作品を「受け取る」とは?
― 御茶ノ水駅前でのパフォーマンスを終えて ―

御茶ノ水駅前でのパフォーマンスを終えて、準備期間から本番中まで様々なことを感じたが、その中でも特に、作品の「受け取り」とは一体なんなのだろうかと改めて考えさせられた。

多くの通行人が行き交う御茶ノ水駅前広場

多くの通行人が行き交う御茶ノ水駅前広場


会場となった御茶ノ水駅前はいつも多くの通行人で賑わっている。JRやメトロを乗り継ぐ人、出勤する人、待ち合わせている人など、異なる目的を持って道を歩いている。
そこでパフォーマンスをするということは、ギャラリーで作品を展示するのとは違い、「見るつもりではない人」も、「見ることになる」という状況が生まれる。その状況が、作品の「受け取り」にいつも以上の多様性を作り出したように感じた。

まず、今回の作品の概要を説明すると、駅前広場中央にある時計台の上と下に一台ずつスピーカーを設置して、その2つのスピーカーを「ロミオ」と「ジュリエット」に見立てて、パフォーマーは少し離れた場所から「ロミオとジュリエット」の台詞を喋るというものだった。

少し離れた場所からロミオとジュリエットの台詞を喋る

少し離れた場所からロミオとジュリエットの台詞を喋る


当初の目論みとしては、突然聞こえてくるロミオとジュリエットの愛の告白に「軽く苦笑い」してもらえたら嬉しいと考えていた。それは今回のパフォーマンスを卑下して言っているのではなく、駅前を行き交う通行人それぞれが、それぞれに事情を抱えているけれども、その「それぞれさ」を、降り掛かるロミオとジュリエットの愛の掛け合いのアホらしさで「軽く苦笑い」に変えることができたらと考えていたのだ。だがしかし、はじめの予想に反して通行人の反応はもっともっと多様だった。

ヘッドフォンをしていて聞こえていない人
無視して通り過ぎる人
ちらっと顔を向ける人
指をさす人
連れの人と一緒に笑う人
苦々しい表情で立ち去る人
立ち止まって見上げる人
苛立つ人
苦情を訴える人
携帯を使って写真を撮る人
質問してくる人
などなど

上記以外にも、実にたくさん反応のバリエーションが見受けられた。しかし、「笑う」や「写真を撮る」などのポジティブな反応であっても、「苦々しい表情」や「無視する」などネガティブな反応であっても、これらは見て取れる範囲での反応でしかない。
もちろん立ち止まって、興味をもってくれているほうが、嬉しい。この時、作品は鑑賞されているのだろうし、なにより「鑑賞しているように見える」。だからといって、「立ち止まった人」より「写真をとった人」のほうが「より受け取った」のかを考えると、また分からなくなる。「受け取る」とは?「作品をみること」とは?

ちらっと顔を向ける人

ちらっと顔を向ける人


足を止めて指差す人

足を止めて指差す人


立ち止まって見上げる人

立ち止まって見上げる人


会期中、様々な通行人の反応を目にしていると、よりポジティブな反応を引き出せるようなパフォーマンスに心が傾いてしまうときがあった。これは特に、鑑賞者の眼差しを直接受け止めてしまうパフォーマンスという形式だからかもしれないが、「より受け取ったように見える状態」を目指してしまう気持ちが生まれた。しかし、そもそも今回この作品では何を伝えるのか?それは道行く人がみなポジティブな反応をすることなのか?果たして、自分は作品の受け取られ方をどこまで正確に想定していたのだろうか、など通行人の眼差しにさらされることで、はじめて実感する深い反省があった。

作品を作品として成立することを、公共空間というものは保証しない。
コーヒーショップにいる人は、入店した時点からすでに、コーヒーを飲みたいという選択をしているので、コーヒーを売られても困惑しない。しかし、公共空間でコーヒーをいきなり売りつけることは難しいだろう。公共空間で作品を見せることは、同様の難しさがあるように感じる。需要のない場所に供給することの空虚さを感じたり、一方で、純粋な意味で作品というものに需要と供給の関係式が当てはめられるのだろうかという疑問が出て来たりと様々な課題を感じた。

今回の御茶ノ水駅前でのパフォーマンスは、ギャラリーという場所としての保証や、見たいので来ているという積極性の保証のない、吹きっさらしの状態で多くの新鮮な反応に触れて、深い反省とともに自分自身の制作について見つめ直すとても良い機会になったと思う。

関川航平(グランプリ受賞アーティスト)

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第7回 「Collaboration」を読む (2014年1月10日)
 Education for Socially Engaged Art
 — A Materials and Techniques Handbook —

V  Collaboration 協働 (pp.51〜57) サマリー

SEAにおいてアーティストはプロジェクトの概念的ディレクターであり、コラボレーションのあり方は通常アーティストによって設定される。アーティストと参加者の役割を考える際の重要なポイントはアカウンタビリティと専門性(専門的技術)であり、相互間の説明責任をきちんと認識する必要がある。それには、Pablo Freireの批評教育学が参考になり、それは「知らないことを教えるのではなく、彼ら自身の専門性を発見して、これから彼らが何を知る必要があるかを自身で決めるのを助けること」なのである。
 またテーマや構成について、初めから決められていない枠組みを提供する必要がある。それは、特定のイシューにまつわる新たな視点を生み出すための経験をもたらし、方向付ける枠組みを提供することである。そのためにOpen Space Technology(OST)(集団でのブレインストーミングのひとつの形式)が有効であり、グループの必要性や関心事を理解する上で非常に参考になる。

ディスカッション

  • 海外ではアーティストが主導して活動をはじめることが主流だが、日本の場合、行政や関係団体が枠組みや目的を予め決めてアーティストを招聘するというやり方が多い。
  • この差異よって、アーティスト役割、参加者との関係性が大きな影響をうけるといえるだろう。
  • 海外の場合は明確なイッシューがあり、それに向けて具体的な解決策を探ろうとする活動が多いといえるだろう。
  • グリーンズなどで紹介されている活動との違いは?ソーシャル・デザインとの違いは?
    アートである。

  • 著者はアーティストが主導してコミュニティに入っていく活動と、コミュニティからの要請で入っていっていっしょに考える、コミッションされるケースと両方あると述べている。
  • この場合の双方の説明責任と枠組みのつくり方には当然違いがでてくる。
  • 予め枠組みが規定されてなく、参加者とともに考える、というプロセスにもってゆくことが重要でありそうだ。しかし、実際問題参加者がそこまで能動的に参加する事例は少ないといえるだろう。
  • その意味で批判的教育学、OSTの手法は有効だし、アーティストが一方的にリードするような手法を回避するための考え方として、参考にすべきだろう。
    (モデレーター 清水)

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    第6回 「Conversation」を読む (2013年12月12日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅳ Conversation  会話 (pp.39〜49) サマリー

    SEAでは、目的(たとえば、あるテーマについて共通の理解に到達したり、ある問題について注意喚起したり、特定の問題を議論したり、最終成果を協働で作り上げること)を達成するために、アーティストとコミュニティとの会話が重要になる。会話は、内容の特性と形式の特性の掛け合わせによって、形式張ったレクチャーから日常会話まで、いくつかの類型に分けられる。しかし、多くのSEAアーティストはこういった会話の構造を学ばずに、直感と試行錯誤に基づいて会話を行っていることか多い。プロジェクトの目的を達成するには、アーティストは会話の構造を理解し、また、参加者の問題に対するエンゲイジメントのレベルに応じて、会話を構築する必要がある。
    SEAプロジェクトにおいては、アーティストは功利主義的になったり、父親的温情主義に流れたりするのではなく、コミュニティの利益や関心事に真摯に向き合い、会話の参加者がコンテンツを投入(インベスト)しやすい構造を用意し、アーティストと参加者の交換によって新しい洞察が生まれるような関係を築かなければならない。

    <会話の構造>
    会話概念図

    ディスカッション

     

  • この章は、概念的な内容。会話の構造が図示されており、会話の主宰者はこれを意識すへきだが、SEAにおける具体的な事例があればより分かりやすい。
  • たとえば、会話が目指すゴールは“真実と洞察(truth and insight)”であるというが、どのようなことか。
  • SEAではアーティストがファシリテーターとなって会話をつくり出し、コミュニティの問題に取り組む場合が多いが、これはコミュニティ・デザイナーとどう違うのか。
  • アーティストとコミュニティの間の距離の取り方は? アーティスト・イン・レジデンスなどでは、どちらも不満を感じる場合がある。
  • この本ではSEAのプロセスに焦点を当てて議論しているが、アートとしての評価も重要だ。「なぜアートなのか」という説得力が、特に日本では必要ではないか。
  • SEAでは、ディスカーシブ・モデル、ディスカーシブ・スペースなど「ディスカーシブ(discursive)」という言葉が頻出する。dscursiveは、discourseから派生した言葉で、dialogicまたはconversational(対話型・対話型)と同じような意味で、制約のない(open-ended)会話から何らかの結論・合意に到達しようとするときに使われる。日本語でぴったりした訳がないので、考える必要がある。
    (モデレーター 秋葉)

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    第5回 「Situations」を読む (2013年11月 22日)
     Education for Socially Engaged Art
     — A Materials and Techniques Handbook —

    Ⅲ Situations  状況 (pp.27〜38) サマリー

    ソーシャリー・エンゲイジド・アートが関わるコミュニティにはそれぞれ特有の社会的シナリオがある。その多様性を理解することがプロジェクトを成功に導くカギとなる。本章では、SEAプロジェクトで生じる典型的な状況について、著者は3パターンの架空なシナリオを想定し、プロジェクトを進める際にアーティストが直面するであろう葛藤とその対処について、シナリオごとにあぶり出していく。プロジェクトに対するコミュニティの期待や、アーティストがそれを認識した上で、いかに人びとの認識を変化していくことができるのか、対人関係の分析心理学、社会学の理論を援用しつつ読み解いていく。さらに、 ソーシャル・ワークとSEAの対人関係におけるアプローチの類似点と相違点をあげ、両者を同一化してしまう危険性を指摘しながらも、ソーシャル・ワークの実践からSEAプロジェクトを行う上でアーティストが学ぶべき点を明らかにしていく。

    ディスカッション

    【SEAプロジェクト始まり、成り立ちについて】

  • アーティストが対象コミュニティの課題を見極め、自身のプロジェクトのテーマとして取り組む意思を固める前に、早々とSEAプロジェクトを開始してしまうことは問題ではないか? SEAは何故行われるのか?そもそもその場(コミュニティ)に必要とされているのか熟考すべきなのではないか。
  • アーティスト側の課題として、自身の関心事を優先してプロジェクトを始める事が多く、コミュニティを最終的には利用してしまうケースも見受けられる。

    【コミュニティとの関係】

  • アーティストがコミュニティに寄り添い過ぎることも、乖離し過ぎることも良い結果にはならないだろう。日本におけるアート・プロジェクトは、前者であることが多いのではないか。

    【ソーシャル・ワークとの相違】

  • ソーシャル・ワークはそもそも自己表現を目的としていない。SEAはアートの表現行為であり、自己表現である。時には調和的な結果を求めるのではなく、社会的な批判性を持ち合わせるものだ。
  • 両者には類似点が多くあるが、むしろ違いこそが重要なのではないか?他の研究者や評論家らがSEAの特色をいかに捉えているか今後調査していく必要があるだろう。
    (モデレーター 工藤)

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    「ART×公開空地―都市に介入するアート・コンペティション―」授賞式

    「ART×公開空地―都市に介入するアート・コンペティション―」の授賞式が3月7日、新お茶の水ピルディング3階Cafeteria2&2で開催され、グランプリ、準グランプリ受賞者に審査委員長の瀬川昌輝氏より賞金と記念品が手渡されました。

    グランプリを受賞した関川航平さんと栗原千亜紀さん

    グランプリを受賞した関川航平さんと栗原千亜紀さん

    準グランプリを受賞した岩塚一恵さん

    準グランプリを受賞した岩塚一恵さん

    準グランプリを受賞した小川泰輝さん

    準グランプリを受賞した小川泰輝さん

    授賞式に引き続きプレゼンテーション・トークが開催され、受賞アーティスト4名が、本コンペのテーマであった「本とまち」についての解釈や、御茶ノ水駅前広場の空間をどう捉えたかなどを過去の作品紹介を交えながら発表しました。プレゼンテーション・トークに引き続き交流会が行われ、審査員の先生方からの講評をいただいたりと和やかな雰囲気の中、終了しました。

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    ART × 公開空地 ― 都市に介入するアート・コンペティション ―
    グランプリ受賞作品の発表とアーティス・トーク開催のご案内

    『ART×公開空地 – 都市に介入するアート・コンペティション – 』では、グランプリ作品の展示場所にあたる御茶ノ水の特色を反映した「本とまち」をテーマに、作品を募集しました。多数の応募作品の中から、関川航平と栗原千亜紀によるパフォーマンス『駅前ラブストーリー ロミオとジュリエット編』がグランプリを受賞。都市の貴重なオープンスペースである“公開空地”に光をあてた若手アーティストの作品を発表します。
    また、初日にはグランプリ、準グランプリを受賞したアーティストによるプレゼンテーション・トークを開催いたします。


    グランプリ受賞作品の発表(パフォーマンスの上演)


    日時:2014年3月7日(金)~3月11日(火)の5日間  
       11:00~16:30(7日は17:00まで)
    場所:御茶ノ水駅(聖橋口)前広場

    雨天中止/小雨は行う場合があります/予定変更の場合は本ページでお知らせいたします/上演時間内に休憩を何度か挟みます

    『駅前ラブストーリー~ロミオとジュリエット編~』
    御茶ノ水駅前はオフィス街ということもあって通行人が多く、そのほとんどが会話もなくただすれちがうだけです。そんな御茶ノ水駅前の日常に無理やり「ラブストーリー」を重ねたらどうなるか?通行する人々に『ロミオとジュリエット』の台詞をリアルタイムでアテレコ(動きにあわせて音声をふきこむ)することで、通行する人々を次々にロミオにする。無理やり駅前の空間を『ロミオとジュリエット』として「読む」ことでささやかな関係性の変化を生みたいと考えます。3月7日から11日までの5日間、御茶ノ水駅前広場で無理やり『ロミオとジュリエット』を上演!?します。

    公開空地フライヤー表web用

    クラウドファンディングサイト「Motion Gallery」にアーティストがファンディングページを開設しています。アーティストへのご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。
    https://motion-gallery.net/projects/ekimaelove

    フライヤーPDFダウンロードはこちらから (2.2 MB)


    アーティストによるプレゼンテーション・トーク


    日時:2014年3月7日(金)18:30~19:30 (授賞式18:00~ )
    場所:新お茶の水ビルディング3階 Cafeteria 2&2 参加費:無料

    ※アーティスト・トーク終了後に交流会を予定しています。参加費:1000円

    グランプリと準グランプリ受賞アーティストによるプレゼンテーション・トークを開催いたします。テーマである「本とまち」をどのように解釈したか、御茶ノ水駅前の公開空地をどう捉えたかなど、自作について語っていただきます。

    グランプリ受賞アーティストプロフィール

    関川航平(せきがわ こうへい)
    筑波大学芸術専門学群特別カリキュラム版画コース卒業/千代田芸術祭 2013パフォーマンス部門「おどりのば」参加/TERATOTERA祭り2013@西荻窪 TEMPO de ART参加横浜ダンスコレクションEX2014 新人振付家部門出場/無作為であることはどのようにして可能かをテーマに、インスタレーション・パフォーマンスなど。ジャンルを問わず制作している    http://ksekigawa0528.wix.com/sekigawa-works

    栗原千亜紀(くりはら ちあき)
    玉川大学芸術学部ビジュアル・アーツ学科卒業/千代田芸術祭「3331EXPO」パフォーマンス部門「おどりのば」など参加/RAFT 「ICiT Dance Salon in RAFT_6 10 minutes」参加/RAFT 「ICiT ダンス 10 minutes アンコール+」参加

    準グランプリ受賞アーティストプロフィール 

    岩塚一恵(いわつか かずえ)
    筑波大学大学院人間総合科学研究科芸術学専攻 博士前期課程 修了/神戸ビエンナーレ2011高架下アートプロジェクト 入賞/神戸ビエンナー2011レジデンス/ ART KAMEYAMA 2011 入選/大地の芸術祭越後妻有アートトリエンナーレ2009 レジデンス

    酒井亮憲(さかい あきのり)
    東京芸術大学大学院美術研究科博士後期過程 単位取得退学/studio[42] 主宰/Stuttgart芸術大学 州財団奨学金留学/財団法人吉岡文庫育英会奨学金/ドイツ Baden-Württemberg州奨学金

    小川泰輝(おがわ ひろき)
    東北大学大学院工学研究科 助手/「青葉山レインガーデン」SDレビュー2011入選/2012年度グッドデザイン賞受賞/「Sendai OASIS」5th International Architecture Biennale Rotterdam Exhibition 『Smart Cities – Parallel Cases 2』 Winner

    ※公募作品の展示をECOM駿河台にて3月3日(月)〜3月7日(金)開催中です。
    特別賞は市民投票により『にーてんご』(横山千夏+江町美月)に決定しました。
    投票にご協力いただき、誠にありがとうございました。

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