10/13開催「植物を紙に摺り付けて描くワークショップ」を終えて

先日10月13日(日)に今年もお茶の水アートピクニックの関連イベントに参加させていただき、ECOM駿河台を会場に、アーティストの村山修二郎さんを講師にお迎えして「アート×自然 植物を紙に摺り付けて描くワークショップ」を開催いたしました。

KONICA MINOLTA DIGITAL CAMERA

植物で描くということについて、まず村山さんからご自身の活動を紹介していただきました。大きな画面にまさに植物で描いている村山さんの姿が映し出されると、ご参加いただいた小学生から大人まで皆アートの世界に引き込まれていきました。小学校でのワークショップや被災地での活動、植物の生命力についてなど、色々な画像を見せていただきながらお話をしていただきました。アーティストの活動を知る貴重な機会にもなったと思います。

ワークショップ3

それから気持ちの良いお天気の下、自分で使う植物を摘みに会場の外へ。摘み取る量は片手に握れるくらいで、一株から一摘み。皆さん思い思いにどこから採取しようか選びながらも、今回は会場のECOM駿河台さまのご協力で花壇のお花も採取できて、ちょっとしたブーケのように。

ワークショップ1

会場に戻って制作開始。村山さんから色を出すコツを教わりいざ。最初はとまどい気味ながらも、段々皆さん自分の世界へ。草花の香りが広がり、柔らかい光が差し込む会場はしばし穏やかな空気に包まれていました。

ワークショップ2

ワークショップの最後は感想会で、1人1人どのようなことを考えて制作していたのか発表しあいました。同じような葉っぱでも摺り付けてみると色が違ったり、思ったように色がつかないことから新しい発想が湧いたり・・、それぞれ新しい発見や体験をされて楽しんでいただけたようでした。
「都会の真ん中でこのワークショップを行うことは自然に囲まれた山の中で行うこととまた違った意味がある」との村山さんのお話しを思い出しながら、このワークショップで出会った植物たちの感触や香りの記憶はきっとどこかにつながっていくのだろうと、都市空間での「アート×自然」の可能性に思いをめぐらせつつ、レポートを終わりにします。
文:川口明日香 写真:A&S

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10月13日開催「植物を紙に摺り付けて描くワークショップ」

2013年10月13日(日)アーティストの村山修二郎さんをお迎えしてワークショップを開催します。

murayama workshop

企画意図

昨今の私たちの社会は地球温暖化に加え、巨大地震、原発事故などによる大きな問題を抱え、子供たちにどのような環境を残していけるのか、真剣に考える時代となっています。また子供たちにとっても、このような社会を生き抜き、自分たちが住む環境を良い方向へと築いていくために、昨日までの価値観に捉われない、柔軟な発想を持つことがますます重要と考えます。アートの世界は発想の豊かさを実感できます。そこで、誰でもアートを身近に感じられる社会への一歩として、街中でのアートプログラムを開催します。都会の真ん中で自然に触れながら楽しめるプログラムです。

実施計画

コンセプトは「アートと自然」。上手い下手は関係なく、のびのびと楽しめる内容。

場 所:ECOM駿河台2F(お茶の水アートピクニック開催エリア)
    アクセス>http://www.ms-ins.com/company/csr/ecom/access.html
日 時:10月13日(日曜日)10:00~11:30
対 象:小学生4~6学年 
定 員:20人前後
内 容:アーティストを講師に迎えて、採取した植物で絵を描きます。
参加費:無料
持ち物:完成した作品(B3サイズ画用紙)を持ち帰る袋など

当日のスケジュール

09:40 ~ 09:50 受付、集合
09:55 ワークショップについての説明
10:00 アーティストによるイントロダクション
10:15 会場付近の植物を採取
10:30 制作
11:15 感想会、質問
11:25 片付け、終了

お申込み/お問い合せ先

特定非営利活動法人アート&ソサイエティ研究センター
Email: info@art-society.com
小学校4~6年生の参加者を募集しています。
件名に「10/13ワークショップ」、本文に「お名前、学年、参加人数」をご記入の上
上記メールアドレスまでお申込み下さい。

アーティスト プロフィール

murayama

村山 修二郎

東京都生まれ。東京芸術大学大学院壁画修士課程修了。同大学大学院美術研究科博士後期課程美術専攻壁画三年在籍。近年は、生の草や花を手で直接紙や壁に擦り付けて絵を描いている。村山が新たに生み出し、形式化した絵画手法『緑画(りょくが・村山が名付けた造語)』である。植物に内在する根源性をつかんだ表現として唯一無二。その他の作品は、植物そのものの中にある、初源的な力を抽出した作品(絵画・写真・インスタレーションなど)で表現している。社会地域活動として、身近な植物のもつ微細なミクロな世界と、マクロ的視座から地域の植生の可能性をコンセプトに、植物と人と地域をつなぐコミュニティアートプロジェクトを様々な地域で主催・開催している。地域植生を再考察した、ワークショップも各地で断続的に行っている。また、植物とアートから出来る、東日本大震災復興支援の活動を「green line project」として立ち上げ、東京・宮城・秋田などで継続的に展開中。

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2013:Art & Society 連続トーク・イベントVol.3のお知らせ

ストリート・アート(グラフィティ)は、一方で、アクティビズムと結びついた社会的メッセージとして、また一方で、ヒップ・ホップ・カルチャーと結びついた自己表現として、世界各地に広がり、さまざまなかたちで出現しています。
中でもラテン・アメリカは、今もっとも革新的なストリート・アートが生まれている地域と言われています。今回、日本ではあまり知られていない、南米コロンビアの首都ボゴタのストリート・アートを紹介します。

0830 連続トークNo.3

『都市空間を覆い尽くすストリート・アート~南米・ボゴタの街を歩いて~』
トーク 秋葉美知子(NPO法人アート&ソサイエティ研究センター研究員)
2013年10月11日(金)19:00-21:00 
会場:3331アーツチヨダB1階 準備室

定員:15名(先着順)参加費無料
お申込み&お問合せ先:info@art-society.com

ボゴタのストリート・アートを紹介したレポートも是非ご覧ください。
http://www.art-society.com/report/20130826.html

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街を彩り、突き刺すビジュアル・パワー
南米コロンビアの首都ボゴタのストリート・アート

6月末、筆者は、芸術文化マネジメント関連の国際学会に参加するため南米コロンビアの首都、ボゴタを訪れた。コロンビアというと、麻薬マフィアや反政府ゲリラが暗躍する危険な国という印象があるかもしれない。確かにボゴタの街には、犬を連れた警官や機関銃を持った兵士、民間の警備員などが数多くいて、常に警戒態勢という感じだが、ウリベ前大統領(2002~2010在任)が治安対策に重点的に取り組んだ結果,殺人や誘拐の件数は大きく減少しているという。740万の人口を擁するラテンアメリカで6番目の大都市ボゴタ。その中心部には、活気に溢れたストリート文化があった。

①日曜日の歩行者天国。フードから雑貨、アクセサリー、本、携帯電話まで、あらゆるものが露店で売られている

①日曜日の歩行者天国。フードから雑貨、アクセサリー、本、携帯電話まで、あらゆるものが露店で売られている

 サンパウロやブエノスアイレス、サンティアゴなど、ラテンアメリカの大都市は今、ストリート・アートのメッカとして注目されている。ボゴタもその例に漏れず、「Bogotagraffiti」と画像検索してみると、色鮮やかで強烈な個性を放つ作品群が目に飛び込んでくる。幹線道路のコンクリート擁壁から街中のブロック塀やシャッター、道路標識の裏まで、あらゆる「余白」が、ストリート・アーティストたちの表現の場になっているのだ。

②幹線道路沿いのコンクリート壁には、たいていこのようなグラフィティが描かれている

②幹線道路沿いのコンクリート壁には、たいていこのようなグラフィティが描かれている

そんなボゴタのストリート・アート・シーンを見聞できる「Bogota’s Graffiti & Street ArtTour」に参加した。このツアーは、自身もクリスプ
(Crisp)の名で壁画制作をしているオーストラリア人のアーティスト、クリスチャン・ピーターセンがプライベートに週3回行っている隠れた人気企画で、トリップ・アドバイザーの「ボゴタのアクティビティ」では第3位にランクされているほどだ。ウェブサイトで参加日と名前・メールアドレスを登録し、当日集合場所に行けばよく、料金は基本無料で終了時に適当な額を寄付するという、とても気軽な3時間弱のウォーキングツアーだった(筆者は15ドル寄付)。

壁面に現れたビジュアル表現としてのストリート・アートを見るとき、ロゴや単純なキャラクターをスプレーペイントで描くグラフィティ・タイプのものと、多様な技法を使ってより絵画的に表現するミューラル(壁画)タイプのものがあることに気づく。前者はヒップ・ホップ・カルチャーと結びついた若者の自己表現として、後者はアクティビズムやコミュニティ運動と結びついた社会的メッセージ、あるいは都市環境改善の手段として、それぞれ別の発展史をたどってきている。ボゴタでは、両方の流れの影響を受け、ワイルドスタイルのグラフィティから社会問題を戯画化した作品、さらに純粋に楽しさや美を追究する絵画的ミューラルまでが併存・融合しているところに特徴がある。また、「ボゴタは世界一グラフィティに寛容な都市」とクリスチャンが言うように、市民の理解があり、警察も厳しく取り締まることがないことから、時間をかけて丁寧に描き込まれた作品が多い(それでも1作品を1 日か2日で仕上げるそうだが)。個性的なスタイルをもつ人気アーティストが何人(組)もいて、彼らの作品があちこちで見られることからも、ストリート・アートがボゴタの街を彩る重要なエレメントになっていることがわかる。

③グラフィティ・タイプのストリート・アート。MICOのサインが見えるが、地下鉄ペインティングのパイオニアとして知られる彼は、1969年にニューヨークに移住したコロンビア人である。これはMICOがコロンビアに凱旋して、地元のアーティストとコラボレートしたときのもの(“neon”は上から新しく書かれたものでMICOのライティングではない)

③グラフィティ・タイプのストリート・アート。MICOのサインが見えるが、地下鉄ペインティングのパイオニアとして知られる彼は、1969年にニューヨークに移住したコロンビア人である。これはMICOがコロンビアに凱旋して、地元のアーティストとコラボレートしたときのもの(“neon”は上から新しく書かれたものでMICOのライティングではない)

今、ボゴタで最も精力的に活動しているアーティストは、Guache(グワッシュ)、DjLu(ディージェー・ルー)、Toxicómano(トキシコマノ=麻薬中毒者)、Lesivo(レシボ=有害な)の4人だろう。ストリートに視覚的かつ政治的・社会的なインパクトを与えることを目的に、それぞれ個人で、あるいはBogota Street Artというコレクティブとして、一目で「あ、これは○○だ」とわかるメッセージ性の強い作品を描き続けている。また、作品集を自費出版したり、ストリート・アートをテーマとしたトークセッションを行うなど、ストリート文化のオピニオン・リーダーの役割も果たしているようだ。写真④から⑦は、彼ら4人が一つの壁で合作した作品である。

④格差社会を風刺しGuacheの作品

④格差社会を風刺しGuacheの作品


⑤“ボゴタのバンクシー”と言われるDjLuのステンシル。彼は、建築家・写真家で、大学で教鞭も執っている。「ストリートを単に移動の経路ではなく、今起こっている何かに気づく場にしたい」という彼の、パイナップル爆弾や機関銃をモチーフにした反戦ピクトグラムは、街の至る所でで発見できる

⑤“ボゴタのバンクシー”と言われるDjLuのステンシル。彼は、建築家・写真家で、大学で教鞭も執っている。「ストリートを単に移動の経路ではなく、今起こっている何かに気づく場にしたい」という彼の、パイナップル爆弾や機関銃をモチーフにした反戦ピクトグラムは、街の至る所でで発見できる


⑥Toxicomanoはコンシューマリズムや支配階級を批判する作品で知られている。モヒカン頭の「エディ」は、資本主義社会からのはぐれ者キャラクター

⑥Toxicomanoはコンシューマリズムや支配階級を批判する作品で知られている。モヒカン頭の「エディ」は、資本主義社会からのはぐれ者キャラクター


⑦資本主義の搾取と富裕層の退廃を風刺するLesivo。右下の王冠をかぶったキャラクターは、ウリベ前大統領のカリカチュアらしい

⑦資本主義の搾取と富裕層の退廃を風刺するLesivo。右下の王冠をかぶったキャラクターは、ウリベ前大統領のカリカチュアらしい

女性のグラフィティ・アーティストも多数活動しており、最も知られているのがBastardilla(スペイン語で“イタリック”の意)という覆面ミューラリストだ。自身の経験から、レイプ、DV、フェミニズム、貧困などをテーマに、力強い色彩とタッチで描いている。

⑧Bastardillaによる巨大なミューラル

⑧Bastardillaによる巨大なミューラル


一方、社会的なメッセージ性より、壁画としての表現を追求するタイプのアーティストもいる。Stinkfishは、街で見かけた人物のスナップ写真を用いてその顔を巧みにステンシルしている人気ミューラリスト。個人としての活動のほかに、APCというゆるやかなクルーを結成して、協働製作している場合も多い。Rodez・Nomada・Malegriaの3人は親子で活動しているアーティストだ。イラストレーター、デザイナーとして長いキャリアをもつ父のRodezは、先にグラフィティを始めていた息子のNomadaに勧められてストリート・アートの世界に入ったという。“目”が印象的な彼らの作品はボゴタのストリートでも際立っている。グラフィティ・ツアーのガイドを務めるクリスチャンの作品も市内各所にあった。人物や動物のステンシルをコラージュした壁画のほか、ストリートのアクセサリーとしてさりげなく壁に貼り付けられた小さな陶製のマスクも彼の作品である。

このようにアーティストそれぞれ作風や方向性は異なっていても「ストリート・アートは都市生活への“intervention(介入)”であり、街をを生き生きとさせるもの」という意識は皆に共通し、お互いの作品をレスペクトしているという。

⑨Stinkfishのステンシル。「グラフィティは都市を再生させる手段だ」と彼は言う

⑨Stinkfishのステンシル。「グラフィティは都市を再生させる手段だ」と彼は言う

⑩Rodezは、息子のNomadaからグラフィティのテクニックを習ったという

⑩Rodezは、息子のNomadaからグラフィティのテクニックを習ったという

⑪Nomada   ⑫Malegria

⑪Nomada ⑫Malegria

⑬グラフィティ・ツアーの案内人Crispのミューラル。彼はオーストラリアからイギリスを経て3年前にボゴタに移住

⑬グラフィティ・ツアーの案内人Crispのミューラル。彼はオーストラリアからイギリスを経て3年前にボゴタに移住


⑭右がCrispの陶製マスク。壁からはがしてお土産に持って行く人がいるので、なるべく高いところに貼るのだとか

⑭右がCrispの陶製マスク。壁からはがしてお土産に持って行く人がいるので、なるべく高いところに貼るのだとか

このように紹介するとボゴタはストリート・アート天国のように思われるかもしれない。しかし、問題がないわけではない。2年前、グラフィティを書いていた16歳の少年が、警官によって不当に射殺された事件をきっかけに、グラフィティの規制と容認に関して論議が高まっている。市当局は、歩道、バス停、信号機、病院、学校、墓地など禁止する場所を指定するとともに、ボゴタの都市文化に寄与するグラフィティは推進すべきだとして、一定の区域に限って積極的に認める方針だという。そのパイロット・プログラムとして、この夏、市の芸術振興組織が5組のアーティストを選びダウンタウンの幹線道に大規模な壁画を制作するイベントを行った。こういった試みによって、アーティストは大作に取り組むチャンスを得、市はツーリズムにもつながる良質のミューラルを得ることができる。しかし、ストリート・アートがオフィシャルなものになってしまうと、「都市環境への招かれざる介入」というグラフィティが本来持っているパワーが失われてしまうという反論もある。

ボゴタのストリート・アートは、今後、コミッションによる“パブリック・アート”としてのミューラルとゲリラ的なメッセージとしてのグラフィティに、二極化していくかもしれない。

(文/写真:秋葉美知子)

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2013:Art & Society 連続トーク・イベントVol.2のお知らせ

今年で55回目を迎える「ヴェネツィア・ビエンナーレ」。現代美術の国際美術展覧会として120年ほどの歴史をもち、なおも世界の美術動向に大きな影響を与え続けている。そして、毎年恒例の世界一のアートフェアとして知られる「アート・バーゼル」。今やスイスの古都バーゼルは、現代アートビジネス界の中心的都市として不動の地位を獲得し、フェアーには世界各国から有名コレクターや美術館のキュレーターなどが集まる。
この二つの巨大アート展について、コンテンポラリー・アートのギャラリストとしての経験をもつ荒谷さん独自な視点から語っていただく。

A&Sトーク20130809

『ヴェネチア・ビエンナーレ&アートバーゼル報告会』
トーク 荒谷智子
2013年8月9日(金)19:00-20:30 
会場:3331アーツチヨダB1階 準備室

定員:15名(先着順)参加費:1,500円(軽食代含む)
お申込み&お問合せ先:info@art-society.com

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2013:Art & Society 連続トーク・イベントのお知らせ

社会に深く関わるアートである「ソーシャリー・エンゲイジド・アート(Socially Engaged Art) 」について、1990年代〜現代までの歴史的な流れを具体的なアーティストのプロジェクトを紹介しつつ解読していきます。
アメリカの事例から、何を学べるのか?応用できるのか?アートが社会にエンゲイジメントする方法とは? 
トークでは、菊池さんがアメリカで手がけたプロジェクトや、「ソーシャリー・エンゲイジド・アート」を教育の現場で取り入れる手法を紹介したパブロ・ヘルグエラ氏の著書も含めて話を進めていく予定です。

PowerPoint プレゼンテーション

『アートの仕掛け:アートを道具とした新しい姿のコミュニティづくり』
トーク 菊池宏子(コミュニティデザイナー)
2013年7月25日(木)19:00-20:30 
会場:3331アーツチヨダ3階 302Room

定員:30名(先着順)参加費無料
お申込み&お問合せ先:info@art-society.com

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市民の声でつくる世界最大のアートショー
イギリス中がアートで満たされるプロジェクト「Art Everywhere」

「2013年夏、イギリスが世界最大のアートギャラリーとなる」
この夏、街頭広告スペースを使ってイギリス中をアートで溢れさせようというプロジェクト『アート・エブリウェア(Art Everywhere)』が注目です。

Freud

Lucian Freud, Man’s Head (Self Portrait I), 1963, Whitworth Art Gallery


『アート・エブリウェア』は、市民の投票で選ばれたイギリス美術を代表する美術作品を看板ポスターに印刷して、イギリス全土の街頭広告スペースを埋め尽くそうというプロジェクトです。期間は8月10日〜25日の2週間、少なくとも15,000カ所のビルボードやバス停などの広告スペースに展示されることになります。

イノセントグループ(イギリスで大人気のスムージーブランド)の共同設立者であるリチャード・リードと、ナショナル・ファンドレイジング・チャリティーアート・ファンドテイト美術館のコラボレーションで始まったこのプロジェクトは、ポスター印刷会社と街頭広告の運営会社の協力で実施されます。

このプロジェクトの主役はイギリス中の市民の方々。ウェブサイトで公開されている候補作品のリストから、Facebookの「いいね」ボタンでお気に入りの作品に投票でき、人気トップ50位の作品が実際にポスターとなり展示されます。(7月10日に投票は終了)

また、クラウドファンディングによるサポートで「パトロン」となることもでき、3ポンド(約450円)の寄付金額が1枚のポスター作成のための資金になります。さらに15ポンド(約2,250円)以上の寄付で、英国人アーティストのロブ・アンド・ロベルタ・スミス(Rob and Roberta Smith)のエディション作品などがリターンとして送られるなど、キックスターター式の今風で親しみやすい仕組みが取り入れられています。

MCM

Michael Craig-Martin, Inhale (Yellow), 2002, Manchester Art Gallery


リードによる発案で始まったこのプロジェクトの狙いは、イギリス美術史上の傑作を分かち合える祭典とすること。そして何よりもアートが街を行き交う多くの人々の目に留まることによって、人々がギャラリーに足を運ぶきっかけになればと期待しています。

また、ロゴやエディション作品を提供し、プロジェクトを深くサポートしているロブ・アンド・ロベルタ・スミスは、プロジェクトが子供たちに良い影響を与え、美術を選択科目にしたり、美術学校にいくきっかけとなることを望んでいます。

サポートアーティストの1人、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)も「アートはすべての人のためにあるし、みんなアートの恩恵を受けられるべきだと思っている。自分たちがストリートで見たい作品を選べるなんて、イカしたプロジェクトじゃないか」とコメント。

Constable

John Constable, Salisbury Cathedral from the Meadows, c.1831,Tate


日本でも個展が話題のフランシス・ベーコンを始め、クラシックからコンテンポラリーまで網羅した候補作品の充実さもさることながら、このプロジェクトの一番の魅力はなんといっても市民の人たちが関わるプロジェクトだということ。作品を選んだり、寄付をしたり、観賞するだけではなくて楽しくコミットできる仕組みで、市民に寄り添ったアプローチが好印象です。

思い入れのある作品やお気に入りの作品を選ぶ市民の声によって、企業の広告の代わりにアート作品を街の中に溢れさせる『アート・エブリウェア』プロジェクト。今年のイギリスの夏はきっと人々の豊かな気持ちで満たされるでしょう。

投票はこの記事の公開時点で締め切ってしまっていますが、寄付はまだまだ受付中。ウェブサイトで紹介されている寄付金額に応じたリターンは日本にも発送可能とのことなので、海の向こうにあるイギリスの街角にポスターを1枚贈る気持ちでサポートしてみてはいかがでしょうか。

(文:井出竜郎)



AE Logo

Art Everywhere
arteverywhere.org.uk

(イギリス全土で開催、2013年8月10日〜25日)



参照サイト:The Guardian “British art to take over billboards in plan to make UK world’s largest gallery”
http://www.guardian.co.uk/artanddesign/2013/jun/07/british-art-take-over-billboards

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『2012年度Action for Public Spaces Ochanomizu(APSO)
―公開空地の文化的利活用による地域活性化を推進する活動―』

2012APSO_report_vol1

(助成:平成24年度街なか再生助成金(財団法人区画整理促進機構街なか再生全国支援センター)

NPO法人アート&ソサイエティ研究センターが実施する『公開空地アート・プロジェクト』に関連した調査報告書が完成いたしました。
都心の有効なオープンスペースである“公開空地”の活性化を目的とした『公開空地アート・プロジェクト』。2012年は、東京御茶ノ水において地域の方々と共に「Action for Public Spaces Ochanomizu」事業のなかで開催いたしました。この事業では、アート・プロジェクトをおこなうと伴に、市民アンケートや管理者ヒアリングを実施していき、公開空地の文化芸術活動の現状把握やその展望について探っていきました。

今回対象となった公開空地は、JR御茶ノ水駅前の新お茶の水ビルヂングの公開空地と三井住友海上駿河台ビルの公開空地の2か所です。2012年10月6日(土)、7日(日)の2日間、御茶ノ水茗溪商店街と地元学生らによるアートイベント『お茶の水アートピクニック』※と連携したプログラムとして実施しました。

公開空地という街の公共空間は、文化芸術活動の場としていかに利活用できるのでしょうか?

PDFダウンロードはこちらから (7.1 MB)


※『お茶の水アートピクニック』はJR御茶ノ水駅南側、神田駿河台エリアにおいて、2004年秋から継続的に開催されているアートイベント。2012年で9年目を迎えた。まちのスケッチ大会、小学生の演奏会、似顔絵コンテスト、ファッションショー、地元飲食店と連携したまちなかフードコートなど、お茶ノ水の市民プロデューサーたちによる“手弁当”でつくられている。

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PUBLIC ART magazine vol.4  7月4日 発行(配布終了)

20130621

特集 社会にエンゲイジしていくアートとは?
【Part1 コミュニティ形成に関わる試み】
海外では「ソーシャリー・エンゲイジド・アートSocially Engaged Art」(社会に関わるアート)の活動が定着しています。日本でもアートを介したコミュニティ活動が活発化しつつあります。今回の特集では「社会にエンゲージしていくアートとは?」をテーマに日本、欧米、アジアの事例を紹介し、その意味と今後の方向性を探ります。

• アメリカ流、アートの仕掛け—アートを道具とした、新しい姿のコミュニティづくり / 菊池宏子
• コミュニティの物語を紡ぐパブリックアート:LA コモンズの試み / 磯山智之
• アートで結ぶ人と人 / Revue (スリージャタ・ロイ&ムリティユンジャヤ・チャタジー)
• 公共性を可能にする、複数性をもつアート / 太田エマ
• 新潟県新発田市の写真プロジェクト:『写真の町・シバタ』 / 荒谷智子
• 東日本大震災とアートプロジェクト『マイタウンマーケット』と北澤潤の仕事の作法 / 佐藤李青
• 「芸術によるまちづくり」藤野の文化的遺伝子 / 大澤寅雄

Interview アーティストラン・プロジェクトの展望
アーティスト山岡さ希子によるヨーロッパでの現地取材。スウェーデン、オランダ、ドイツのアーティストへのインタビューをお届けします。

Report
• 世界文化遺産ショーモン領、アートと自然の融合へ / 平川滋子  他

International Review
• 糸の出来事 アン・ハミルトン / 高根枝里  他
 
Japan Review
• JR飯山線アートプロジェクト 河口龍夫『船の家』/ 森 桜  他
 
Book Review
• 記念碑に刻まれたドイツ 戦争・革命・統一 / 高須賀昌志  他

このマガジンは皆さまからの寄付金により制作しております。ご寄付いただける方は「ゆうちょ銀行 00180-6-262965 アート アンド ソサイエティ ケンキュウセンター」までお寄せいただきたくお願い申し上げます。

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「マディソンスクエア・パーク」のパブリックアート・プログラム
  Madison Square park – Public Art Program
  ―都市公園とコンテンポラリー・アート―

マディソンスクエア・パーク

マディソンスクエア・パーク


マディソンスクエア・パークは、ニューヨーク市マンハッタンのマディソン街とブロードウェイに挟まれた23丁目~26丁目に位置する都市公園だ。その広さは25,000㎡で、およそ東京の日比谷公園の約1/6程度の面積しかない。しかし、歴史的な建築として有名な「フラット・アイアンビル」(1902年竣工)や「エンパイア・ステートビル」(1931年竣工)がすぐ側に見えるという抜群なロケーションにある。スポーツアリーナやコンサート会場で有名な「マディソン・スクエア・ガーデン」とよく勘違いされるが、ミッドタウンの落ち着いたエリアにあり、都会的な雰囲気のある公園だ。ここを管理するのは「マディソンスクエア公園管理局(The Madison Square Park Conservancy)」という非営利管理団体で、ニューヨーク市公園局と連携して、公園内の植栽のメンテナンスや安全管理はもちろんのこと、文化芸術プログラムを実施しているのが特徴だろう。

公園としてのヒストリー
マディソンスクエア・パークは、ニューヨークの中でも活気の溢れる公園の1つだが、今日の姿に至るまでには地元の人びとによる努力の積み重ねがあった。
第4代大統領ジェイムズ・マディソンからその名がつけられ、1847年から都市公園としての長い歴史を持っている。19世紀の終わり頃、この周辺はマンハッタンで最も高級なエリアであったが、1990年代に公園は荒廃していった。ここまではマンハッタンの主要な公園によくある歴史だといえる。実際、数ブロック上にあるもう一つの人気公園の「ブライアント・パーク(Bryant Park)」も同じような憂き目に合い、一時は麻薬と犯罪がはびこる恐ろしい場所に陥ってしまった。マディソンスクエア・パークも、それまでの美しく歴史的な景観は破壊され、うす暗く危険な公園へと変わってしまったのだ。

整備の行き届いた美しい芝生

整備の行き届いた美しい芝生


この問題を解決するため、都市公園財団(マディソンスクエア・パーク管理局の前身)は公園再生のキャンペーンを行なった。その結果、メトロポリタン生命保険、ニューヨーク生命保険などの企業や個人から600万ドルの寄付が集まった。さすが寄付文化が根ざしたアメリカだという声があがるところだが、その後、マディソンスクエア・パーク管理局に変わってからも公園のメンテナンス費用として400万ドルを集めている。
その資金をもとに、公園を19世紀当初の美しいランドスケープに修復し、再びマンハッタンの生活の中心の場となるべく努力を続けた結果、青々とした芝生が再生され、色とりどりの花々や低木などの植栽が戻り、噴水は新たな水循環方式に変わった。さらに新しいエントランスや歩道、街燈も整備されていき、新生したマディソンスクエア・パークは新たな住民を呼び寄せていった。こういった努力の積み重ねにより、再び人びとが行き交う活気を取り戻し、安心して憩える空間に生まれ変わったのだ。

公園内の子供の遊び場

公園内の子供の遊び場


今では、「Shake Shack」という人気のハンバーガー店(New Yorkマガジンで“ベスト・バーガー” (2005年)に選ばれた)に人が集まり、屋外のテラス席ではビールやワインを飲む姿を見ることができる。子供の遊び場はもちろんのこと、愛犬用の「ドッグラン」も整備され、さらに(最近ではめずらしくなくなったが)無料のWi-Fiが整備され、ニューヨーカーに重宝されているようだ。

パブリックアート・プログラム
ゆったりした雰囲気のこの公園には、もう一つユニークな文化プログラムがある。公園に現代アート作品をインスタレーションしていくパブリックアート・プログラムで、マディソンスクエア・パーク管理局がマネジメントしている。このプログラムは、国際的に著名なアーティストやまだ経験の浅い新人アーティストを招聘して、公園にために新たに作品を制作してもらうという、いわゆるコミッション(委託制作)方式が取られている。展示期間は約3か月程度で、パーマネント(恒久的)な展示と異なり、テンポラリー(期間限定的)なプログラムで、世界でも一番といえるほど刺激が多いこの街の人びとを引き付ける工夫がなされている。

このプログラムがはじまった当初、2000-2003年の3年間は、NYの老舗的な非営利芸術団体である「パブリックアート・ファンド(Public Art Fund)」が運営を担っていた。トニー・オースラーやダン·グラハム、マーク・ディオン等の大物アーティストが招聘され、大いに話題を集めた。その後、アートプログラムの担当者を管理局内に置くこととなり、これまでにマーク・ディ・スベロ(2005年)、ソル・ルウィット(2006年)、ロキシー・パイン(2007年)、リチャード・ディーコン(2008年)、川俣正(2008年)、ラファエル・ロサノ=ヘメル(2009年)、アントニー・ゴームリー(2010年)、ジェウメ・プレンサ(2011年)、レオ・ビジャレアル(2013年)等の大物アーティストにコミッションを依頼している。

気になるのはその運営資金だが、ニューヨーク文化部門から公的サポートを受けている他に、多くの民間企業や財団、基金などからの寄付によって成り立っているという、街のなか芸術活動へのサポートが少ない日本と比較すると羨ましい限りだ。
このプログラムに関して、行政側の評価もまずまずで、たとえば、現代のメディチとも言われアート擁護派で有名なブルームバーグNY市長は、「マディソンスクエア·パークは、ニューヨーカーや観光客が好む場所となった。これにはコンテンポラリー・アートプログラムが大いに貢献している。」とご満足の様子だ。

マディソンスクエア・パークのパブリックアート・プログラムの詳細については、「マディソンスクエア・パーク管理局(The Madison Square Park Conservancy)」のHPを参照の事。



Orly Genger’s “Red, Yellow and Blue” (2013) at Madison Square Park
(2013年5月2日〜9月8日まで)

Red, Yellow and Blue (2013)

Red, Yellow and Blue (2013), Orly Genger


2013年5月には、オルリー・ジェンガー(Orly Genger)(※1)による『Red, Yellow and Blue』が展示された。作品タイトル通りに赤、黄、青といったカラフルな彫刻的インスタレーション作品だ。公園全体に海の波のようにうねる140万フィート(約426.72km)のロープが創る造形で、マンハッタンのほぼ20倍の長さに及ぶ再利用のロープが使用されたというから驚きだ。3500ガロン(約13,230ℓ)の塗料を使い、完了までには2年以上かかったという。ここでの展示が終わる9月の後は、ボストン郊外にある『deCordova Sculpture Park Museum』に移設される。

作品のそばで憩うニューヨーカーたち

作品のそばで憩うニューヨーカーたち


『Red, Yellow and Blue』は、季節の花々に彩られ緑の木々に覆われたこの公園の中に“上質な介入”をし、公園の景観を鮮やかに変質させている。
解説によると、この作品タイトルである、Red, Yellow,Blueは単に作品の色を表わしているのではなく、「カラーフィールド・ペインティング」でその名を知られるバーネット·ニューマンによる1960年代後半のシリーズ作品『Who’s Afraid of Red, Yellow and Blue?』からヒントを得ているという。ジェンガ—は、リチャード·セラやフランク·ステラのミニマルリズムの伝統を踏襲しつつ、かつ彼女自身の美学を追求しているようだ。
加えて、作品素材であるロープを“編む”という行為は、どこか親密でドメスティックな女性性を感じさせ、女性の表現の一つであった手芸の伝統を思い起こさせる。しかしその一方で作品のスケール感やモノリシックな表現は“男性的”で揺るぎのない構造を同時につくりだしているといえるだろう。

Red, Yellow and Blue (2013)

Red, Yellow and Blue (2013), Orly Genger


(※1)オルリー・ジェンガー Orly Genger(1979〜)
ニューヨーク市ブルックリン在住。2001年ブラウン大学から学士号を取得、2002年シカゴ・アート・インスティテュートで学ぶ。



(文:Yasuyo Kudo)

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