LAF

リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)
Living as Form (Nomadic Version)
ソーシャリー・エンゲイジド・アートという潮流 20 Years of Socially Engaged Art

2014年11月15日(土)— 11月28日(金) 12時 − 19時 
アーツ千代田3331 B104室 入場無料

アクセスマップはこちら

フライヤー(PDF)のダウンロード

日本初紹介 世界に広がる社会派アートの現在形

本展覧会は、日本でこれまでほとんど知られることがなかった海外のソーシャリー・エンゲイジド・アート(Socially Engaged Art)を紹介する初の試みです。
本展は、ニューヨーク市を拠点として過去40年にわたって、社会と関わるアート活動をプロデュースしてきたNPO「クリエイティブ・タイム(Creative Time)」が、2011年秋に、世界のソーシャリー・エンゲイジド・アートをテーマに、Nato Thompson氏のキュレーションによってニューヨーク市で開催した画期的な展覧会「リビング・アズ・フォーム(Living as Form)」の巡回展(縮小版)で、東京が世界最後の開催地になります。
芸術文化と社会との関係性を考えるNPO法人アート&ソサイエティ研究センターは、ソーシャリー・エンゲイジド・アートという活動が、いま世界で一つの潮流となっていることを、広く日本の人びとに伝えたいと考え、オリジナル展で紹介されたプロジェクトから代表的な11例を選び、動画やパネル展示等により紹介します。

開催の背景

ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、アートワールドの閉じた領域から脱して、現実の世界に関わり、人びとの日常から既存の社会制度まで、何らかの“変革”をめざすアーティストたちの活動を総称するもので、参加・対話のプロセスを含む、アクティブで多様な表現活動です。このタイプのアートは1990年代初頭から米国を中心として活発化し、現在では世界中に拡大しています。

一方、日本でも2000年以降、主に地方都市や農山漁村地域などで、地域の再生や活性化を目的とした「アートプロジェクト」が活発に行われています。しかし、その言葉の定義はあいまいで、アーティストの社会的役割やアートワークとしての意味や価値についての深い議論もなされないまま、地域の絆づくりやツーリズム促進のツールとなっている事例が数多く見られます。本展覧会は、そういった現状に対し、いま世界各地で実践されているソーシャリー・エンゲイジド・アートを紹介することで、日本のアートプロジェクトをめぐる議論を活発化し、改めてその社会的意味や方法論を考えるきっかけになることを意図して開催いたします。

ソーシャリー・エンゲイジド・アートは、都市計画や福祉、教育、さまざまなコミュニティ活動や政治運動を美術や演劇といった創造的、象徴的な表現と結びつけ、これまで見えなかったものを可視化したり、気づかなかった価値を明らかにすることによって社会に現実的な変化をもたらそうとする、ハイブリッドで分野横断的な試みだといえます。本展覧会が、こうした社会的実践としてのソーシャリー・エンゲイジド・アートのチャレンジ・パワーを理解していただく機会となれば幸いです。

展示内容

11人(組)のアーティストによるプロジェクトを、映像を中心に、パネル、写真、ポスター等で展示。
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詳細はフライヤーをご参照ください。

各プロジェクトのサマリーを掲載したパンフレットを会場で販売します。

各プロジェクトのサマリーを掲載したパンフレットを会場で販売します。

主催
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
クリエイティブ・タイム[Creative Time]
インディペンデント・キュレーターズ・インターナショナル [Independent Curators International (ICI) ]
助成
公益財団法人朝日新聞文化財団
特定非営利活動法人Japan Cultural Research Institute
協力
日本大学理工学部建築学科佐藤慎也研究室
特定非営利活動法人クリエイター育成協会
白水デジタルプリント工房
日 時
2014年 11月15日(土)— 11月28日(金) 12:00-19:00(最終日は16時まで)
会 場
アーツ千代田3331 B104室 入場無料
〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14

お問い合わせ先
特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
Art & Society Research Center
info@art-society.com

[オリジナルの「リビング・アズ・フォーム」への主要支援団体]
アネバーグ財団/リリー・オーキンクロス財団/デンマーク領事館/アンドリュー・W・メロン財団/モンドリアン財団/全米芸術基金/ロックフェラー兄弟基金
 
[ノマディック・バージョンへの支援団体]
ホレス W. ゴールドスミス財団/アンディ・ウォーホル美術財団/ロバート・スターリング・クラーク財団/ICI評議員会

展覧会「リビング・アズ・フォーム」で紹介したプロジェクトは、以下のキュレーター、ライター、アーティスト、歴史家のグループが選考しました。
Caron Atlas, Negar Azimi, Ron Bechet, Claire Bishop, Brett Bloom, Rashida Bumbray, Carolina Caycedo, Ana Paula Cohen, Common Room, Teddy Cruz, Sofía Hernández Chong Cuy, Gridthiya Gaweewong, Hou Hanru, Stephen Hobbs and Marcus Neustetter, Shannon Jackson, Maria Lind, Chus Martínez, Sina Najafi, Marion von Osten, Ted Purves, Raqs Media Collective, Gregory Sholette, SUPERFLEX, Christine Tohme, Bik Van der Pol, and Sue Bell Yank.

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