お茶の水アート・プロジェクション “Tea Corner”
 ー 映像アーティスト 瀧 健太郎 ー

お茶の水駅前ビル壁面に映像アートが登場!
A&Sではアーティスト瀧健太郎氏をお招きして、今年の秋もお茶の水アートピクニックに参加します。
今回はアーティストが「お茶の水アートピクニック」エリアを歩いた印象をもとに制作された映像作品が、
秋の夕刻のひととき、商店街のビルの壁をスクリーンに投影されます。乞うご期待!

アーティストスケッチ

企画案 by Kentaro Taki

概要

アーティスト:瀧 健太郎

開催場所:お茶の水茗渓通り商店街 瀬川ビルディング東側壁面
   (一階は丸善書店、JRお茶の水駅 聖橋口よりすぐ)
日  程:2015年10月9日(金)・10日(土)
時  間:夕方日没後 17:30~20:30投影予定 ※小雨決行

企画運営:第12回お茶の水アートピクニック実行委員会、NPO法人アート&ソサイエティ研究センター
主  催:お茶の水茗渓通り会
協  力:株式会社昌平不動産総合研究所
     お茶の水サンクレール
     レモン画翠

oap_logo

フライヤー(PDF)のダウンロード

お問い合せ先

特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
Email: info@art-society.com

アーティスト プロフィール

瀧 健太郎 (Kentaro Taki)

1973年大阪生まれ。武蔵野美術大学大学院映像コース修了。2002年文化庁派遣芸術家研修員、2003年ポーラ美術振興財団の研修員として、ドイツ・カールスルーエ造形専科大でメディアアートを学ぶ。コラージュやカットアップの手法を多用し、メディアや都市空間が体系的に持つ記号・ 暗号・慣例・コードを読み違えて、書き換えを行なうようなビデオアート作品を手掛けている。
国内展、海外展でパフォーマンス、上映多数。受賞多数。シンポジウム、レクチャー など多数参加。教育活動として武蔵野美術大学建築学科・映像学科非常勤講師、目白大学メディア表現学科非常勤講師。
www.takiscope.jp
www.vctokyo.org

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SEA アイディア・マラソン2015 ドキュメンテーション

SEA記録集表紙

2015年3月15日に開催した「SEA(Socially Engaged Art)アイディア・マラソン 日本発 社会派アートの進行形を考える」の記録集です。

「SEAアイディア・マラソン」は、2014年11月に開催した「リビング・アズ・フォーム」展の関連として企画されました。
公募で選ばれた14組のプレゼンターが、地域の課題や社会問題をテーマにアート・プロジェクトのアイディアを発表し、その中から優秀なアイディアが講評者とオーディエンスの投票によって選ばれました。本記録集には14組すべての発表内容と講評者による考察が収録され、英文とともに紹介されています。

ご希望の方はこちらのフォームよりお申し込みください。

Art & Society Research Center

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現代アートが、千三百年の伝統と結ばれた。
公開空地プロジェクト2015 プロジェクトレポート

神田明神に奉納された「ハートフレーム」の基調色光:朱赤。 「♥」の赤でありながらも、神社建築の基本伝統色に馴染む色調である。

神田明神に奉納された「ハートフレーム」の基調色光:朱赤。
「♥」の赤でありながらも、神社建築の基本伝統色に馴染む色調である。


■ 現代アートが日本伝統の「習慣」、「場」と“engaged(エンゲイジド)”した日
2015年5月19日火曜日、大安。神田明神。
朝のうちぱらついていた小雨が止み、午後には、時折晴れ間ものぞく天気となった。今年の2月2日から3月14日の間、お茶の水駅前「お茶の水サンクレール」で行われた公開空地プロジェクトで誕生した作品“Heart Light Go-round(ハートライトゴーランド)”が、この日、化粧直しも整い、「ハートフレーム」となって境内に恒久設置され、「奉納式」を迎えた。今年で6回目となる同プロジェクトのエンドストーリーは、東京―神田、日本橋、秋葉原、大手町・丸の内など108の町々の総氏神様である神田明神(神田神社)への奉納、という、まさに、アートが、地域の歴史・伝統・営みと“engaged(エンゲイジド)”する「結び」となった。
神田明神というと、江戸東京に鎮座して1300年近くの歴史をもつ江戸総鎮守の神社である。毎年、初詣の時期には、約30万人もの参拝客で賑わい、都内でも有数の初詣スポットのひとつとして知られているほか、秋葉原に近い、という立地特性から、最近ではアニメの「聖地」化、という現象も起きている。余談ではあるが、奉納式当日、我々の前の奉納者は、「妖怪ウォッチ」の関係者で、「ジバニャン」と「コマさん」の着ぐるみたちが神妙な面持ち?で祝詞に頭を垂れる姿は、なんともユニークな光景であった。
さて、奉納式は、奉納者、協賛社参列のもと、社殿内にて、神職が打つ太鼓の音とともに始まった。祝言葉奏上、お祓い、祝詞奏上、福鈴の儀、玉串奉奠(たまぐしほうでん)、権宮司様ご挨拶、と厳かに続き、約30分間の式で無事に終了、続いて、「ハートフレーム」前でのお祓いの義が執り行われた。作品を前に、奉賛者、関係者一同参列し、神職によるお祓いの後、今回の移設・奉納で大変お世話になった権禰宜(ごんねぎ)様による清め払いが行われ、お清め紙がちらちらと舞う中、点灯式となった。残念ながら、周囲の明るさのせいで、ハートフレームの光はよく見えなかったが、ホワイトグレーに「お色直し」をした作品は、神田明神境内で、新たな時の“Go-round”へと、無事に出帆した。以下、奉納式での権宮司様ご挨拶の言葉からの引用である。
「その(制作・奉納に携わられたみな様の)真心とともに、この素晴らしい作品が、末永く多くの人から愛される作品となり、そして、多くの人々の祈りを、神様へ通じるその仲取り持ちとしての役割を、これから果たしていただくべく、ご活躍をいただきたいと思っております。」
今回の奉納の意義は、まさに、この言葉の中にあるのではないか、と、私は感じた。そして、新たな光が灯ったその瞬間は、アーティスト志喜屋徹氏が、西洋的な文脈の「バレンタインデー」と「♥」を、日本伝統の文脈にのっとった表現に重ねて誕生させた現代アートが、そのモチーフとなった「結ぶ」表現の「素」の姿に原点回帰し、地域社会と、末永く“engaged(エンゲイジド)”した瞬間でもあった。

左)社殿内で行われた奉納式の様子。神職から玉串を授かる奉賛代表者三名。手前より、工藤代表理事、志喜屋氏、新井。右)ハートフレーム前で行われたお祓いの義の様子。

左)社殿内で行われた奉納式の様子。神職から玉串を授かる奉賛代表者三名。手前より、工藤代表理事、志喜屋氏、新井。右)ハートフレーム前で行われたお祓いの義の様子。

奉納式翌日の「ハートフレーム」。既に、おみくじや絵馬が結ばれはじめている。

奉納式翌日の「ハートフレーム」。既に、おみくじや絵馬が結ばれはじめている。


「おみくじ結び」におみくじを結ぶ参拝客。 日本伝統の習慣。

「おみくじ結び」におみくじを結ぶ参拝客。
日本伝統の習慣。

■「奉納」への道筋 3つの「思い」のエピソード
奉納から早くも1ヶ月が過ぎ、紫陽花の咲く季節となった。「ハートフレーム」は、まるで以前からその場にあったかのように、自然に境内の風景に馴染んで、既に沢山のおみくじや絵馬が結ばれている。
何故、このように、初めから、最後に収まるべき「場」が用意されていたかのような「流れ」になったのか、今もって、とても不思議に感じるのだが、このような「流れ」と「結果」が生まれたバックグラウンドには、三つの柱となる「思い」のエピソードがあった、と、今振り返ってみて思えるのだ。その3つについて、ご紹介したい。

奉納式から約2週間後の様子。既に、おみくじでいっぱいである。奉賛者銘板の取り付けも完了。

奉納式から約2週間後の様子。既に、おみくじでいっぱいである。奉賛者銘板の取り付けも完了。

【思いを形にする。】
『参加者が、「思い思い」をメッセージに書いて、参加していく形にしました。みんな表現者なんですね。思いを形にする、表現することで、自分を理解することもできると思うし、人に伝わっていく。思いが形になる世界になると良いなと思いました。』(プロジェクト記録ムービー撮影時の、志喜屋徹氏へのインタヴュートークからの引用。以下、『』内テキストは、インタヴュートークより。)
 時を、2015年1月に遡る。
NPO法人アート&ソサイエティ研究センターの工藤安代代表理事は、今回のプロジェクトが、バレンタインデーからホワイトデー期間の販促催事にからめて行われる、という特性から、『「大切な人への想い」を表せるようなアートを仕掛けたい』、と、考えていた。そこで、相談を持ちかけたのが、2012年の公開空地プロジェクト「ニコニコ来来ドーム」で黄色いビニール傘を素材に、参加型作品を制作したアーティスト、志喜屋徹氏であった。志喜屋氏は、私たちの暮らしのごく身近にある、もともと消費され廃棄される運命のもとに生まれてきた(生産・製造された)モノたちに、普遍的なアートの命を注ぐ、という、言わば、「モノの価値概念」の位相転換を生み出す作風を得意としているアーティストで、大手広告代理店のアートディレクターという顔を持つ。彼が創案したプランは、
1)世界中で、国や文化を超えて親しまれている「愛(Love)」を表すシンボル「♥(ハート)」を、ビジュアルシンボルにする。
2)トランプの「♥」のカードを、願い事を書く「短冊」や「絵馬」に見立て、そこに、参加者(来街者)各々が「愛」を言葉にして書く。(愛のメッセージを集める)
3)言葉として、可視化された「愛」や「想い」を「結ぶ」「場」を広場空間につくる。
4)「光」を、メッセージ性のある感覚的なエレメントとして用いる。
5)「♥」のカードが抜かれたトランプによる造形作品を、“Heart Light Go-round(ハートライトゴーランド)”の内部と、通路空間にインスタレーションする。
という、5つのレイヤーで構成されたプランであった。日本伝統の習慣にのっとった「結ぶ」という行為によって、参加者自身が表現者となり、その表現の集積(時の経過と表現の集積性)によって作品が初めて完成する、というプランである。
かくして、工藤安代代表理事の思いに、志喜屋徹氏の思いが重なり、プロジェクトは「カタチ」を成し始めていた。その後、2月2日から3月14日の間、「公開空地プロジェクト2015」がどのように推移したか、については、本サイトで公開されているダイジェストムービーを、是非、ご参考いただきたい。

shikiya

メッセージ

ハートカード

【「思い」プラスちょっとの行動。】
 私は、今回のプロジェクトに、「五感演出プロデュース」という役どころで参加させていただいた。プロジェクトの制作ディレクションと、ハートフレームの製作、光・音の演出プロデュースである。今までに何度か、他の企画でプロジェクトを共にしている志喜屋徹氏から相談を受けたのが、今年の年明け早々。プロジェクトのオープン予定日まで、既に1ヶ月を切っていた!1月6日に初打ち合わせをし、その後1月31日、2月1日の設置とオープン後の調整に至る怒涛の日々は、今思うと懐かしくさえ感じられるが、そんなミラクルを実現させたのも、「思いの結集」と「行動」であったことは間違いない。ライティングプログラムを担当したLighting Roots Factory代表、松本大輔氏の言葉である。『「思い」プラスちょっとの行動が、物凄いものを作っていくんだな、ということを実感できる41日間でした。』

「記憶の中で、いつかふと目覚めるような感覚風景」をつくることを目指して、音とシンクロするように回り続けた光跡は、3月14日の夜、11時に消えた。いつか、誰かの記憶の中で、再び回りだすことを夢見て。そして、プロジェクトの第一章は、約1500ものメッセージカード(♥のトランプ)を集め、惜しまれながら終了した。サイトスペシフィックなアートインスタレーションに、参加者・来街者の「愛」と「想い」のメッセージと、光・音という「タイムフレーム」を乗せて、プロジェクトは、ハートフルな「時空間芸術」へと昇華した。

左)2月2日~2月14日、バレンタインデー期間の、赤い色光によるライティング。フレーム内部のオブジェの光は、心臓(Heart)の鼓動のように、ゆっくりと明滅する。ハート型フレームのライン状の光は、4つの「♥」のアウトラインにより構成され、全期間を通じて、「♥」が、1ライン点灯(ひとつの「♥」ラインが光る)、チェイス(ひとつの「♥」ラインが回転するように光る)、全点灯明滅(4つの「♥」ラインが全体で光り、ゆっくり明滅する)という発光パターンの組み合わせで、「シーン」が演出された。 右)2月15日~3月14日、ホワイトデー期間の、青と赤の色光によるライティング。ハート型フレームのライン状の光は、特殊な樹脂製導光棒に、LEDライトの光を当て、「面発光」の光のラインを作り出している。また、プロジェクト期間中、公開空地の作品周辺、および、「お茶の水サンクレール」の通路エリアには、作曲家、高木潤氏によるオリジナルの音楽が流れ、「光と音が響き合う環境」がつくられた。

左)2月2日~2月14日、バレンタインデー期間の、赤い色光によるライティング。フレーム内部のオブジェの光は、心臓(Heart)の鼓動のように、ゆっくりと明滅する。ハート型フレームのライン状の光は、4つの「♥」のアウトラインにより構成され、全期間を通じて、「♥」が、1ライン点灯(ひとつの「♥」ラインが光る)、チェイス(ひとつの「♥」ラインが回転するように光る)、全点灯明滅(4つの「♥」ラインが全体で光り、ゆっくり明滅する)という発光パターンの組み合わせで、「シーン」が演出された。
右)2月15日~3月14日、ホワイトデー期間の、青と赤の色光によるライティング。ハート型フレームのライン状の光は、特殊な樹脂製導光棒に、LEDライトの光を当て、「面発光」の光のラインを作り出している。また、プロジェクト期間中、公開空地の作品周辺、および、「お茶の水サンクレール」の通路エリアには、作曲家、高木潤氏によるオリジナルの音楽が流れ、「光と音が響き合う環境」がつくられた。

左) ハート型フレームに取り付けられた、音が鳴る仕掛け(「音具」)。幼児用玩具「ガラガラ」を素材に用い、風が吹いたり、フレームが揺れると、どこか懐かしい印象の音が聞こえてくる。右) 通路空間に展示された作品「光を求めてⅡ」の前で、色光による影の出具合を確認する志喜屋氏。

左) ハート型フレームに取り付けられた、音が鳴る仕掛け(「音具」)。幼児用玩具「ガラガラ」を素材に用い、風が吹いたり、フレームが揺れると、どこか懐かしい印象の音が聞こえてくる。右) 通路空間に展示された作品「光を求めてⅡ」の前で、色光による影の出具合を確認する志喜屋氏。

【「思い」を重ね、未来へ、結ぶ。】
『この(公開空地)プロジェクトの大きな特色というのは、その場所で一度終了しても、また違う場所に移って、形を少し変えて、生き続ける、ということだと思います。…(中略)…クリエーターの方たちの熱い思いが重なり、このプロジェクトは、最初のシナリオ通りではなく、良い意味で、育っていったのではないか、…』(工藤代表理事)
 テンポラリーな公開空地プロジェクトの中で生まれた「思い」をパーマネントに「生き続けさせたい!」そんな純粋な思いと願いが重なり、“Heart Light Go-round(ハートライトゴーランド)”の「永住の地」探しが始まった。その第一目標は、神田明神。工藤代表理事は、お茶の水茗溪商店街会長をはじめ、公開空地プロジェクトでのご縁をたどり、交渉に奔走した。「お茶の水サンクレール」では、3月14日の終了から5月18日早朝の移設当日まで、約2ヶ月間、地下駐車場で作品を保管していただいた。
シナリオにはなかった「奉納」というエンドストーリーは、制作者の思いと、プロジェクトを支えてくださった方々の思いが重なり、強い願いとなって、神田明神に通じた。まさに「結ばれた」結果なのだ。どこか、恋愛、そして結婚へのプロセスに似ている、と思うのは、私だけだろうか?「奉納式」は、今回のプロジェクトで生まれた現代アート作品と地域社会との「結婚式」だったのではないか。今、振り返ってみて、そんな風に感じるのである。

プロジェクト終了後、回収され、NPO法人アート&ソサイエティ研究センターにて一時保管されたトランプのメッセージカード。約1500枚ものメッセージが集まった。

プロジェクト終了後、回収され、NPO法人アート&ソサイエティ研究センターにて一時保管されたトランプのメッセージカード。約1500枚ものメッセージが集まった。

聖橋から神田方面を望む。目には見えない、耳には聞こえない多くの「愛」と「思い」のメッセージが、どれほど眠っているのだろうか。

聖橋から神田方面を望む。目には見えない、耳には聞こえない多くの「愛」と「思い」のメッセージが、どれほど眠っているのだろうか。

神田明神社殿前の提灯。伝統の灯である。

神田明神社殿前の提灯。伝統の灯である。


6月4日木曜日、先負。神田明神。プロジェクト記録ムービー撮影最終日、夜8時。
「ハートフレーム」の光は、社殿の灯や「献灯」のぼんぼりの灯を背景に、奉納用に新たにプログラムされた光(神職・巫女の装束の色をモチーフにした色光構成)をまとって、静かに佇んでいた。志喜屋氏、松本氏とおみくじを引いた。何と、志喜屋氏に続いて私も、引いたおみくじを「ハートフレーム」に結ぼうとしたら、おみくじが切れたのだ!奉納後初、しかも奉納当事者のおみくじが切れる、という縁起悪い事態に動揺したが、気を取り直してもう一度引き直し、2度目は首尾よく結ぶことができた。ちなみに、おみくじは、志喜屋氏の一度目が「末吉」、二度目が「大吉」、私の一度目が「末吉」、二度目が「小吉」で、どちらも二度目に「吉度」が上がる、という結果になった。松本氏も「末吉」だったことからすると、先んずることなく、怠らず、思いを重ねよ、ということか。

新たに灯った「ハートフレーム」の光。神田明神1300年の歴史・伝統と現代とのマリアージュである。

新たに灯った「ハートフレーム」の光。神田明神1300年の歴史・伝統と現代とのマリアージュである。


■プロジェクトを振り返って
『これだけ街ゆく人たちの心の中に、様々な「思い」、しかも、大切に思う人への「思い」や「愛」という感情があるんだな、ということを実感しました。』(工藤代表理事)

私も同感である。今まで気づかなかった、ごく「身近な愛」と、「誰かに伝えたい思い」の存在に、気づかせてくれた。そして、「ハートフレーム」は、神田明神の境内で、そのような「愛」や「思い」を「結ぶ」フレームとして、末永く親しまれる存在になった。

神田明神「ハートフレーム」の基調色光:白。(朱赤と対を成す) 神職・巫女装束の基本色。(ベーシックであり、かつ、高位の色)

神田明神「ハートフレーム」の基調色光:白。(朱赤と対を成す)
神職・巫女装束の基本色。(ベーシックであり、かつ、高位の色)


このレポートを終えるにあたって、プロジェクトの企画段階から奉納に至る全てのプロセスにおいて、「アーティスト」、あるいは、「クリエーター」という立場で関わった私たちの「思い」を、いつも真摯に受け止めてくださり、そして、そこにご自身の「思い」を重ねて、目指す目標へとナビゲートしてくださったNPO法人アート&ソサイエティ研究センター工藤安代代表理事に、この場をお借りして、心から感謝の意を表したい。

(文:新井敦夫)

新井敦夫(Atsuo Arai)
五感演出プロデューサー。1960年、東京生まれ。音環境デザインのプランナー・プロデューサーを経て、音、光、香り等、五感の相乗効果を活かした環境演出・デザインや、東関東大震災復興応援のためのソーシャルアートの企画・プロデュース、自然エネルギーとアートでつくるイルミネーションの企画制作、等に取り組んでいる。東京メトロ南北線「発車サイン音」のデザイン・ディレクション、高松シンボルタワー「時報」、および、「風のサヌカイトフォン」(讃岐地方に産出する『サヌカイト』という石を用いた音と造形のパブリックアート)の企画・プロデュース等、実績多数。
「シネステティック・デザイン(五感にひびき『感覚の味わい』を生み出すアート&デザイン)」をテーマにした研究・創造活動組織「SORA Synesthetic Design Studio(SORA SDS)」代表。
https://ja-jp.facebook.com/SORA.SDS

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神田明神“LOVE 結びアート”奉納プロジェクトとは?
What is the art project “Ties of Love” that we are offering to Kanda Myōjin?


©SORA Synesthetic Design Studio+Takuya Yokoyama

縁結びで知られ、1300 年の伝統をもつ東京「神田明神(神田神社)」に、現代アーティストが制作した『Heart』を展示するプロジェクトです。

■プロジェクトの背景

2015 年 2 月 2 日〜3 月 14 日、東京、御茶ノ水の公共スペース、お茶の水サンクレールにおいて、アート&ソサイエティ研究センター企画のアート作品『ハート・ライト・ゴーランド』が展示されました。バレンタインデーとホワイトデーを意識して「LOVE」、「ハート」をテーマに、造形アーティスト志喜屋徹のアイディアのもと、新井敦夫の五感演出プロデュースにより行われたプロジェクトです。

トランプで立体的につくられた数体の動物オブジェを包み込むように、約2.3m の大きさのライン状の LED 照明で「ハート型フレーム」が出来ています。 『ハート ・ライト・ ゴーランド』は、アーティストの造形だけで完成という訳ではありません。そのフレームは、メッセージなどが結びつけられるようになっていて、一般の参加者が、大切な人に向けた「愛」や「想い」をハートマークのトランプに書き、結びつけていくことで完成する、参加型のアート作品でした。
現代アートでありながら、おみくじや絵馬を結びつけるという日本的な風習にのっとったスタイルは、一般の方も参加しやすく、みるみるうちに大量のカードが結びつけられて、期間終了時には、1500 枚を超える、「愛」や「想い」が込められた、メッセージカードが集まり、このプロジェクトは大盛況のうちに終了しました。「ずっと、やっていて欲しかった。」と、残念がる人の声も上がるほどでした。
しかし、一時的なプロジェクトであったため、期間終了した現在、作品はそのスペースから撤去され、廃棄処分されることになります。

「ハート型フレーム」の処分を名残惜しんで、なんとか人びとに愛された作品を地元の縁につなげていけないものか、五感プロデューサーの新井は、プロジェクトの開始時にお参りしていた「神田明神」に、終了後、祈願達成の報告のため再度お参りしたときです。「ここ、神田明神に奉納したら、どうだろう?」 と、ふと思い立ちました。まさに、インスピレーションを受けた瞬間です。
 
一方、アート&ソサイエティの工藤は、一般の方々から集まった、大切な人へ の様々な「愛」や「想い」が綴られた「メッセージカード」を読んでいるうち に心を動かされ、この気持ちを、なんとかしてあげたいと考えはじめました。 そして、人びとが自分たちの思いを託すものとしてアートをとらえる姿をみて、 社会との関係性を築けたことを強く実感していました。
そんな気持ちをもったまま、2人は相談し、意気投合。「神田明神への奉納」の アイディアを造形アーティストの志喜屋に相談すると、「今回の作品を考えるとき、『メッセージカード』は『絵馬』から、『ハート型フレーム』は『おみくじや、絵馬を結びつける場所』から、まさに、神社からのインスピレーションを受けてたんです!」と志喜屋もまた意気投合しました。「その『神社への奉納』 が、実現出来れば、みんなの『愛』や『想い』を集める、神社の新しいシンボルになる!」「個人的、一時的な現代アートの表現を越えて、日本伝統の文脈にのっとった、普遍的、恒久的な文化の発展にも繋がるような気がする!」と期待も大きく膨らんでいきました。

その後、早速、お茶の水駅前商店街の会長や商工会議所の方々にご協力いただき、神田明神の権禰宜である長沢隆光さんに、サンクレールまで『ハート・ライト・ゴーランド』の展示を見に来て頂く運びになりました。長沢権禰宜さんは、すぐに大変気にいり、神田明神の大鳥居信史宮司にお話して頂いたところ、 即答で『ハート・ライト・ゴーランド』を貰い受けよう、という事になりました!移設に伴う運搬や LED ライトの設置費用、恒久的な作品にするための耐久処理や防水処理などのための費用として神田明神から準備金を頂き、その他にも地元企業さんの三井住友海上火災、東京商工会議所千代田支局からも寄付金を頂いています。

御茶の水駅に 1981 年建設された「新御茶の水ビルディング」の公開空地、サンクガーデンに展示した参加型アート作品を、地元の鎮守様であり、1,300 年の歴史を持つ神田明神に奉納することは、“作って、壊し、捨てる”、というこれまでの街づくりのあり方と相反するものです。“地元でつくられ、それを地元につなげる”、これがこのプロジェクトが生み出した価値だと考えます。今後の展望として、この作品が、「恋愛成就祈願」の新しいシンボルとして、“LOVE 結びアート”となり、末永く、親しんでもらえるものになってほしいと思っています。そして、日本国内だけではなく、「COOL JAPAN」を代表する現代アートと、伝統文化をつなぐ表現のひとつとして、海外にも発信できるような新名所となるよう願っています。

プロジェクト・メンバー一同
志喜屋徹、新井敦夫、高木潤、松本大輔
アート&ソサイエティ研究センター 工藤安代
奉納式制作関係者集合写真

≪本体寸法≫約 2300W×約 2300H×2300D
≪仕様≫フレーム/スチール防錆塗装仕上げ
照明/フルカラーLED ライト
(防水仕様)+樹脂製特殊導光棒、
調光コントローラー付属
<1,500 枚の「LOVE メッセージ」がハートマークのトランプに書き込まれ、作品に結ばれた>

These are the ties of love at the 1300-year old Kanda Myōjin, which modern artists have represented as a Heart.

The Background of the Project

From Feb. 2 –March 14, at the public space at Saint Clair in Ochanomizu, the artwork Heart Light Go-Round, planned by the Art & Society Research Center, was displayed. It was based on an idea of artists, Shikiya Akira and Arai Atsuo of Five Senses Productions concerning love and the heart on Valentine’s Day and White Day(the day following Valentine’s Day when girls give boys white chocolate) .
A 2.3 meter frame composed of LED lights and wrapped in a number of animal-like objects made of playing cards was called the “heart frame.” As a temporary work of art, the artist did not think of it as a finished work. People participating in the event tied messages on it concerning their love or thoughts for important people in their lives. These were written on playing cards of the heart suit. Only then was it a finished work.

While it was a piece of contemporary art, it relied on the Japanese traditions of fortunes and ema (the pictures of horses offered to shrines in prayer or thanks), making it easy for Japanese bystanders to participate. As they looked at it, they wrote their own hopes and concerns on the playing cards that they tied on the frame. When it was finished, we had over 1500 cards on it expressing people’s love and thoughts about others. The project was a great success and many people felt sad that it could not continue.

However, the work was only temporary, and when the project ended it would have to be removed from the site and disposed of. We felt great reluctance to dispose of the “Heart-Frame,” and wondered if we could somehow preserve its relation with the people of the local area who loved it. Arai, the producer of Five Senses had gone to Kanda Myōjin when the project began, and when the project concluded, he went again to report on how prayers had been offered. He suddenly thought, “Could we offer it to Kanda Myōjin?”
Kudō of Arts and Society had been deeply moved by reading the messages about love and thoughts about others that had been written on the playing cards and wanted to do something with them. She felt strongly about the way in which people had entrusted their thoughts as art and related to society.

The two discussed their feelings and found that they were in agreement, and then went to discuss giving the work to Kanda Myōjin with the plastic artist Shikiya. He responded, saying, “When I thought of the project, the message cards seemed like ema and the heart-shaped frame was also like ema or the fortunes one obtained at shrines. So from the beginning I found inspiration at shrines. If we succeed in offering it to the shrine, it will become a new symbol at the shrine for collecting people’s love and dreams.”
“This goes beyond an individual or temporary expression of contemporary art because it draws upon the context of Japanese traditions. I feel that it connects with universal and eternal expressions of culture.” We then went to speak with the president of the organization for the shops in front of Ochanomizu Station and to the conference of commercial and industrial organizations and obtained their cooperation. The provisional suppliant priest Nagasawa Takamitsu liked it immediately.

We collected funds to transport it to its new location and install the LED lights. To make it a permanent installation it must be protected from water damage. We have received inititial funds from Kanda Myōjin, the local branch of Mitsui-Sumitomo Insurance Company, and the Chiyoda Branch of the Tokyo Chamber of Commerce and Industry.

In 1981 , the Shin Ocha no Mizu Building with a sunken garden was established as a public space with art as a guardian deity for the area. By offering this to Kanda Myōjin with a 1300 year history, we are rejecting the usual course of making something and then destroying or throwing it away. We see the value of this project in it being a “locally made object with ties to the local area.” This will be a symbol of prayers for love for the future. We think it will represent a modern view of “Cool Japan” that is connected to traditional culture. We hope that it will become famous place that sends a message of love to foreign countries.

Project Members
Akira Shikiya, Atsuo Arai, Jun Takagi, Daishuke, Matsumoto
Yasuyo Kudo  Art & Society Research Center

Measurements 2300 cm wide x 2300 cm high x 2300 cm. deep

The frame was steel, coated with anti-rust paint
LED full-color lights with a resin-coated special pole, a light-sensor.
1500 playing cards with the heart suit with messages completed the work

ハート緑web

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公開空地プロジェクト2015 “Heart Light Go-round”
(バレンタイン&ホワイトデー♥プロジェクト)に関するアンケート調査

対 象:お茶の水サンクレール 各店舗(下記参照)
実施日:2015 年 2 月 27 日(金)14:00〜16:00
調査員:特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター


Q1 プロジェクトに参加したか(メッセージを書いたか)?

参加した 2
参加しなかった 16

Q1 プロジェクトに参加したか (メッセージを書いたか)

Q1 プロジェクトに参加したか (メッセージを書いたか)

►参加しなかった理由
1 参加の仕方が分からない 1
2 プロジェクトを知らない 0
3 興味、関心がない 4
4 その他 11

参加しなかった理由

参加しなかった理由

►その他の内容(複数回答可)
1 設置場所の問題 4
2 お客様向け 3
3 忙しい、時間がない 3
4 顧客の年齢にないものだから 1
5 女性がターゲットだから 1

その他の内容

その他の内容

Q2 プロジェクトの感想

1 とてもよかった 5
2 よかった 9
3 ふつう 3
4 あまりよくない 1
5 全く良くない 0

プロジェクトの感想

プロジェクトの感想

►具体的な感想(複数回答可)
1 珍しい、ユニーク、斬新、独特など 7
2 きれい、良い 3
3 暗い、地味 3
4 人が集まる 5
5 景色が変わる、変化がある 5
6 その他 8

具体的な感想

具体的な感想

その他の意見
参加に抵抗ある、違う階にもあると良い、キャプションが小さい、びっくりした、何をや っているか分からなかった、壁面作品の影が良かった等。

Q3 印象に残った作品について 〔 P)ポジティブ N)ネガティブ M)中間意見 〕

1.ハートフレーム

照明の演出
P)光っているのに驚いた。シーズンらしくてかわいい・きれい・夜がすご くきれい。若い人が写真に撮っていた。なんとなく良い(2)。夜はあった 方が良い。色を時間で変えると目でも楽しめる。きれい。ものが良いのに 人がよらないのはもったいない。 N)暗くて印象に残らない。地味で派手さに欠ける。気づかなかった、知ら なかった。もっと照明を当てると良い、明るいと良い。インパクトが小さ く、印象が強くない。 M)夜は見ていない。水色の照明の方が雰囲気に合う
ハートフレームの形
P)分かりやすい(2)。良い(9)。オブジェとして良い。バレンタインに合っていた(2)。斬新で新鮮・立体的で良い。かわいい。ハートっぽくないのが良い。グループ対象なのかと思ったが1人で参加した人もいた。
トランプのオブジェ
P)・動物でかわいい。トランプでかわいい。女子ウケに良い。トランプで こういう形ができるのだとびっくり。子どもが喜んでいた。分かりやすそ うだった。すごいと思った。今までにないタイプで、光っている感じが良 い。クマが良い。
N)何か分からなかった、分かりづらい(3)。気づかなかった(2)。知らなかった(2)。ちょっとスケールが小さい。光っている部分が暗い。
M)トランプの色をピンク色にすれば良い。雨に濡れたらどうなるのか気に なった。
メッセージカード
愛がテーマなのにこれで捨てるのはもったいない。

2.通路の釣りオブジェ『光をもとめて』で好きなものは 3 作品のどれか?
1 薬店前 5
2 肉の万世前 5
3 誠寿司前 0
4 無回答 8

通路の釣りオブジェ 『光をもとめて』

通路の釣りオブジェ 『光をもとめて』

無回答の理由
いい感じだった。店舗内の全体的にあると良い。大きさが小さく、さらに端に展示されていたため、千代田線へ続く出入り口付近の方が良い。同じ作品だとマンネリ化するので一週間ごとに作品を変えたらどうか。トランプがぶら下がってい た印象だけ感じた。ハートのオブジェの方が印象的だった。1 番には気がついた。見ていない。
1番が好きな理由
良いと思った。大きくて目立つ。高さがちょうど目線にあって良い。シンプルだ から。気になった。2,3 番側に普段は行かないので。怖い印象があった。
2番が好きな理由
照明がカラーで目に留まった。色があって良い(複数回答者)。バレンタインな のでピンクで明るいため。影が素敵。色と影がいい。
3番への意見
普段は行かない。

Q4 今後もこのようなプロジェクトを希望するか

はい:18/18 (100%)

理由
楽しくて飽きないから(2)。新顧客の獲得になるから。面白いから(2)。イベント感が あって良いから(2)。拍が付いている感じがするから。目印になるから。店内でもイベン ト(バレンタイン)の飾りをしているのでビルとしても一体感があると思うから。サンク レール商店街として盛り上がるから。周囲とのつながりになるから。
意見
ヨコのつながりを作りたい(2)。サンクレール商店街全員ができるものが良い(2)。明 るい雰囲気になるので大々的にとことんやってほしい(2)(インパクトがあると気になる 人が増える)。季節に合ったものが良い(2)。毎年同じものがあると定着されると思う(ク
リスマス=ツリー、バレンタイン=トランプ)。テーマを持たせると良い。一周回って作品 を展示するとビルの中が活気づくのではないか。もっと変わったものの方が良い。ヤング 向け(20~30 代)のものがいい。よく見て楽しめてテンションが上がるものが良い。ムー ドのあるものが良い。明るくて分かり易いものが良い。上のフロアにも飾ってあると良い。 店内から見える物が良い。秋のアートピクニックの時に明大生の作品があると(地域とつ ながりがあるので)良い。宣伝ぽくないギャラリー風になると良い。壁に絵の展示がほし い。壁を使うと良い。集客が増えるイベントが良い。出入口に展示してビル内に入るとよ くわかる物が良い。

解答店舗(あいうえお・ABC 順)
1.エクセルシオール 2.カフェ いしい 3.きりしまフラワーお茶の水店 4.げんない 5.コージーコーナー 6.新お茶の水薬局 7.スープストック 8.バーガーキング 9.ビストロ・びぜん 10.水の和座 さわび 11.めがね・コンタクトの井上 12.リトルマーメイド 13.Amo’s style 14.Barbarプラド 15. Beauty Deli 16.Camis 17.Rots 18.Shop in

ご協力いただいた各店舗の皆様、ありがとうございました。

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公開空地2015”Heart Light Go-round”の『ハートフレーム』と
1500枚の『メッセージカード』が神田明神に、奉納されました!

公開空地2015”Heart Light Go-round”はバレンタインとホワイトデーのプロジェクトとして「Love」をテーマに展開されました。
LED照明で彩られたハートフレーム。その中で揺れるトランプのオブジェ。そこに参加者が各々の想いをトランプに綴り、愛する人へのメッセージカードとしてハートフレームに結ぶ。そんな参加者一人一人の想いと共に完成された”Heart Light Go-round”プロジェクトは3月14日のホワイトデーを最後に惜しまれつつ、終了しました。
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41日間、灯り続けたハートの光は、人々の記憶の中にも光跡を刻んだことでしょう。
そして、そのハートの光が、5月19日に1300年の歴史と伝統のある神田明神にて再び灯ります。
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「LOVE結び」のシンボルとなったハートフレームは、おみくじや絵馬を結ぶフレームとして、末永く親しんでもらえるよう、神田明神に恒久的に移設されました。
5月19日の奉納式の様子や奉納に至るまでのエピソードを綴ったレポートは後日、本HPにて公開する予定ですので、ご期待ください。
奉納されたハートフレームが「恋愛成就祈願」の新しいシンボルとして、「LOVEパワースポット」として、みなさまの想いを未来に結んでいけたらと願っております。

150522神田明神

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SEA研究会 2015年度前期
『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』を読むシリーズ

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地域や社会に深く関わり、実際に社会の変革をめざすSEA(ソーシャリー・エンゲイジド・アート)とはなにか?アートと社会の諸問題に対して、理論と実例の両面から、多くのヒントを与えてくれる『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門(以下、パブロ本と呼びます)』をひもときながら、6回シリーズでSEAというアートのあり方を理論と事例を通じて学んでいきます。
第1回は、オリエンテーション&レクチャー形式で開催。第二回目からは、参加者と共にゼミ形式で進めていく予定です!

開催スケジュール

第1回 5/8(金) 米国におけるSEAの歴史とパブロ本の背景
第2回 6/26(金) パブロ本を読む①「イントロダクション」、「第1章 定義」
第3回 7/16(木) パブロ本を読む②「第2章 コミュニティ」
第4回 8/21(金) パブロ本を読む③「第3章 状況」、「第4章 会話」
第5回 9/24(木) パブロ本を読む④「第5章 コラボレーション」、「第6章 敵対関係」
第6回 10/29(木) パブロ本を読む⑤「第7章 パフォーマンス」、「第8章 ドキュメンテーション」、「第9章 超教育学という視点」、「第10章 熟練の解体と再構築」

第1回 「米国におけるSEAの歴史とパブロ本の背景」 終了しました

講師
秋葉美知子(アート&ソサイエティ研究センター主席研究員)
日時
2015年5月8日(金)19:00-20:30
会場
アーツ千代田3331 地下1階 B105室
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
定員
10名(先着順)
参加費
500円(資料込み・コーヒー付)

※フィルムアート社刊『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門-アートが社会と深く関わるための10のポイント-』(2,160円)をご持参ください。http://www.art-society.com/publication

第2回 パブロ本を読む①「イントロダクション」、「第1章 定義」
終了しました

モデレーター
工藤安代(アート&ソサイエティ研究センター代表)
清水裕子(アート&ソサイエティ研究センター副代表)
日時
2015年6月26日(金)19:00-20:30
会場
アーツ千代田3331 2階 会議室
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
定員
10名(先着順)
参加費
500円(資料込み・コーヒー付)

※フィルムアート社刊『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門-アートが社会と深く関わるための10のポイント-』(2,160円)をご持参ください。http://www.art-society.com/publication

第3回 パブロ本を読む②「第2章 コミュニティ」終了しました

モデレーター
秋葉美知子(アート&ソサイエティ研究センター主席研究員)
日時
2015年7月16日(木)19:00-20:30
会場
アーツ千代田3331 地下1階 B105室(会議室より変更になりました)
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
定員
10名(先着順)
参加費
500円(資料込み・コーヒー付)

※フィルムアート社刊『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門-アートが社会と深く関わるための10のポイント-』(2,160円)をご持参ください。http://www.art-society.com/publication

第4回 パブロ本を読む③「第3章 状況」、「第4章 会話」終了しました

モデレーター
清水裕子(アート&ソサイエティ研究センター副代表)
秋葉美知子(アート&ソサイエティ研究センター主席研究員)
日時
2015年8月21日(金)19:00-20:30
会場
アーツ千代田3331 2階 会議室
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
定員
10名(先着順)
参加費
500円(資料込み・コーヒー付)

※フィルムアート社刊『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門-アートが社会と深く関わるための10のポイント-』(2,160円)をご持参ください。http://www.art-society.com/publication

第5回 パブロ本を読む④「第4章 コラボレーション」、「第5章 敵対関係」
終了しました

モデレーター
工藤安代(アート&ソサイエティ研究センター代表)
清水裕子(アート&ソサイエティ研究センター副代表)
日時
2015年9月24日(木)19:00-20:30
会場
アーツ千代田3331 地下1階 B105室(会議室より変更になりました)
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
定員
10名(先着順)
参加費
500円(資料込み・コーヒー付)

※フィルムアート社刊『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門-アートが社会と深く関わるための10のポイント-』(2,160円)をご持参ください。http://www.art-society.com/publication

第6回 パブロ本を読む⑤「第7章 パフォーマンス」、「第8章 ドキュメンテーション」、「第9章 超教育学という視点」、「第10章 熟練の解体と再構築」終了しました

モデレーター
工藤安代(アート&ソサイエティ研究センター代表)
清水裕子(アート&ソサイエティ研究センター副代表)
秋葉美知子(アート&ソサイエティ研究センター主席研究員)
日時
2015年10月29日(木)19:00-20:30
会場
アーツ千代田3331 2階 会議室
(東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda)
定員
10名(先着順)
参加費
500円(資料込み・コーヒー付)

※フィルムアート社刊『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門-アートが社会と深く関わるための10のポイント-』(2,160円)をご持参ください。http://www.art-society.com/publication

お申し込み・お問い合わせ

メールに、氏名、住所、職業(所属)、申込み動機を記入のうえ、下記宛先までご送信ください。
email: info@art-society.com

〒101-0021 東京都千代田区外神田6丁目11-14 3331 Arts Chiyoda 311E
NPO法人 アート&ソサイエティ研究センター

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Socially Engaged Art『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』

日本語訳『ソーシャリー・エンゲイジド・アート入門』が
2015年3月23日フィルムアート社より出版!

真に「ソーシャル」なアートはどのように可能か?
アートプロジェクトを象徴で終わらせず、社会を変えるリアルな活動にするためには?
「社会に深く関わる=エンゲイジする」世界的なアートの潮流を、理論と実例を通じて伝える。
アーティスト、アートプロジェクト及び美術関係者に必携の「社会に関わるアート」の手引き。

ESEA_bookソーシャリー・エンゲイジド・アート入門  
アートが社会と深く関わるための10のポイント  
 
パブロ・エルゲラ=著  
アート&ソサイエティ研究センター SEA研究会=訳
四六判/並製/196頁 定価:2,000円+税
本の詳細と購入はこちらから

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シンガポールのアート事情
ー独立50年の国家の現代アートと伝統文化ー

 東南アジアで1、2を争う大都市、シンガポール。穏やかな気候、おいしい食べ物、屋台、豊かな自然、活気溢れるビジネス街、そして民族を超えて肩を抱き合い笑う様子…気がつくとあっという間にシンガポールの虜になってしまった。特にシンガポールの文化は魅惑的に映る。それはきっと各民族が互いの文化を否定せず尊重し合う社会で築かれたシンガポールならではの文化の融合に魅力が沢山あるからだ。近年は気候がホットなだけではなく、「東南アジアの芸術文化のハブになる」という国策の下、アート界も非常にホットになりつつある。今回はそんなシンガポールのアート事情を語るべくシンガポール・ビエンナーレと伝統文化であるプラナカン文化の紹介をしたい。

 私が注目した2年ごとに開催されるシンガポール・ビエンナーレは2006年から始まり、現代アート、とりわけ東南アジア現代アートを中心として展示し、国際的なプラットフォームとなるように企画される。国内外のアーティストの作品を数多く展示しながら、その背景にある複雑な文化的要素をアート関係者だけでなく市民一般にも分かりやすく伝え、市民のアートや文化に対する理解を促す狙いだ。それは2013年のビエンナーレを通して踏襲されており、27人のキュレーターたちがアーティストと協力して展覧会を企画・運営・展示する様子は、東南アジア地域の美術の垣根を低くしている。

Singapore Art Museum

Singapore Art Museum


 例えば来館者の参加が重要なカギとなる作品がある。その一つのLittle Soap Boy(Vu Hong Ninh作、2009)は、鑑賞者が触ることができる石鹸でできた男の子の像と設置されたシンクのインスタレーションである。詳しく解説されていないが、石鹸によって浄化と清潔の両方の意味を表現し、この像は世の中を文字通り「きれい」にさせようとすると私は捉えた。東西の宗教的なイメージであるキュービッドやブッダ像はこの作品のモデルとなっている。キャプションによるとこの像は中指を立て現代社会のモラルや人間性が崩れていくことを揶揄しているが、石鹸で出来た体は皮肉にも鑑賞者が触ることによって徐々に溶かされていくのであった。(実際に触った手を洗うように右端にはシンクがあり、水が出る。)

Vu Hong Ninh, Little Soap Boy, 2009. Mixed Media, 160 x 140 x 200cm.  Collection of the Artist. Image courtesy of Singapore Art Museum.

Vu Hong Ninh, Little Soap Boy, 2009. Mixed Media, 160 x 140 x 200cm. Collection of the Artist. Image courtesy of Singapore Art Museum.

 ahmadabubakar_21他にもTelok Blangah(Ahmad Abu Bakar作、2013)では、鑑賞者が作品制作に関わったシンガポール囚人へカードを書くイベント企画が付いている。もともとこの作品は何千もの瓶でいっぱいの木船(コレックkolekという)の作品だ。それぞれの瓶にはシンガポール人の囚人たちが書いたメモが入っており、彼らは自分たちの願いや希望を自分たちの民族の言葉で書き留めている。多民族が暮らすシンガポールではメモに書かれる言葉が違う。そのため木船がそのエスニックルーツを示唆し、さらに木船に何が積まれているかも関心の的となる。鑑賞者は囚人に宛てたメッセージや質問によって繋がりを意識し、作品理解やその意味を一層深めるのだ。

Ahmad Abu Bakar, Telok Blangah, 2013, Paint, varnish, glass bottles, decals and traditional wooden boat. Approx. 300 x 450 cm.

Ahmad Abu Bakar, Telok Blangah, 2013, Paint, varnish, glass bottles, decals and traditional wooden boat. Approx. 300 x 450 cm.

 このようにして難解で崇高な芸術は、その特徴を留めておきながらも表現の仕方や展示の仕方によって鑑賞者に分かりやすく伝えられ、参加によって作品が完成したり、広がりを見せたりする。

 ところでプラナカン文化、という言葉を耳にしたことはあるだろうか。これは15世紀ごろマレー半島にやってきた主に福建省出身の中国人移民が現地のマレー人と所帯を持ち、定住し、独自の文化を構築していったことにルーツがある。

 「この土地で生まれた子」という意味のマレー語、プラナカン。彼らの話す言葉は福建語やジャワ語交じりのマレー語で、食事は一見マレー風だがマレー料理にはない豚肉や味噌を使い、西洋の料理法を取り入れたものである。オートクチュールの品々を身にまとい、渡来ものの家具で室内をあつらえる。中国文化、マレー文化、そして西欧文化の融合が「プラナカン文化」といえる。現地の人々は、男性を「ババ」、女性を「ニョニャ」と呼び、彼らを総称して「プラナカン」という。(イワサキ・丹保著、『マレー半島 美しきプラナカンの世界』より)

 シンガポールにもプラナカン文化を残す町がある。例えばKaton 地区のショップハウスがそうだ。かわいらしいパステルカラーのショップハウスは、もともと中国南部に見られた建築様式で、そこにネオゴシック調、バロック調、パラディアン調などの西洋の建築要素が取り込まれ、洋風の窓や円柱、レリーフで飾られる。その窓の上には、マレー建築に見られる透かし彫りの通風孔があることも多く、中国風の屋根瓦のひさしが付いている場合もある。街中にあるプラナカン美術館は、この可憐で美しいプラナカン文化をもっと詳しく学ぶことができる美術館だ。

Katon地区の風景

Katon地区の風景

一階部分がショップ、二階部部が居住区になっている

一階部分がショップ、二階部部が居住区になっている

パステルカラーが美しいショップハウス

パステルカラーが美しいショップハウス

店内のフードコートの様子

店内のフードコートの様子

左:スウィーツ屋さん 右:家具屋

左:スウィーツ屋さん 右:家具屋

プラナカン工芸品。ビーズで出来た室内履き

プラナカン工芸品。ビーズで出来た室内履き

 
 今年で建国50周年を迎えるシンガポール。

 シンガポリアンの友人にシンガポールの文化が好きだと言ったところシンガポールにカルチャーはあるのか、と聞き返された。多くの人は言う、シンガポールには文化がないと。それがローカルの人たちにある感覚なのだと、その時、私は肌で感じた。

 確かにこの国は(独立したばかりという意味で)若いかもしれないが、文化がないということはない。そこに人が暮らしうる限り、文化はあり伝統は受け継がれる。そして現代の我々が作る新たな芸術文化もある。まだまだ馴染みのない東南アジアの美術は遠い異国のもののように感じるが、アジア文化でつながり現代人が抱える複雑な事情で、実は私たちはつながっている。作品の意味や背景、ルーツがどう流れていっているのかを知ろうとすると、異国と捉えていた国の共通点や類似点が見つかる。東南アジア各国を身近な隣国と感じる日も近いかもしれない。今後もシンガポールを中心に東南アジアの動向を伺い、社会とアートがどう関わっていくのか関心を寄せたい。

(文:佐藤彩乃)

作品画像提供:Singapore Art Museum http://www.singaporeartmuseum.sg/
参考文献:イワサキ チエ・丹保美紀著、『私のとっておき マレー半島 美しきプラナカンの世界』、2007年6月、産業編集者センター

佐藤彩乃 (Ayano Sato)
2014年日本女子大学人間社会学部文化学科卒業。在学中、アメリカ合衆国オレゴン州オレゴン大学に交換留学。2014年 内閣府、一般財団法人 青少年国際交流推進センター主催「日本・ASEANユースリーダーズサミット」に応募し参加許可を得る。シンガポールには年に二回程行き、シンガポールの社会や文化を少しずつ学び、旅人とローカルの視点からシンガポールの良さを発見する。人とアートをつなげて社会をより良くしたいと思い、2016年秋に美術展覧会開催に向けて活動中。2014年9~11月までNPO法人アート&ソサエティ研究センターでインターンシップを経験、「リビング・アズ・フォーム(ノマディック・バージョン)ソーシャリー・エンゲイジド・アートという潮流」展覧会の運営補佐、同展覧会のパンフレット編集アシスタントをする。

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SEA(Socially Engaged Art)アイディア・マラソン 結果発表

sea-marathon02


グランプリ: 該当者なし 

準グランプリ:「雪だるまを歩かせる」松田朕佳 + 天野澄子

準グランプリ:「変種編集室」変種編集室(久未可L蔵 + ピメリコ + ユミソン)

「SEAアイディア・マラソン」は7時間にわたり、14人(組)の応募者が次々にSEAプロジェクトのアイディアを発表し、盛況のうちに終了しました(2015年3月15日(日)、アーツ千代田3331)。各15分のプレゼンに対して、講評者・オーディエンス・他のプレゼンターが質問・コメントをし、最後に、講評者とオーディエンスの投票によって優秀なアイディアを選定しました。

14組のプレゼンターが次々とアイディアを発表。

14組のプレゼンターが次々とアイディアを発表。

プレゼンター質問2

会場のオーディエンスやプレゼンターが活発に発言。プロジェクトの可能性が膨らむ。

会場のオーディエンスやプレゼンターが活発に発言。プロジェクトの可能性が膨らむ。

どれもユニークなアイディアのプレゼンテーションでしたが、初めての試みということもあって、SEAが求める、目的とゴールの具体性、アートならではの特性を生かしたアプローチが明確に提示されたプロジェクトは少なく、「グランプリ」は該当なしという投票結果となりました。
準クランプリとして、現状に対する問題提起と、それに具体的なインパクトを与えたいという意欲と可能性が評価された2プロジェクト「雪だるまを歩かせる(松田朕佳+天野澄子)」と「変種編集室(久未可L蔵)」が選ばれました。
会場では活発な質疑応答、議論が展開され、日本におけるSEAのあり方を考える第一歩として有意義なイベントとなりました。
参加者の皆様、講評者の方々、有り難うございました!

準グランプリ受賞者(左から天野さん、松田さん、ピメリコさん、久未可 L蔵さん)。

準グランプリ受賞者(左から天野さん、松田さん、ピメリコさん、久未可 L蔵さん)。

講評者10名による総評。

講評者10名による総評。

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